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part.11-5 チェルニーの激闘

 それから僕らは引き続きモンスターの討伐を続ける。僕は栞の援護しながらも彼女に指示を行っていた。栞は少しずつではあるものの、確実に戦えるようになっていた。

「日も落ちそうだな、そろそろ帰るか……」

 ルーディさんがそう言った。結局僕は栞に付きっきりのままだったから自分自身の訓練はあまり出来なかったのだが、まあそれも良いだろう。

「……そうですね、戻りましょう!」

 イヴァンカがこれに同意し、村への帰路へ付いた。


◉ ◉ ◉


 カドゥ村へ到着する頃には既に日も落ちていた。街灯も無い夜は本当に暗い、松明が無ければ本当に何も見えないのだ。僕らが現実世界で夜中の外を出歩けるのは街灯の明かりがあるからなんだな、って心底思う。

「……では、また明日!」

 そう言ってイヴァンカは自分の家へと戻っていった。

「……我々も解散にしますか!」

 と、僕がルーディさんに話し掛ける。しかし、ルーディさんは何故か首を横に振った。

「いや、待ってくれ、お前に話がある。シオリは先に帰ってくれて構わないぞ?」

「……わ、分かりました」

 栞は控えめにお辞儀をしてとてとてと帰って行った。残りは僕とルーディさんの二人だけになる。

「……それで、話って?」

「まあ、ここで立ち話するのも何だし、場所を変えよう。付いてきてくれ」

「……は、はい……?」

 僕は黙って指示に従う。何やら嫌な予感がする。また僕は怒られるのだろうか?……まあ、それもこれも全て僕が未熟だからなのだろうが……。


◉ ◉ ◉


 ルーディさんに付いていくと、村の外れまで来てしまった。夜の平原は何も見えず、恐怖さえ感じてしまう。

「かがり火を作る。手伝ってくれ」

 と、ルーディさんは言って荷物から折りたたみ式のかがり火の台座を組み立てる。……何故そんなものを持ち歩いていたのだろうか?という疑問は取り敢えず置いておいて僕もそれを手伝い、合計で4箇所にかがり火を置いた。これでもなお、現実世界の街灯にはほど遠いが、かがり火の炎と暗順応した目の力が相まってどうにか周囲が見えるようになった。

「……それで、話って?」

「……受け取れ」

 僕の話に答える事無くルーディさんは僕に有無を言わせず木刀を手渡した。

「……戦闘訓練だ。俺が相手になってやる。どこからでも掛かって来い!」

 言いながら、ルーディさんも自分の木刀を取り出した。

「い、今からですか!?」

「そうだ!あまり時間が無いんだよ、早くしろ!」

 と、ルーディさんは僕を急かす。

「わ、分かりました。……行きます!!」

 観念した僕はルーディさんに木刀を立てる。ルーディさんは僕の太刀筋を一つ一つ確実に受け止めていた。木刀が交わる度に「カンッ!」という鈍い音が響く。

「……ショータ、なにか手加減をしていないか?大丈夫だ、お前がどんな真似をしようとも俺を倒すことは出来ないさ、本気でやれ!!」

「うっ……、は、はい!!」

 指摘を受けるまでそんなつもりは無かったのだが、どうやら自然と僕は遠慮してしまっていたらしい。今度は思いっきり力任せでルーディさんに斬りかかる。それでもルーディさんはその体格に見合わない素早い動きで僕の剣を受け止めていた。

「そうだ、それで良い!」

「うっ、っく……!」

 ルーディさんに体勢を崩されそうになり、一度僕は後ろへ引いた。ルーディさんは追ってくるような事はせず、ただ僕を待ち構えている。

「う、うおおおおおおおおお!!」

 僕はルーディさんに飛びかかった。全体重を木刀に乗せて斬りかかったが、ルーディは軽々と片手で受け止める。それどころか再び僕を押し返すように木刀を押しつけていた。

「なんだ?この程度か?」

「ぐ、ぁぁぁぁああああああ!」

 押されながら、遂に僕は本当に倒されそうになり、また後ろへ引いた。ルーディさんはまた待ち構えている。

「うおおおおおおおおお!!」

 再び僕はルーディさんに飛びかかる。今度は木刀を何度も叩きつける。力じゃ無くて手数で圧倒しようという魂胆だ、しかしこれも全て受け止められる。

「甘い!!」

 今度はルーディさんから足を掛けられた。足下を掬われた僕はそのまま地面に倒れてしまう。

「うわああああああああああ!」

「……直ぐに立て」

 言われる間もなく僕は木刀を杖にして起き上がる。木刀を構え、再びルーディさんに斬りかかった。

「うおおおおおおおおおおお!!」


◉ ◉ ◉


 それから僕は夜風の冷たさを忘れ、時間を忘れ、そしていつの間にか我を忘れてルーディさんに斬りかかっていた。何度も何度も斬りつけていく内に自然と太刀筋も雑になってしまう。当然、ルーディさんまでたどり着いた一撃は無い。

