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part.11-11 チェルニーの激闘

「そこの少女、僕と契約してくれないか?」

 再びその声が聞こえてきた。

「……誰なの?」

 栞は動転気味にそう尋ねる。

「ボクは『ソフィー』アモール様の使い魔だ」

 ソフィーと名乗る存在はそう答えた。『アモール様』というのは例の泉の事だろうか?

「アモールの森に向かう途中だったんだけど、急に奴らが襲ってきたんだ!」

 ソフィーは続ける。なるほど、レイジフォックスに見つかって遠吠えを放っていたのはソフィーを見つけて標的にしていたのか。

「……そこの少女、君は魔法使いだろう?だったら、ボクと契約すれば魔力が手に入る。一緒に協力してこの窮地を打開しよう!」

 ソフィーは栞にそう言った。

「……ど、どうしよう?」

 栞は困惑気味にそう呟く。『アモールの泉』は、正直な話残酷な考えを持っている。その使い魔となるソフィー、正直信用しても良いか僕には分からなかった。でも……、

「栞、やってくれ!時間が無い」

「ああ、このままじゃ全員討ち死にだ!」

 僕は栞にそう言った。イヴァンカもこれに同意する。

「わ、分かった!……ソフィー、私と契約しよう!」

「良かった!それじゃあ行くよ!!」

「え!?ちょっと待っ!」

 言い切る間もなく栞も周囲に光が形成された。


◉ ◉ ◉


「……ここは?」

 栞が目を開くと、光に包まれた空間が広がっていた。目の前には蝶のように鮮やかで、そしてガラスのように透き通った羽を背中に持った妖精が立っていた。

「初めまして、ボクはソフィー、キミの名前は?」

「わ、私は栞……佐伯 栞!」

「栞か……まずはキミと出会えた事に乾杯だ!」

 栞の手に鮮やかな装飾のゴブレットが出現する。手に取ると無色透明な水が汲まれていた。

「さあ、飲んで?」

 ソフィーの催促に従い、栞は水を飲む。

「……おいしい!」

 水を飲んだ栞はそう答える。特に味があるわけでは無いが、柔らかな水の感触が喉を通り、彼女の喉を潤す。

「泉の水は澄んでいる、この味は何処の水でも出せない特別な魔法なんだよ?」

 と、ソフィーは言いながら自分も水を含む。上品にゴブレットを口に運ぶその姿は現実感の無い美しさがあった。

「さあ、契約完了だ!これから一緒に戦おう!」

 ソフィーがそう言うと、再び栞の周囲に光りが覆われた。


◉ ◉ ◉


 一時の後、栞の光は収束する。彼女の肩にはもう一匹の妖精がいた。恐らくあれが『ソフィー』なのだろう。

「栞!大丈夫か!?……っ!」

 僕は栞にそう言った。思わず立ち上がろうとして傷が開く。

「うん、私は大丈夫。多分魔法もまだ使える。兄さんこそ無理しないで?」

 栞は僕をなだめる様にそう言った。

「初めまして、ボクはソフィー、ここで出会えたのは何かの縁だよ。一緒にここを切り抜けよう!」

 ソフィーは僕達の前で会釈した後、栞の前に相対する。

「栞、キミの得意魔法は?」

 ソフィーは栞にそう尋ねた。

「得意……っていうか、今私が扱える魔法は『ファイア・シェル』だけだよ?」

 栞はそう答える。

「炎魔法か……残念だけど、ボクの苦手分野だね」

 ソフィーはそう答えた。

「……苦手分野だと何かあるの?」

 栞はソフィーにそう尋ねる。

「苦手分野の魔法は魔力を通常よりも多く消費してしまうんだ。術者のコントロール能力にもよるけど、ファイア・シェルなら撃てて3発が限度だよ?」

 ソフィーはそう答えた。

「3発……闇雲に撃てる数じゃないね」

「それなら私と一緒に動こう!翔太を守りながらここを突破するぞ!」

 栞が思案顔になっている中、イヴァンカがそう言った。

「姉さん!……分かった、行こう!」

「ああ!栞、私が言った時に魔法を放ってくれ!」

 言ってイヴァンカがレイジフォックスの群れに進んでいく。栞はその後ろから彼女の背中を追っていった。

「……栞の魔法が撃てる様になったとはいえ、まだまだジリ貧だ……どうする?」

 僕がそう呟いていると、僕の側にソフィーがやって来た。

「察するに、キミは栞のお兄さんかな?かなり酷い怪我を負っているね?」

 と、ソフィーは言った。……何で僕が栞の兄だと分かったのかは謎だが、取り敢えず「そうだ」と、肯定する。

「やっぱりか!なら、キミを守らないと……ん?」

 少し思案顔になった後、ソフィーはこう言った。

「……アモール様の匂いだ!と言うことは、キミはアモール様と面会があるのかい?」

 ソフィーは驚いた様な表情でそう言った。……というか、現在戦闘中であるにも関わらず、こうして流暢に会話をしている。自由人なのだろうか?(人では無いけど……)

