part.11-18 チェルニーの激闘
その後、僕は一週間の間、チェルニーの洞窟へ突入するメンバーの一人となる為、ただひたすらに訓練を重ねた。時にはモンスターを、時にはルーディさんやイヴァンカを相手に剣術の訓練だ。とは言え剣術とは名ばかりで、二人ともただ僕に剣を振らせるだけで技術は何一つ教えてはくれない。お陰で毎日倒れそうだ。時には嘔吐だってしたことすらある。それでも……、
——それでも僕が必死に足掻く事が出来る理由、それは『生きる』事への渇望だ。今、ルーディさんに見放されてしまえば異世界では僕と栞の二人だけになってしまう。果たしてこの非力な二人で異世界を生き抜く事が出来るだろうか?可能性はあるだろう、でも限りなく低い。だから誰かに認められ、誰かの仲間として生きていく……それを強烈に意識しているからこそ非力な自分でも足掻く事が出来ているのだ。
「……ぁ」
不意に、何処かから声が聞こえてきた。……なんだ、今良いところなのに……!
「おい、翔太!!」
「……はっ!」
急に聞こえてくる控えめな罵声と頭を叩かれる様な感覚、一体何が!?
「お前はまた授業中に居眠りか!?最近調子に乗ってるようじゃないか?」
その言葉と共に周囲から嘲笑うような笑い声がある。声の主は授業の先生だった。そうだった、今僕は現実世界に居る。そして授業の真っ只中だ。
「……す、すいません」
「暫く起立していろ!眠気も取れるだろう」
言われて僕は素直に席を立ち、そのまま授業を受けた。
——それでも僕が必死に足掻く事が出来る理由、さっき言ったのは全部嘘で、本当は現実世界で死んだように眠っているからだ。
◉ ◉ ◉
とは言え現実世界での僕は模擬試験を控える立派な受験生、授業中居眠りしていた僕が言うのも説得力に欠けるが、休んでばかりはいられない。基本的には部活動の時間を利用して授業の復習を行っている。そして、帰った後に死んだように寝ているのだ。最近はそんな一日のルーティンとなっている。
◉ ◉ ◉
そして遂に、クイーンフォックス討伐作戦の前日までやって来た。特に何もしていないのにそれを意識するだけでアドレナリンが分泌される。僕はカドゥ村の宿屋を抜けるとルーディさんと合流した。
「……え、今日の訓練は中止!?」
「ああ、お前のパフォーマンスは十分なものに達したと判断した。これ以上の高望みは今のところしない」
と、ルーディさんは言った。
「……分かりました」
そう言って宿屋に戻ろうとした僕をルーディさんは引き留めた。
「……とは言え、何もしないのも返って辛いだろう。今のうちに仲間と話してみるのも良いだろう」
「それもそうですね、分かりました!」
言って僕は宿屋を後にした。
◉ ◉ ◉
まず僕はイヴァンカの家を訪れた。ドアをノックして暫くの後、部屋の主であるイヴァンカが現れた。
「おや、珍しい客人だな?」
「やあ、今日の訓練は中止だとさ?」
「ああ、伺っているよ。それを伝えに来てくれたのかい?」
「まあ、それもあるんだが、明日のことでも話したいと思ってね?」
僕はどもるように喋る。……何というか、栞や茜以外の女性と話をするのはあまり慣れないものだ。
「ああ……それなら、少し待っていてくれ」
言って、イヴァンカは家の中へ戻っていった。支度を終えたのだろうか?暫くして衣服が整ったイヴァンカが現れた。
「一緒に村を歩こう、案内してあげるよ?」
「あ、ああ。よろしく」
イヴァンカの言葉にまたもどもる僕だったが、それを気に留める事も無くイヴァンカは僕の前を歩き出した。
◉ ◉ ◉
「村はどうだ?こんな状況でも賑やかなものだろう?」
村を回りながらイヴァンカはそう尋ねた。『これってデートになるのだろうか?』とか思ってそわそわしたが、なんかイヴァンカの方は気にしていないらしいし、だんだんどうでも良くなってきた。
「ああ、それにのどかで良い場所だ」
「ははっ、そうだろう!」
イヴァンカは誇らしげにそう言った。そう言ったところで不意にイヴァンカの足が止まる。