「ふむ、大分熱くなってきたらしい。そうだ、それで良い!」

 ルーディさんは冷静にそう言いながら僕の剣を受け止める。しかし、木刀が叩きつけられる音によってそれはかき消されて僕の耳まで届かない。

「この様子だと初めの頃に比べれば力も付いた事だろう……しかし!!」

 不意にルーディさんが木刀を斬りつけてきた。今まで防戦体制だったルーディさんが急に攻勢に出てしまい、僕は慌てて対応する。

「ぐっ!!」

「お前の動きの中に俺の嫌いな太刀筋がある!!」

 言いながら、ルーディさんは僕に斬りかかる。切っ先が頬を掠める。僕はすんでのところで剣をはじいて後ろへ下がった。呼吸を粗く整えて頬を拭う。

「うおおおおおおおおお!!」

 僕は再び攻勢に出てルーディさんに斬りかかった。「カンッ!!」という鈍い音が平原に響く。何度も、何度も木刀を上げては振り下ろす、これを繰り返していた。

「そこだ!!」

 次の瞬間、ルーディ酸が僕の足下を掬う。状況も掴めないまま、僕は地面に叩きつけられてしまった。

「……ぐはっ!!」

 その瞬間、ルーディさんの木刀が頬を掠め、地面に突き刺さった。「ヒュン!!」という風切り音が僕の背筋を凍らせる。

「今のだ、今の太刀筋が俺は嫌いだ!!」

 吐き捨てる様にルーディさんはそう言った。

「今、お前は諦めたんだ。俺を倒す事を!」

「はあ、はあ……」

 ルーディさんの言葉に僕は答えられない。それはきっと図星だったからだ。

「ふう、立てるか?」

「は、はい」

 ルーディさんに催促されて僕は起き上がる。火照った身体を夜風が少しずつ冷やしていた。

「……俺に、勝てるわけが無いとでも思ったか?」

 ルーディさんはそう尋ねた。

「だって……そんなの、勝てるわけ無いでしょう!」

 僕は息切れしながらもそう答える。

「ガッハッハ!まあ、経験の差もあるんだ、当然だなァ?」

 と、ルーディさんはわざとらしく笑う。

「だが、こんな老人にお前は負けたんだ、悔しくは無いのか?」

 と、ルーディさんは尋ねたが、僕はそれに答えられない。後ろめたい感情が僕の心の底で疼き、あらゆる発言を阻害していた。

「……お前、『勝負』をしたことがあるか?何だって良い、『本気の勝負』だ」

「そんなの……!」

 『当たり前だ』と言おうとしたが、不意にその発言が止まる。勝負を、したことがあっただろうか?本気の勝負というものを……。

「無いだろうな、きっとお前はあらゆる勝負から逃げてきたんだ。『負ける』事を恐れて『勝つ』事を諦めた」

 ルーディさんはそう言ってため息を吐いた。

「若いのに一体何を恐れているんだか……良いか?お前には欲が足りない、『強くなりたい』という欲が、『成長したい』という欲が……」

 と、ルーディさんは言った。言い返せない、僕だってあの時、『強くなりたい』と、そう思った。なのに何故かそれが言えないでいた。

「さあ答えろ、俺に負けて悔しかったか?」

「そ、それは……!」

 僕はルーディさんから目を逸らす。

「逃げるな!答えろ!!」

「ぐっ!!」

 ルーディさんに強く催促され、僕はルーディさんを睨み付けた。

「悔しかったですよ!この勝負に負けたのも、栞を救えなかったのも……!!」

「……ほう?」

 僕は続ける。

「……僕一人で栞を救えなかった、レイジフォックスのトラウマも、僕一人じゃなくて、ルーディさんに教えて貰って、ようやく解決出来た!この勝負だって、何一つ敵わなかった!!」

 僕はいつの間にか勝手に口が動いていた。ここまで言ってようやく落ち着いた。

「フッ、良かったよ」

 ルーディさんは不意にそう言った。

「……え?」

「お前がここで『悔しくない』なんて言ってたら、どうしようかと思っていた所だ」

 ルーディさんは続ける。

「お前の心はどうやら凍り付いているんだ。だから『悔しい』って感情まで麻痺していたら俺はお手上げだった」

 言って、ルーディさんは一呼吸置いた。

「お前、自分の事は好きか?」

 唐突にルーディさんはそう尋ねる。だけど、そんなの愚問だ。

「……自分の事を好きだと思っている人間なんて居ないでしょう」

「ほう?そんなことを思っていたのか?では自分の事は嫌いなんだな?」

 言って、ルーディさんは一呼吸置いた。

「何故、自分の事が嫌いなんだ?」

 と、ルーディさんは尋ねた。

「何故、か……そうですね、『自分の事が嫌いであるにも関わらず、自分自身を自己犠牲に出来ない』そんな自分が嫌いです」

 と、僕は答えた。

「……おいおい、それじゃあ『自分が嫌いである』という根底の理由が無いだろうが、その根底の理由は何なんだよ?」

 ルーディさんは失笑しながらそう尋ねた。

「……そんなの、とうの昔に忘れましたよ」

 僕は遠い目をしてそう答えた。

「……なるほどな。つまりお前は、自分自身を諦めてしまったわけだ」

 ルーディさんは続ける。

「良いか?繰り返しになるが、お前はまだ若いんだ。いつの間にそうなったか知らねぇが、そんなことを思ってくれるな?」

 ルーディさんはそう言った。しかしそんなことを言われても仕方が無い。だってもう遠い昔からそうなんだから……。

「まあ、今日はもう遅くなってしまった。続きはまた明日と行こう!」

「……そう、ですね。帰りましょう」

 ルーディさんに僕は力無くそう答えた。


続く……


TIPS!

ルーディ・イェーガー②:実は既婚済みで娘持ちである。

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