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part.11-9 チェルニーの激闘

 その後、正気に戻った僕達はレイジフォックスを探し始めた。『泣く』という動作も体力を使う。いつまでもこのままではいられなかった。僕達はルーディさん達と合流しなければならない。その為の作戦はこうだ。


 まず、レイジフォックスを探し出して攻撃を行う。この時僕達はわざとレイジフォックスが仲間を呼ぶように動く。レイジフォックスは遠吠えで仲間を呼ぶ習性があるため、遠吠えの声をルーディさん達が聞くと、『ショータ達が襲われている!』と考えてこちらに向かってくるだろう。そうすれば僕達は合流出来る可能性が高くなるのだ。

「……上手くいくだろうか?」

 僕は不安げに呟く。栞はこれに答えない。でもそれで良い。本当に怖いのは『上手くいく!』と、怠慢になることだ。僕も栞もまだ未熟で出来る事は少ない、この事に気付くのが遅かったんだ。

「そろそろ行こう、決して無理はしないように……」

「うん……ねえ、兄さん……!」

 栞がその場から立ち上がったところで、僕を見上げる。

「……ん?」

「あの……手をつないで欲しい!」

 と、栞が言った。

「え……」

 その言葉に僕は少し戸惑ってしまう。栞と手をつないだ事なんて幼い頃以来だ。年を重ねる毎にその頻度は少なくなっていき、今僕が『手をつなごう』なんて言ったら栞から冷たくあしらわれるだけだ。とはいえ……、

「ああ、いいぞ!」

「うん、ありがとう」

 言って栞は僕の手を両手で握る。少し勢いよく握ってきたせいで僕は怯んでしまったが、直ぐにその手を握り返す。

「……」

 その後、僕らはレイジフォックスを探して歩き出した。栞の手は柔らかく、そして温かい。……全く、どうして茜と言い栞と言い女子って体温高いんだろうな?でも、お陰で少し安心出来る。僕達は生きているって分かる。この鼓動も感覚も……五感に触れるもの全てが、この世界が『虚実』でない事を示している。ならば戦おう、夢に逃げるな!

「栞、少し急ごう!」

「……ど、どうして?」

「どうしても、だ!」

 心臓の少し前を走る鼓動に置いて行かれないように、僕は走る。


◉ ◉ ◉


「……見つけた!」

 来た道をある程度戻っていくと、一匹のレイジフォックスが徘徊していた。恐らくルーディさん達を追い回していたレイジフォックスが群れからはぐれたものだろう。恐らくこの近くにまだ別のレイジフォックスがいる可能性が高い。しかし、レイジフォックスの群れがいると言うことはすなわちルーディさん達を追っているということ、そしてルーディさん達を追っているレイジフォックスがいると言うことはルーディさん達が近くにいる可能性が高いと言うことだ。

「仕掛けよう!準備は良い?」

 僕は栞に問いかける。

「うん、大丈夫!」

「行こう!」

 次の瞬間、僕は栞の手を離す。右手で勢いよく剣を抜き、レイジフォックスの前に立った。

「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

 剣を両手に握って力任せに叩きつける。ひらりとこれを躱したレイジフォックスは上を向き、高らかに遠吠えを発した。

「ウォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

「……耳障りな!!」

 隙だらけのレイジフォックスの横腹に剣を突き刺す。急所を外したらしく、剣を引き抜くとまだ前脚がピクピクと動いていたが、もう戦闘不能だろう。

「直ぐに移動しよう!」

 僕は栞に声を掛けて走り出した。


◉ ◉ ◉


 僕達はひたすら走り続けた。少しずつ増えていく足音、確実にレイジフォックスは僕らを追って来ている。

「……追いつかれる!」

「兄さん!あの低木の場所へ!」

 走りながら、栞は僕にそう言った。

「行けって事か!?分かった!」

 僕らは方向転換して目的の場所へ向かう。その間遂に僕らはレイジフォックスと鉢合わせした。

「ウォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 二度目の遠吠えだが、数は一匹。恐らく散り散りに僕らを探しているのだろう。

「でやああああああああああああああ!!」

 僕はレイジフォックスに剣を刺して素早く対処する。遭遇したレイジフォックスは単独だったが、逆に言うと常に囲まれる危険があると言うことになる。

「包囲網を作られる前に行こう!!」

 僕らは走り出す。


◉ ◉ ◉


 レイジフォックスに追われながら僕達は低木のある場所へたどり着いた。この間何度も遠吠えで仲間を呼ばれ、追っ手は4〜5匹に増えている。その上何処へ行っても回り込まれており、既に半包囲されているらしい。