「……っと、翔太、これを見てくれ」
「……?」
イヴァンカの視線の先には露店があった。中を覗くと数種類の木の実が売られている。
「アモール産だな?買っていかないか?」
「悪い、木の実は苦手でね?」
イヴァンカの言葉に僕は申し訳無さそうに答えた。市販のチョコレートとかあの辺に入っているアーモンドとかあの辺って本当に何なんだろうなと思う。前に気付かず買って痛い目を見た。純粋にチョコだけを食わせてくれよ。まあ、カカオも木の実と言えば木の実だけれども……。
「そうなのか?アモールの森で採れた木の実は僅かながら魔力を受けていてね、食べるとその加護を微かに受けるんだとか?」
言いながらイヴァンカは自分の分を買い、『試しに食べて見ろ?』と言わんばかりに手渡してきた。渋々といった感じで受け取り、咀嚼する。歯で砕く度に僅かながら渋みを感じる。飲み込めない程とは言わないが、やはり好んで食べる味ではない。
「うーん、やっぱりダメだな」
「はははっ!だが、君がアモールの森に出向いて、アルミラージを殲滅していなければ、今頃ここに商品が出回る事は無かっただろう。これは君の功績だ」
と、イヴァンカは言った。……そうか、この木の実はアモールの森で採取されたものだと言っていた。
「まあ、あの時僕達がアルミラージを殲滅出来たのはルーディさんのお陰なんだがな?」
と、僕は答える。
「それもある。だが、ルーディ商人は『ショータのお陰だ』と、言っていたぞ?」
「え、そうなのか!?」
と、僕は答えた。正直僕はどちらかというと迷惑を掛けた方だ。とてもじゃないが、ルーディさんの役に立てたとは思えない。
「まあ、嘘だけど」
「はあ!?」
イヴァンカに綺麗に騙され、僕は赤面する。それを見たイヴァンカは「からかいがいがあるな!」と笑われた。
「だけど少なくとも村の皆は『ルーディ商人のパーティ』に感謝している。勿論君もその一人だ。だから……」
そう言ってイヴァンカは一拍置いた。
「だから、私も君達のパーティに加入したいと思っている」
「え……」
思いもしなかったイヴァンカの言葉に僕は絶句した。
「……まあ、ルーディさん次第かな?彼に話は?」
なんて返せば良いか迷った結果、僕は答えを保留にした。まあ、僕一人で決めて良い内容じゃないからね?仕方ないね?
「まあ、そうだな!ルーディ商人にはまだ話していないよ。クイーンフォックスの件が落ち着いたら話すつもりだ」
「そうか……」
と、僕は呟いた。
◉ ◉ ◉
その後、村を歩きながらイヴァンカと様々な事を話した。イヴァンカの父が亡くなった事、それを基に冒険者になると決意した事……多くの事を聞くことが出来た。……そういえば最初に言ってた『明日のこと』についての話は出来ていない。まあ良いか、どうせこじつけだったし……。
「じゃあな!」
イヴァンカと昼食を取った後、僕らは解散となった。僕はそのまま帰るのではなくカドゥ村村長の家へ向かう。目的は栞に会う為だ。栞は今、村長の家に泊まっているのだ。ドアをノックすると、栞ではなく、村長の奥さんが現れた。
「ああ、いらっしゃい。シオリかい?」
「ええ、今大丈夫ですか?」
「シオリなら今はヘンシェルの所だよ、行ってみるといい」
と、村長の奥さんは言った。ヘンシェル?魔法の座学でも行っているのだろうか?勤勉なことだ……。
「ありがとうございます!」
一礼の後、僕はヘンシェルさんの元へ向かった。
◉ ◉ ◉
『向かった』とか言っておきながら僕はヘンシェルさんの家を知らない為、近くの人に聞いて回りながら何とかたどり着いた。どうやら村の最も栄えてある場所からは少し離れた所にあるようだ。随分と妙な場所にあるものだ。
「……」
目の前のドアをノックする。暫くして、家の主、ヘンシェルさんが現れた。
「おや、君は……」
「お邪魔してます。栞は?」
「彼女なら今、魔法の座学中だ。上がっていくかい?」
ヘンシェルさんに催促され、僕は家の中に上がった。中は不思議な装飾が所々になされている。魔法の何か、だろうか?
