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part.10-6 狐の寝床

 翌日、

「シオリ、ショータがお前に話があると言っていた」

 ルーディは栞に話しかける。

「兄さんが?分かりました。今から行ってみます」

 栞はそれに答え、翔太の部屋へと向かった。


◉ ◉ ◉


 翔太の部屋の前に着いた栞は『コンコン』と、ドアをノックする。中から「どうぞ」と、声が聞こえて栞は中に入った。

「兄さん、調子はどう?」

 栞は翔太にそう声を掛ける。

「上々だ。向こうの世界でも治療を受けているからかな?随分と怪我の治りが早いよ」

 翔太は冗談めいた口調でそう答えた。

「そうなんだ、良かった……」

 栞は更に続ける。

「ところで兄さん、私に話って?」

「ああ、その事か……」

 栞が言うと、翔太はどこかばつが悪そうな表情を見せる。

「……まぁ、あれだ。妹の顔を見れなくてお兄ちゃん寂しくてな?」

「は?」

 翔太のふざけた言葉に栞は殺気を帯びた視線を送る。

「悪い悪い。でも、異世界転生して色々と環境が変わってるんだ。不便は無いか?」

 翔太がそう言うと、栞は首を横に振る。

「大丈夫だよ、ルーディさんにヘンシェルさん、それに姉さんが優しくしてくれる」

「そうか、良かった」

 栞が『姉さん』という単語を発する瞬間に翔太は一瞬だけ眉を動かしたが、直ぐに笑みを浮かべてそう答えた。


◉ ◉ ◉


「結局、何だったんだろう?」

 部屋を出た栞はそう呟く。あれから暫く翔太と会話をしていたが、『用事がある』と呼び出した割にはどれも他愛の無い会話ばかりだった。

「でも……」

 翔太が呼び出した理由は何となくではあるものの予想は出来ている。恐らく、翔太はレイジフォックスとの戦いを知っている。その上で栞を呼び出したが、結局何を話して良いのか分からなかったのだ。

「……兄さんも大変なんだね」

 栞はそう呟いてルーディの元へと向かう。


◉ ◉ ◉


 その後、今度はルーディが翔太の部屋を訪れていた。

「シオリとの会話は終わったか?」

「ええ」

 ルーディが尋ねると、翔太は平然として返答した。

「どんな話をしたんだ?」

「別に?ただ他愛の無い会話をしただけです」

「それだけか?」

「はい、それだけです」

 ルーディの返答をする翔太の表情はどこか満足げだった。

「……それで、どうするんだ?」

 と、ルーディは尋ねる。ここでの『どうする?』とは、栞を訓練に連れても良いか?という問いだ。

「……そうですね、少しの間、待ってて欲しいです。怪我が治ってから、僕も付いていきたい」

 翔太はなんの迷いも無くそう答えた。

「……そうか、まあお前が言うならそうしよう。じゃあ俺は野営の準備があるからこれで失礼するよ」

「野営?何処かへ出掛けるのですか?」

 ルーディが言うと、翔太はそう聞き返す。

「ああ、イヴァンカからの依頼でな?ここから南東にあるチェルニー山脈まで行く予定があるんだ。なんでもそこにクイーンフォックスがいるかもしれないとの事らしい」

「なるほど……お気を付けて」

「ああ!」

 言うと、ルーディは翔太の部屋を後にした。


◉ ◉ ◉


 その後、

「……今日の訓練は中止ですか?」

 栞はルーディにそう聞き返す。栞自身も何となく察していたが、彼女の予想は的中してモンスターとの戦闘訓練は中止となった。

「ああ、だが今日は魔法の訓練を行って欲しい。俺はちょっと用事があるから付いて行けないが、ヘンシェルに連絡を通してある。今日はそっちに向かって欲しい」

「……分かりました」

 言って栞はヘンシェルの元へと向かった。


◉ ◉ ◉


 それから栞はヘンシェルの元で魔法についての座学を受ける。内容は魔法の『属性』についてだ。基本的に魔法は『火』『風』『土』『水』の4種が基本となる。例外として『情報処理魔法』等の特殊な分類に入る魔法も存在するが、あまり扱える者がおらず、初級者が扱える魔法では役に立つものが少ない為、今回は除外する。基本的に魔術師は先述の4種の魔法を全て扱えるようにならなければいけないのだ。何故なら、魔力を媒介する『妖精』に得意魔法が存在する為である。

「得意魔法……?」

 ここまで話を聞いていた栞がそう聞き返す。

「そう、例えば今まで君に貸していた妖精の『チャイ』は火魔法が得意な妖精となる」

 ヘンシェルはそう答えた。

「……じゃあ、得意魔法ではない分類の……例えば『チャイ』の魔力で水魔法は使えないんですか?」

 と、栞は疑問を投げかける。

「得意魔法以外の魔法でも使うことは可能だ。でも、妖精が消費する魔力も大きくなるし、魔法自体の効果も下がってしまうんだ」

 と、ヘンシェルは答える。つまり、なるべく妖精の得意魔法となる分類の魔法を効率よく使う必要があるのだ。その為には、

「術者はなるべく幅広い魔法を覚える必要があるんだ」

 と、ヘンシェルは言った。

「なるほど」

 と、栞は答える。

「今回はチャイが得意だったから火魔法を教えたけど次回からは別の魔法も取得出来るようにしたい。なるべく多くの魔法を覚えて欲しいんだ」

「分かりました」

 こうしてヘンシェルの講義は続いていった。


◉ ◉ ◉


 ヘンシェルの講義は日が暮れるまで続いた。

「今日はこんな所かな?」

「ありがとうございました」

 ヘンシェルの言葉に栞はそう答えた。

「うん。多分また明日もあるだろうし、次は実技かな?」

「分かりました」

 言って、栞は帰路へ着く。辺りは夕暮れの淡いオレンジ色に染まっており、それが睡魔となって勉強後の栞を襲う。

「……早く帰ろう」

 そう言ってカドゥ村の大きな門の前を通りかかると、イヴァンカが同様に帰路へと着いていた。

「栞じゃないか!」

 栞を見つけたイヴァンカは声を掛ける。

「姉さん、今日はどうだったの?」

 と、栞は聞いた。

「クイーンフォックスの事ならダメだったよ。今日も見つからない」

「そうなんだ……」

 と、栞は答える。

「……だが!本命は明日だ。明日はルーディ商人と共にクイーンフォックスがいそうな場所を探索する」

 と、イヴァンカは答える。

「……じゃあ、手がかりは見つかったの?」

「いや、それがほぼ勘に近いんだがな?」

 栞の言葉にイヴァンカはそう返した。

「大変そうだね、頑張ってね!」

「ああ、栞もな?」

と、イヴァンカは答えた。


続く……


TIPS!

スミノフ・イヴァンカ②:兄妹(特に妹)に憧れを持っていた

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