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part.10-2 狐の寝床

「暫く君にこの子を貸してあげるよ、これで魔法の練習をしてみると良い」

 ヘンシェルの言葉と共に栞は感じたことの無い不思議な感覚が湧き上がった。

「チャイは炎魔法を得意とする妖精だ。この子を使って基本となる炎魔法『ファイア・シェル』を使えるようになろう!」

「は、はい!」

 言って栞は身構えた。

「魔法の使用は契約している妖精と良くコミュニケーションを取ることが重要だ、まずはチャイと話してみると良い」

「わ、分かりました!チャイ、大丈夫?」

 ヘンシェルに催促されて栞はチャイに話しかけるが、チャイは微動だにせず、無反応だ。

「はは、チャイはクールな妖精でね、あまり反応してくれないんだよ、ちゃんと意思は伝えられているから安心して良いよ」

「は、はぁ……そうなんですか」

(さっき妖精とコミュニケーションしろって言ってたのに……)

 心の中で栞はそう思ったが、口に出すことは無かった。

「じゃあ、気を取り直していよいよ魔法の実践だ!ファイア・シェルは小さな火球を前方に飛ばす初級の魔法、簡単に取得できるはずだから、取り敢えずやってみよう」

「分かりました」

 栞は『すぅ……』と息を吸い込んで「ファイア・シェル!」と叫ぶ。たちまち栞の左手に小さな火球が生まれるが、その場で破裂を起こしてしまった。破裂の衝撃が栞の身体まで届いてしまう。

「ひゃあ!!」

「意識を火球に集中するんだ、そうすれば破裂は起こらないはず」

「わ、分かりました」

 栞はそう言うが、先の破裂に少し怯えて左手を身体から遠くに離した。

「大丈夫、怖がらなくて良いよ」

 ヘンシェルはそう言うが、栞はやはり怯えたままでほんの少し左手を近くに寄せるだけだった。

「ファイア・シェル!」

(意識を火球に集中……!)

 左手に生み出された火球は栞の手に残り続ける。

「や、やった!……熱っ!!」

 しかし、手に残り続けた火球の熱に耐えきれず、栞は意識を火球から離してしまう。当然、火球はその場で破裂を起こした。

「きゃあ!!」

「大丈夫、深呼吸して……」

 ヘンシェルに教わりながら、栞は魔法の練習を続ける。


◉ ◉ ◉


 一方その頃、

「レイジフォックスの数が多い……どうしたものかな」

 カドゥ平原内を探索していたイヴァンカはそう呟いた。今のところクイーンフォックスの手がかりは無く、しらみつぶしで探しているが、未だ発見出来ていない。

「モンスターの気配は無さそうだ……少し休んで、先日クイーンフォックスが出現した場所へ向かおう」

 言って、イヴァンカは近くの木陰に腰を下ろした。持ってきていた手製のサンドウィッチを取り出して咀嚼する。

「はむ……うん、うまい!」

 イヴァンカ独り言を呟きながら食事を続けるが、だんだんその虚しさに胸が痛くなる。不意に先日、翔太や栞と共にフィールドを歩いていた記憶を思い出した。

「パーティー……組んでみたい」

 イヴァンカはそんなことを呟いた。今まではそんなことを考えもしなかったイヴァンカだったが、肉親を失い、独りになってしまったこと、翔太達と冒険したこと、これらを経験することでイヴァンカは自然と寂しさに気付いてしまったのだ。何より……、

「『お姉ちゃん』……か」

 栞からそう呼ばれた事を思い出してイヴァンカの頬が緩くなる。一人っ子だったイヴァンカは兄妹を持つことに憧れていた。そして、栞から『お姉ちゃん』と呼ばれることに少なからず良く思っていたイヴァンカは、

「翔太め、こんなに良い妹を持っているなんて……!」

 言いながらイヴァンカは草原に寝転がって空を見上げる。願いや希望を描くには丁度良い雲一つ無い快晴だ。数秒間瞳を閉じて、再び起き上がった。

「いけない、私は何をしているんだろうか……」

 言いながら、イヴァンカは歩き出す。目的地は先日、翔太達と共にクイーンフォックスに接触したあの場所だ。

「何も無いかも知れない、それでも行くだけ行ってみよう」

 そのままイヴァンカは歩く速度を速めた。


◉ ◉ ◉


 その頃、栞は休み休みではあるものの訓練に励んでいた。

「ファイア・シェル!」

 魔法は想像以上に頭を使う。火球を生み出す、生み出した火球をやけどする前に手から離す、目標の位置へ素早く飛ばす……これらの動作を一瞬で行わなければならない。暴発もあり得る。