「どうする?もうレイジフォックスは……」

「任せて!私だってやれる……!」

 栞は低木の幹に触れる。正面にはレイジフォックスが5匹、もう僕らで突破出来る数では無い。

「ファイア・シェル!」

 次の瞬間、低木は炎に包まれ、大きな火球となる。

「そうか、栞はこれを……」

「……燃えろ!!」

 栞は火球を低木ごと投げつける。巨大な弾丸と化した低木はレイジフォックスに命中し、身体を燃やし始める。

「ギャゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 熱さに悶えるレイジフォックスに向け、僕は剣を突き立てる。串刺しになったレイジフォックスをそのまま後ろのレイジフォックスに押しつけた。炎のにおいが鼻腔を通り、むせそうになる。火が後ろのレイジフォックスに移り、2匹とも火だるまになった。

「あと3匹!」

「兄さん、危ない!」

 後ろを振り返ると、一匹のレイジフォックスが襲いかかってきた。とっさに左手でレイジフォックスの首元を掴み、致命傷を避けることが出来たが、必死に藻掻くレイジフォックスの力で倒れそうになる。

「ぐっ!」

 右手の剣を突き立てようとしたが、もう一匹のレイジフォックスが右腕に噛みついてきた。更にもう一匹のレイジフォックスが便乗して喉元に噛みつこうとしてくる。

「ぎゃああああああああ!!」

「兄さん!」

「栞!魔法を当てろ!」

「そんなことしたら兄さんが……!」

「大丈夫だ!やってくれ!」

 僕はそう叫んだ。栞は恐らく魔法を当てきれない。だったら当てられるように僕が動こう……!

「このおおおおおおおおおおおお!!」

 左手で首元を掴んでいるレイジフォックスの尻尾をかかとで踏みつける。

「ギャウン!!」

「今だ撃て!!!」

 レイジフォックスが離れた瞬間、僕はそう叫んだ。

「兄さんごめん!ファイア・シェル!!」

 その瞬間、栞は火球を放つ。弾道は右側に逸れた。恐らく僕に当てないよう配慮しているのだろう。

「そこだ!!」

 二匹のレイジフォックスを押さえながら、僕は正面のレイジフォックスに蹴りを入れる。しかしレイジフォックスはこれを安易に躱して右に避ける。

「……掛かった!」

 次の瞬間、栞が放った火球がレイジフォックスに直撃する。爆ぜる火球はレイジフォックスの半身を吹き飛ばした。

「……いい加減離れろ!!!」

 僕は右腕に噛みつくレイジフォックスを蹴り飛ばし、もう一匹のレイジフォックスはそれに合わせて後退、僕は落とした剣を左手で拾い、構える。利き腕は多分折れており、さっきから制御が利かない。

「ゥゥゥゥゥゥゥゥ……!」

 威嚇気味にこちらを睨む2匹のレイジフォックス。もう動く力が残されていない僕は、ただレイジフォックスの攻撃を待ち受けるしかなかった。

「はぁ……はぁ……栞、いざとなったら僕を置いて……」

 僕は正面を向いたまま後ろの栞にそう言った。

「そんなこと絶対嫌!!」

 言って栞は右へ逸れる。

「ファイア・シェル!」

 栞は火球をレイジフォックスへ向け放つ。しかし、レイジフォックスは2匹ともこれを躱し、次の瞬間、それぞれのレイジフォックスが僕と栞に襲いかかる。

「いやあああああああああああああ!!!」

「ぐあああああああああああ!!」

 栞は両手でレイジフォックスの前脚を押さえ、何とか一命を取り留めているが、僕はレイジフォックスの攻撃を受け止めきれず、横腹に噛みつかれる。

「こ……の……!」

 残った気力を全て意識に振り、剣の柄をレイジフォックスにぶつける。

「ギャウン!!」

 これでレイジフォックスは何とか僕から離れたが、もう僕は立つことが出来ない。栞の方は何とか押さえられているようだが、これもいつまで持つか分からない。

「……ここまで、なのか……!?」

 そう言いかけた次の瞬間……!


 ——ザン!!

 鈍い音と共に素早い動きでレイジフォックスに突き刺さるレイピア、このレイピアは、

「……イヴァンカ……?」

「……待たせたな?よく持ちこたえてくれた!」

 イヴァンカはレイジフォックスに突き刺さっているレイピアを引き抜きながらそう言った。

「……ああ……」

 その時僕は安心感に包まれ、全身の力を抜いて倒れてしまった。


続く……


TIPS!

佐伯栞②:普段静かなせいで、クールな印象を持たれる。

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