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part.10-8 狐の寝床

「……スライムファージ!!」

「っ!?しまった!」

 崖沿いの狭い道を進んでいるさなか、丁度イヴァンカとルーディの間に挟まるような位置にスライムファージが落ちてきた。

「イヴァンカ、取り敢えず戻れ!」

「で、ですが……」

「こんな場所じゃ戦えない!大丈夫だ、後で合流しよう」

 ルーディは言った。策も無いイヴァンカはやむなくルーディの指示に従い、来た道を戻る。それを見るとルーディは反対に狭い道の先を進んでいった。しかし当然と言うべきかスライムファージはそれをただ見ているだけでは無い。

「まずい、こっちに向かってきた!」

 スライムファージはイヴァンカの方へと近づいてきた。近づく足は遅いものの狭い道を通っている都合上、イヴァンカも足を速める事が出来ない。じりじりと近づくスライムファージはイヴァンカにとって大きなプレッシャーとなる。

「くっ!もっと速く!」

 言うもののイヴァンカの足が速まる事は無い。足を踏み外して落ちれば最後、まず助からない。しかし、もたもたしているとスライムファージが近づいてくる。

「……うわあ!!」

 急にスライムファージが体液を飛ばしてきた。イヴァンカはこれを間一髪で躱し、体液が崖に張り付く。左手を崖から離してしまったイヴァンカはその場で怯む形となる。

「ち、近い……!」

 体勢を整える隙にスライムファージは直ぐそこまで近づいてきた。イヴァンカが動き出す頃にスライムファージは2発目の体液を放った。

「うっ……!」

 今度はイヴァンカの左足に直撃する。とは言え、裂傷等の突発的なダメージにはならない為、イヴァンカは無視して進んでいった。スライムファージと少しずつ距離を離し、遂に足場の広い場所にたどり着く。

「うおおおおおおおおおおお!!」

 狭い道を抜けたイヴァンカは全力で走り出した。


◉ ◉ ◉


 スライムファージを完全に振り切ったイヴァンカは自分の左足に石灰水をかける。スライムファージの体液が強い酸性であるのに対し、石灰水はアルカリ性、これによって中和する事が出来るのだ。

「ふう、これでよし」

 包帯を巻いてその上から鎧を纏う。左足からはじんじんとした独特の痛みが響いていた。

「さて、ルーディ商人を追わないと!」

 言ってイヴァンカは足を進めた。


◉ ◉ ◉


 その後、イヴァンカは先程の崖沿いの道を進んでいったが、スライムファージは何処かへ行ったらしく、道中での接敵は無かった。イヴァンカは狭い道を進む恐怖を覚えながらも少しずつ先へ進む。

「つ、着いた!」

 イヴァンカはようやく狭い道を抜け、足場の広い場所へとやって来た。しかしルーディの姿は無い。変わりに周囲にレイジフォックスの死体が数体倒れていた。どれも刃物で切りつけられた様な傷を残している。

「ルーディ商人、一体何が……?」

 言って当ても無くイヴァンカは進もうとしたが、地面になにやら傷が出来ていた。何かの刃物を地面に強く切りつけた様な後で、よく見るとこの跡が等間隔で出来ている。

「もしかしてこれはルーディ商人が!?と言うことはこの跡を辿れと言うことか!」

 そう考えたイヴァンカは、地面に出来た傷を頼りに先へと進んでいった。


◉ ◉ ◉


 イヴァンカは地面の跡を頼りに先へ進む。既にちらほらとレイジフォックスの死骸が見えている。恐らくルーディとレイジフォックスが戦った跡だろう。レイジフォックスは既にルーディをマークしており、ルーディは囲まれない為に場所を移動しながら迎撃しているものと考えられる。

「だとすると、急がなければ……!」

 地面を見ると途中から傷の跡がぱたりと消えていた。恐らく跡を残す余裕が無くなったのだろう。しかしレイジフォックスの死骸がある為、目印には困らない。

「レイジフォックスを頼りにルーディ商人を探そう!」

 そう言ってイヴァンカはまた歩き出す、その時だった。

「……ォォォォォォォォ!」

 微かにレイジフォックスの遠吠えが聞こえる。恐らくルーディを見つけたレイジフォックスが放ったものと考えられる。と言うことは、

「遠吠えの場所にルーディ商人がいる!」

 イヴァンカは走り出した。


◉ ◉ ◉


 遠吠えの音源となる場所に着いたが既に戦闘は終わっているらしく、レイジフォックスの死骸が残っているだけであった。レイジフォックスの死骸に触れてみるとまだ温かみが残っており、死後硬直も無い。

