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part.11-3 チェルニーの激闘

 その後、1日の学校生活をなんとなく過ごす。いや、1ヶ月休んでた分『なんとなく』で済まして良いはずが無いのだが、その休んでた分の学習が追いついておらずどうしても理解が出来ない。ドラマを1話見落とすとその後の話が分からなくなるアレだ。幸い放課後の部活は特に何も無かった為、授業で分からなかった所をある程度聞きに行ったが、それでも到底追いつけるものでは無かった。

「はぁ……」

 僕は化学室の教卓に肘を突いてため息を吐く。1ヶ月ぶりの部活の第一声がこれだ。とりあえず教卓に数学の教材を並べた。僕にとってアドバンテージが取れる理数系から勉強を始める。残念ながら現状ではその理数系すら追いつけていないが、これは自分の力で何とか追いつこうと思った。

「……」

 そんな中、僕はペンを握ることも無くふと異世界の事を考えていた。今、異世界での僕はクイーンフォックスの討伐に向けて動いている。次に失敗すれば僕は一体どうなるのだろう。もし、異世界で僕が死んでしまったとなれば……、

「くっ……!」

 シャープペンを握りしめる。芯を出す事も無く折るように握られたシャープペンは「ギギギ……」と、プラスチックが軋む音がした。


◉ ◉ ◉


 その後、結局勉強に身が入る事も無く、下校時間となる。やはり異世界での出来事に不安が残る。それに加えて……、

「栞……」

 そう、栞の事もある。自分の事だけでも手一杯なのに『兄』としての責務も果たさなければいけない。だけど、手順は踏まえてある。今度はしくじらない。

「さあ、異世界へ行こう!」

 言いながら、僕は帰路へ着いていた。


◉ ◉ ◉


 翌日、目を開くとやはり僕は異世界へ居た。今日はいよいよ栞と共に訓練へ出る。当然、レイジフォックスとの戦闘もあり得るだろう。となると、栞はトラウマで混乱してしまう。今回の訓練はこのトラウマの克服、それから僕自身の肉体的な訓練が目的だ。正直不安もあるが、それ以上に栞は怯えている。

「こうしては居られない、僕は栞の兄だ!」

 自分の頬を叩いて気合いを入れる。その後、支度を済ませると僕は村の出口へと向かって行った。


◉ ◉ ◉


「おお!来たなショータ!」

 僕を見るや、ルーディさんがそう言った。既に栞とイヴァンカも待ち合わせ場所に到着している。どうやら僕が一番最後だったらしい。

「お待たせしました」

 と、僕は息切れ気味にルーディさんに言った。

「では行こう!……と、言いたいところだが」

 言って、ルーディさんは僕の肩を叩く。

「ショータ、本当に大丈夫なんだろうな?」

 と、ルーディさんは言った。彼もまた、栞の件を心配しているのだ。

「大丈夫ですよ、安心して下さい」

 と、僕は答えた。

「随分自信があるようじゃ無いか?かえってそれが怖いんだが……」

 と、ルーディさんは言った。実際、僕も怖い。だから敢えて自信があるように答えている面もある。

「……まあ良い、今度こそ行こう!」

 ルーディさんは渋々と言った感じでそう言った。


◉ ◉ ◉


 僕らは獲物を求めてカドゥ平原を歩き出した。歩けば歩くほどモンスターが見つかる。それくらいモンスターの数には困らなかったが、いかんせん数が多かったり、群れていたりと、僕らで手を出せる状況に無いものが多かった。そんなわけで今はモンスターの群れを避けつつ単独で動いている手頃な獲物を探していた。