「……あ、兄さん!」
中で栞が一人本を読みふけっていた。栞の言葉に合わせ、僕は手を上げる。
「彼女、かなり魔法の才能があると見たんだ。かなりギリギリになってしまったけど、アイスニードルを習得できたよ。決戦に間に合って良かった!」
ヘンシェルさんは嬉しそうにそう言った。栞の方は「もう……そんなこと無いですよ」と、なんだか照れ気味だ。
「そうですか、良かった……」
ヘンシェルさんの方を向いて僕はそう言った。
「ところで兄さん、私に用事って?」
席を立って栞は僕の方へ駆け寄る。
「いや別に?ただ何してるかなって」
「そっか、私なら魔法の勉強だよ。魔法って凄いんだね!色々な事が出来るんだから……」
「そうだな、僕も初めて魔法を使った時はとても驚いたよ」
楽しそうに言う栞に僕はそう答えた。
「初めて使った魔法、それってもしかして『シュバルツ・アウゲン』の事かい?」
その会話にヘンシェルさんが割り込んでくる。
「ええ、アモールの森での事です」
そう、僕はアモールの森で初めて情報処理魔法『シュバルツ・アウゲン』を使用した。お陰で栞やルーディさんのペット『シェリー』を見つけ出す事に成功したのだ。後で聞いた話だとシュバルツ・アウゲンは非常に強力な魔法で未熟な人間が使えば死に至る原因になり得るのだとか……。まあどのみち今、僕は魔力を持たないから使えない物なのだが……。
「そうか……」
暫くの間、思案顔になった後、ヘンシェルさんは次のように言った。
「それなら、君も学んでいくかい?情報処理魔法」
◉ ◉ ◉
その後、軽くヘンシェルさんに魔法を教えて貰う事になった。軽くさわりの部分を聞いた後、初級の情報処理魔法『シュリュッセル』についてを学んだ。シュリュッセルとは、特定の鍵穴に合う鍵を見つけ出す魔法になる。
「ということで、ここに3つの南京錠を用意した」
言って、ヘンシェルさんはテーブルの上に鍵が掛かった3つの南京錠、それに3本の鍵が無造作に置かれた。
「この3つの南京錠に合う鍵を魔法で当てて欲しい、魔力源は栞に借りると良いだろう」
言って、栞の肩から水の妖精『ソフィー』が顔を出した。
「やあ、数日ぶりだね!」
「ああ、よろしくな?」
僕がそう言うと、ソフィーは僕の肩に飛び乗った。アモールの森で受けた魔法にはほど遠いが、自分の身体の内側に魔法の力がこみ上げてくる。
「兄さん、頑張って!」
栞の応援を背に、僕はテーブルの上に置かれた鍵に目を向けた。適当な1本を取って目を閉じる。
「シュリュッセル!」
詠唱と共に様々な情報が流れ込んできた。鍵の形状から色、材質まで様々なものだ。
「くっ……!」
意外にも多い情報量に思わず顔を歪ませる。それでもシュバルツ・アウゲンにはほど遠い情報量だ。はっきり言ってどうという事は無い。
「いいね!この鍵に合う南京錠はどれだい?」
ヘンシェルさんに催促され、3つある南京錠の内、手前にある南京錠に目を向ける。魔法で得た南京錠の中身と鍵の形状を照らし合わせる。鍵と鍵穴の凹凸を比べるが、いくつかかみ合わない箇所がある。と言うことは恐らく違うのだろう。次の南京錠、これもいまいち合わない。ということは……、
「これ、かな……?」
僕は呟きながら、手に持つ鍵を南京錠に差し込んだ。緊張の中、ゆっくりと鍵を回すと……、
「あ、開いた!」
「ガチャッ」という音と共に南京錠のツルが開く。安堵の溜息と共に鍵を元の場所に戻した。
「す、凄い!流石、初めてでシュバルツ・アウゲンを使っただけの事はある!」
ヘンシェルさんの言葉に応えながらも残りの鍵を選別していった。
◉ ◉ ◉
その後、残りの鍵も全て正解し、今日は解散となった。なんか、あっけなかったな……。宿屋へ戻ると、ルーディさんが待っていた。
「どうだった?」
「ええ、色々な話を聞けました。魔法も勉強しましたし……」
「そうか、じゃあ、今日はもう大人しくしておくと良い、明日の準備を怠るなよ?」
「はい!」
そんな短い会話の後、僕は部屋に戻っていった。クイーンフォックス討伐の為にチェルニー山脈には長い時間滞在する必要がある。野営の為の準備をいくつかする必要があった。
続く……
TIPS!
スライムファージ①:炎に弱く、火気に触れると一瞬で蒸発してしまう。