「まだ近くにいるはずだ!」

 言ってイヴァンカはルーディの痕跡を探す。しかし、レイジフォックスの死骸の他に目に留まる様な痕跡も無く、ルーディが向かった先が分からない。その時だった。

「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 またもやレイジフォックスの遠吠えが鳴る。しかし、ルーディを見つけた訳では無い。

「しまった、見つかった!!」

 そう、レイジフォックスはイヴァンカの目の前に現れ、遠吠えを放ったのだ。恐らくルーディを追跡していたレイジフォックスに見つかってしまったのだろう、イヴァンカはレイピアを抜いてレイジフォックスに斬りかかる。

「でやあああああああああああ!!」

 イヴァンカの放った一撃はレイジフォックスを貫き、そのまま絶命に追い込んだ。

「仲間を呼ばれてしまったか……ここは危険だな」

 言ってイヴァンカはルーディの捜索を中断し、適当な方角へ見切りを付けて走り出した。


◉ ◉ ◉


 走り出したイヴァンカを追うように足音が鳴る。レイジフォックスの足音だ。レイジフォックス単体の強さはさほどでも無く、アルミラージよりも弱い分類に当たる。しかし、厄介なのはレイジフォックスのしつこさだ。一度見つかってしまうと何処までも追われ続ける。

「はぁ……はぁ……」

 イヴァンカは近くにあった岩の隙間に身を潜めた。一時の後、2匹のレイジフォックスがイヴァンカを追ってここまで来ている。まだイヴァンカの居場所が分からず、周囲を回っていた。

(2匹か……しめた!)

 イヴァンカはゆっくりとレイピアを抜く。1匹のレイジフォックスがどうやら気配に気付いたらしく、恐る恐るこちらへ向かってきた。

「でやああああああああああああああ!!」

 次の瞬間、イヴァンカは向かってきたレイジフォックスへ襲いかかる。奇襲を受けたレイジフォックスは対応しきれずにレイピアに突き刺された。

「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 イヴァンカの存在に気付いたレイジフォックスは遠吠えで再び仲間を呼ぶ。イヴァンカがもう1匹のレイジフォックスに斬りかかろうとした、その時だった。


 ——ザン!!

 という鈍い音と共にレイジフォックスは二つに割れた。イヴァンカの暫撃では無い。見ると戦斧を振りかざしたルーディが居た。

「……ここに居たか、無事で何よりだ」

「ルーディ商人!」

 こうしてイヴァンカは無事にルーディと合流する事が出来たのだ。とは言えレイジフォックスは既に仲間を呼んでいる。

「直ぐにここから離れましょう!」

 イヴァンカはルーディにそう提案した。しかし、

「いや待て、ここでレイジフォックスを待ち伏せたい」

 ルーディはそう言った。

「……どういう事ですか!?」

 予想外の発言にイヴァンカはそう尋ねる。


続く……


TOPIC!!

『スライムファージ』危険度 ★


無色透明の身体で大きさは人間の膝より高い位の体高となり、スライム系モンスターの中では大型の分類に入る。


移動速度は非常に遅いものの、体液は強力な酸で構成されており、

自生している植物や周辺の動物の死骸を自らの酸で溶かして捕食する姿から『ファージ(食い荒らすという意味)』の名が付いた。


攻撃手段は自らの体液を飛ばすだけのシンプルなものだが、

体液を浴びた者は化学火傷を負うため、

体液を浴びた際は直ちにアルカリ水による中和が必要となる。

また、体液の酸によって剣等の金属を溶かしてしまい、

物理による攻撃が非常に通りにくい事から、上級の冒険者でも避ける者が多い存在である。


スライムファージの対処法としては長距離からの魔法攻撃、特に炎魔法が有効とされており、

生命力も低い為、簡単な魔法攻撃で容易に対処が可能であるが、

魔法を持たない者は火矢や松明等の炎で対抗することになる。

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