「ああ。一時的にだが、アモールの泉と契約したこともある」

 僕がそう言うと、ソフィーはその目を大きく見開いた。

「本当なの!?そいつは凄いや!……それなら、アモール様に言えばキミの怪我を治して貰えるかもしれないね!」

 と、ソフィーは言った。

「本当か!?……っ!」

 ソフィーの言葉に飛び起きた反動で強い痛みが走る。

「うん!アモール様は凄いんだ!その程度の怪我ならすぐに治してくれるよ?今からキミをアモール様の元へ送り届けるから少し待っていてくれ!」

 そう言ってソフィーは僕の周囲を飛び回る。彼女の軌跡に白く輝く線が描かれていった。

「さあ、アモール様の元へ!」

 ソフィーが言い放つと、今度は僕の周囲を光が覆い尽くした。


◉ ◉ ◉


 目を開くと青く、暗い空間が広がっていた。所々に浮かぶ泡沫はここが水中である事を示している。上も下も分からないまま藻掻いていると、脳内に直接声が聞こえてきた。

「……まったく、ソフィーには困ったものだ」

 聞き覚えのある声、それは『アモールの泉』そのものだった。

「やあ!また会ったね、少年?」

 気を取り直したのか、アモールの泉はそう言った。

「ああ、あの日以来か……」

 僕はそう言った。

「ソフィーから話は聞いてるよ。なんでも、キミは今怪我をしているそうじゃないか?」

 『アモールの泉』はそう言った。しかし、まだ『アモールの泉』が僕の怪我を治してくれると決まった訳では無い。

「ああ、レイジフォックスに襲われて戦えない程の大怪我を負ってしまったんだ」

 僕は続ける。

「……頼む!僕を、僕達を助けて欲しい!!」

 言って、僕は上も分からないまま頭を下げた。

「……『僕達』?それって誰の事だい?」

 泉はそう尋ねる。

「『助けられる』なんて、僕の力ではうぬぼれかな?でも、一緒に戦いたいんだ!ルーディさんやイヴァンカ、それに妹である栞と戦いたい!だから、今だけ力を貸して欲ししい!!」

 僕は泉の中でそう叫んだ。

「……はぁ、ソフィーに免じて今回だけは助けてあげる。でも……」

 泉は更に続ける。

「ボクは無償の善意が嫌いだ。与えるのも貰うのも……どちらも嫌い。だから、キミが今後ボクの力を身勝手に欲する様なら、その時は許さない」

 冷たい声だ。魔法でも無いのに身体が芯から震え上がる。

「ああ、分かっているさ!」

 僕は震える身体を押さえ、そう言った。

「それから今回の件は秘密にしておいてくれ。この事が不特定多数の人間に知れたら、多くの人間が力を身勝手に求めてくる」

 泉はそう言った。

「それもそうだな……分かった!」

「よろしい!それじゃあ目を閉じてくれ」

 泉の言葉に従い、僕はゆっくりと目を閉じた。


◉ ◉ ◉


 再び目を開くと、目の前は平原が広がっていた。僕達はレイジフォックスの群れに囲まれており、イヴァンカと栞が必死に戦っている。僕は岩陰に寄りかかっていた。

「……治ってる……!」

 先程まで受けていた傷が嘘のようだ。身体も自由に動く。僕は自分の身体を試す様に、飛び跳ねながら起き上がると、自らの腰に下げている剣を抜いた。勢いよく地面を蹴って走り出し、標的を見定める。

「きゃああああああ!!」

「し、栞!!」

 見ると栞がレイジフォックスに襲われそうになっていた。イヴァンカもカバーしきれないらしい。だけど、今誰のヘイトも引いていない僕なら間に合う……!

「うおおおおおおおおおお!!」

 ——ザン!!

 勢いに任せて飛びついたレイジフォックスに真横から斬りつける。レイジフォックスは悲鳴を上げる間もなく絶命した。

「……兄さん!?」

「翔太!?け、怪我は……?」

「もう治ったよ……!それより」

 僕は目の前のレイジフォックスを睨み付ける。


続く……


TOPIC!!

妖精『ソフィー』


アモールの泉の使い魔となる妖精。


透き通った赤と暗い青、黒で構成されたステンドグラスの様な鮮やかな羽が特徴的で、

一人称が「ボク」であるが、雌型の妖精となる。


「アモールの泉」からの魔力を受け継いでおり、水魔法との相性が良く、

水場さえあれば自身でも魔法を操る事が出来る。

ソフィーが持つ魔力自体は少ないものの、

アモールの泉は純度の高い魔力を持っており、通常の魔法よりも相性の効果が高い。


この為、純粋な水魔法のみであれば、高い精度と威力の魔法を放つ事が出来、

ソフィーの魔力だけでは到底不可能な中級魔法も理論上放つ事が可能である。


アモールの森にアルミラージが住み着いて以来、ソフィーは住処を奪われていたが、

最近になってアルミラージが消滅したとの噂を受け、森への帰路に付く。

その途中、レイジフォックスと接触、命を狙われる事となり、今に至っている。

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