「商人、前方にレイジフォックスです」

 イヴァンカはルーディさんにそう言った。その姿は少し遠慮気味だ。恐らく彼女も栞を気にしているのだろう。

「っ……!」

 イヴァンカの声を聞いた途端、栞の表情が張り詰める。

「栞、大丈夫か?」

 僕は栞にそう聞いた。出来るだけ栞を刺激しないように、丁寧に一言一句を囁く。

「うん、大丈夫……」

 栞はそう答える。しかし、言葉とは裏腹に栞の肩は震え、顔は青ざめていた。間違いない、これは大丈夫では無さそうだ。

「ルーディさん、ごめんなさい。一旦止めましょう」

 と、僕はルーディさんに言った。言った途端、栞の顔は少し生気を取り戻す。

「……なんだ?やっぱりダメじゃないか……イヴァンカ、悪いがレイジフォックスを追い払ってくれ!」

「分かりました!」

 言って、イヴァンカはレイジフォックスに突撃する。対応が遅れたレイジフォックスはそのまま串刺しとなった。

「もう大丈夫だ、レイジフォックスは居ない」

 僕は栞にそう言う。すると、力が抜けたのか栞はその場に座り込んだ。

「悪いな、無理をさせて……」

 僕は栞にそう囁いたが、栞の耳には届かず、そのまま意識を失っていた。

「少し休憩にしようか、ショータ、付いてきてくれ!」

 ルーディさんの指示に従い、僕は彼に付いていった。


◉ ◉ ◉


「さて、どう落とし前を付けてくれるんだ?シオリはああなってしまった。これじゃあ何度やってもお前さんの思うようにはならないと思うが?」

 言いながら、ルーディさんは煙草に火を付ける。

「ええ、僕もこうなると予想はしてました」

 と、僕は答える。

「だったらどうしてこんな?」

 と、ルーディさんは聞いた。

「……栞は恐らく、人を頼ることが苦手なんだと思います」

 と、僕は答えた。そう、あの時と同じだ。栞が自殺する前日、僕は栞の様子がおかしいと思い、どうしたのか聞いてみたが、栞は結局答えてくれなかった。

「その理由は、他人を信用出来ないからなんじゃ無いかと思うんです」

 と、僕は続ける。栞の自殺、原因は恐らく『いじめ』だ。確証は無い。でもそれ以外に原因は無いだろう。栞は日常的に『いじめ』を受けており、結果として誰も信用出来なくなってしまったと考えられる。だから、

「今回のレイジフォックスの件も、誰にも相談できずに今のようになってしまったんじゃないかって思うんです」

 だから……、

「だから、栞にはもっと人を頼れる様になって欲しい、人を信用できる様になって欲しいんです。そうすればきっとこの件も解決出来ます」

 と、僕は答えた。ルーディさんは煙草を吸いながら少しの間、思案顔になる。

「ふむ、なるほどな……」

 煙草の煙を吐ききった後、ルーディさんは口を開く。

「俺は今までお前ら兄妹が兄妹に見えなかった。お前らはあまりにも似てないからだ。シオリはえらくべっぴんさんだが、お前はそうじゃない」

 ルーディさんの口から突拍子も無い言葉が出て来た。僕は一瞬困惑するが、「よく言われます」と、テンプレのような言葉を返す。

「だが今分かった。お前らは兄妹だ、間違いない」

 と、ルーディさんは自信ありげに答える。

「は、はぁ……」

 僕は意味が分からずにから返事を返した。

「お前が言うには『シオリは人を信用出来ない』らしいな?俺にはその理由は分からないが、お前が言うのならそうなのだろう」

「そう、ですね。それに間違いは無いと思います」

 ルーディさんの言葉に僕はそう答える。

「だが、それはお前も同じだ!お前も大概、人のことを信用してないよな?」

「え……?」

 ルーディさんの言葉に僕は困惑の表情を浮かべる。

「だってそうじゃないか?今回の件も、俺が催促するまでお前はこの事を言わなかった。まあ、相談相手は俺じゃ無くても良いんだが、俺以外の誰かにこの事を話したのか?」

 と、ルーディさんは聞いた。

「……いえ、誰にも」

 と、僕は答える。

「ほれ見ろ!だからこんな事になるのさ?」

 と、ルーディさんは言った。確かに僕はこの事を誰にも話していなかった、理由は栞の『自殺』が関係するからだ。でも、よく考えるとその『自殺』の件を避けて誰かに相談すれば良かっただけだ。

「まあ、この件に限らずお前は自分一人で物事を解決しようとする動きが多すぎる。出来るのならそれでいいが、残念ながらお前はそうじゃ無いらしい」

 と、ルーディさんは言った。

「だからお前は人を頼れ、俺じゃ無くても良い。誰でも良いから人を頼るんだ」

「……分かりました」

 と、僕は答えた。

「よし、そろそろシオリも起きた頃合いだろう、訓練を続けるぞ!」

「……続けるんですか?」

 ルーディさんの言葉に僕はそう尋ねる。

「ああ、事情が分かれば話は別だ。俺に任せろ?」

「……大丈夫なのですか?」

「フッ、まさか信用出来ないのか?だから相談なんてしなかったんだろうが、まあ見ておけ!」

 言ってルーディさんは栞達の元へ歩いて行った。僕のような無理に作り上げた自信とは違う、確かなものがあるらしい。

「何をしている?ほら行くぞ!」

「は、はい!」

 ルーディさんに催促され、僕も歩き出した。


続く……


TIPS!

佐伯翔太②:理数系が得意だが、文系は苦手で、得意不得意がはっきり分かれるタイプである

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