「はぁ……はぁ……」

 栞は袖で顔を拭う、頬には火球から発生する煤がこびりついて黒くなっていた。

「……そろそろチャイの魔力が切れそうだ、今日はこのくらいにしておこう」

「……分かりました」

 そう言う栞の声には疲れが滲んでいる。

「チャイ、戻っておいで」

 ヘンシェルが言うと、チャイは栞の肩から離れていった。

「ヘンシェル、どうだ、シオリの方は?」

 ルーディがヘンシェルに尋ねる。

「だいぶ飲み込みが早い、僕の予想だと明日には撃てるんじゃないかと思いますよ?」

「そうか、アルミラージとのタイマンくらいなら出来る様になりそうだな」

「そうですね」

 ルーディの言葉にヘンシェルがそう答えた。

「ところでヘンシェル、お前は攻撃魔法が出来ないんだったよな?」

 不意にルーディがヘンシェルに尋ねる。

「ええ、僕は攻撃魔法系が苦手なんです。攻撃魔法系は基本的に素早い魔法制御でいくつかの動作を行わなければいけないんですが、僕が得意としている回復魔法なんかはゆっくりと時間を掛けて魔法制御を行えます。ただし、攻撃魔法系よりも精密な制御技術が必要になりますが……」

「なるほどな」

 ルーディは納得の表情でそう言った。

「シオリ、初の魔法訓練はどうだった?」

 ルーディは気さくな雰囲気を作り、栞に話しかける。

「思ってたよりとても難しいです……頭も身体も疲れてしまいました」

 栞は歩きながらそう答えた。

「ははは、皆最初はこんな感じだよ、慣れてくると簡単にこなせるようになるから、一緒に頑張っていこう!」

「は、はい……」

 ヘンシェルの言葉に栞は疲れた返事をした。

「それじゃあ、帰りましょう」

 そのヘンシェルの言葉を皮切りに一行は帰路へと付いた。


◉ ◉ ◉


 一方その頃、イヴァンカはクイーンフォックスと接触した場所へとたどり着いていた。

(ここでは色んな事があったな……)

 助けた栞を連れてここで複数のレイジフォックスと戦ったり、翔太達とここへ訪れてクイーンフォックスに襲われたりと、実は色々な事がこの場所で起きていた。

「何か手がかりは……?」

 気を取り直してイヴァンカは周囲を見渡す。既に夕刻となっており、拡散した太陽の光が空をオレンジ色に染め上げていた。

「……やはり、何も無いのか?」

 何か手がかりを探すものの、辺りは草原が広がるばかりだ。イヴァンカはクイーンフォックスと戦った時の事を思い出していた。

「……あの時の翔太は凄かったな、見直したよ」

 あの日、翔太はクイーンフォックスに攻撃を当てることが出来た。本人はまぐれだと言っているし、イヴァンカ自身も実はまぐれだと思っている。しかしあの時、翔太は強い意志を持ってクイーンフォックスと対峙していた。

「その点は本当に凄い事だったよ」

 言ってイヴァンカはカドゥ村への方角を向く。どうせ手がかりは無い、今日は引き上げて帰ろうとした、その時だった。

「……待てよ?」

 不意にイヴァンカの脳内に疑問が浮かぶ。

「あの時、負傷したクイーンフォックスは一目散に逃げていった」

 となると、負傷したクイーンフォックスが何処かをうろつくという事は考えにくい。

「となるとクイーンフォックスが逃げた先は……」

 クイーンフォックスの巣である可能性が高いと言うことになる。つまり、クイーンフォックスの逃げた方角に奴らの巣が存在することになるのだ。勿論これは仮説であり、実際にそうであるという根拠にはなり得ない。しかし、手がかりの一つであることに変わりは無かった。

「あの時、クイーンフォックスが逃げた先は……こっちだったか……」

 イヴァンカはクイーンフォックスが逃げた先を何とか思い出してその方角を向く。そして現在の時刻と太陽の位置を見て今、自分が向いている方角を割り出した。

「だいたい南東の方角だな……明日はそっち側を中心に探ってみよう」

 言って、イヴァンカは帰路へと付いたのだった。


続く……


TOPIC!!

クエスト:狐の寝床


クエスト形式:探索クエスト

依頼者:カドゥ村村長

受注者:スミノフ・イヴァンカ


<内容>

クイーンフォックスの捜索、及びその巣の探索が本クエストの内容となる。


前回のカドゥ平原の探索クエストでクイーンフォックスが活動期に入っていることが分かった。

活動期のクイーンフォックスは単独で巣を出入りしていることが多く、

巣穴の場所を探るには今が好都合である。


クイーンフォックスが繁殖期に入る前に何としても目標を発見、及び尾行し、

巣穴の場所を突き止めて欲しい。

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