part.22-1 彩色の鳥獣
ヘルメピアを出て僕らは更に北上、ロード・トゥ・ブリティッシュを抜ければヘルメピア構成国の一つ、『カドミスタ王国』領内へ入る。元々クレヌル帝国の領内だったが、帝国が崩壊してからは元属国であったカドミスタの領内となった。その領内の更に北側に港町『クレベール』が存在する。ヘルメピアの構成国と言えどここにパンジャンドラムの姿はあまり見えない。一つもないと言えば嘘になるが、ヘルメピアの影響は少ないと言えるだろう。ようやくあの珍妙な物体を見なくて済むのかと一息ついたのもつかの間、僕達は悪いニュースを耳に入れる。
「欠航!?」
「ええ、今航路上の波が荒れていまして……暫く運航の目途はありません」
ルーディさんの言葉に受付の人がそう答えた。
「困ったな……荒波が原因ならガレルヤまで戻っても運航していないだろうし、暫くここに滞在するしか……はぁ、宿でも取るか」
困り果てた表情でルーディさんは呟いた。幸い、宿は開いており暫くは泊まる事が出来るらしい。
「だが、このままじゃあ宿代も嵩んで話にならない。全員この辺りで仕事を探してくれ」
「そうなりますか……でも、どこで仕事を貰えば?」
ため息交じりに僕が尋ねるとルーディさんは答えた。
「冒険者ギルドに行けば何かあるだろう。取り敢えず今日は俺も付いて行くからそこで適当なクエストを探そう」
「分かりました……って、今日は?」
「ああ、今日の仕事が終わったらこの辺りで商業権が取れないか交渉してみようと考えている。武器の商売が出来るなら多少は収入も安定するだろう」
「なるほど……」
納得した表情でイヴァンカが言った。
◉ ◉ ◉
冒険者ギルトに到着した。
「討伐、採取……積み荷や土木作業なんてのもあるのか」
ぶつぶつと呟きながらクエスト内容が記載された張り紙を眺める。どれも日雇い作業の仕事ばかりだ。
「どうせなら4人で別々の仕事を受けた方が最も収入が良いだろうが、どうする?」
そう言ってルーディさんとイヴァンカが僕と栞に話を振った。
「え、僕らですか?」
「ああ、私たちは一人でも仕事が出来るからな。でも、最年少の二人に『一人で仕事しろ』だなんて酷な話だろう?」
と、イヴァンカは優しく微笑む。
「過保護だと思うのなら一人で受けてもらって構わない。だがどうするかの判断はお前たちで考えろ」
そう言われて一考の後、僕らは口を開いた。
「それなら……」
◉ ◉ ◉
僕らの答えは『兄妹二人で』——つまり、僕と栞の二人で一つのクエストを受けるという内容だった。栞と話し合って討伐クエストを受領する。討伐対象は『フーガ』——この辺りで良く出没する害鳥で、ヘルメピアでもよく見かけた存在だ。巨体であるが故、片手剣一本で戦っていた頃は苦労していたが、シールドボウを扱えるようになってからは楽に討伐出来るようになり、なんなら群れで襲い掛かって来るレイジフォックスの方が苦戦するまでになっていた。
「前情報によるとこの辺りの街道がどうもフーガの縄張りに入っていて、輸送団や街道を通る町人を襲っているらしい。今じゃ護衛なしに通るのは危険なんだとか……」
「でも、気配がないね。暫く雨も降っていないせいで地盤が固くて足跡も無さそう」
道端の石ころを蹴りながら栞は言った。
「その辺りは闇雲に探すしかないな。手分けするのも危険だし、街道を往復しながら手掛かりを探そう」
そう言ったものの栞はどこか納得していない様子で、暫くの間思案顔になる。
「……あ、そうだ!」
「ん、どうした?」
僕がそう尋ねると、栞は「おーーーーーーい!」と、急に大声を上げる。
「こうして叫んでいれば、フーガの方からこっちに気付いて襲い掛かってくるはずだよ。向こうも『縄張りを荒らされた』なんて考えるだろうし」
「なるほどな、アリかもしれない」
僕も栞の案に乗っかって大声を上げる。たちまちどこか遠くから足音が響いた。
「向こうの方だ!!」
僕はシールドボウを、栞は魔法を構え、足音のなる方へ向けた。狙い通り1頭のフーガが物凄い勢いで突進してくる。
「パイクリート・ニードル!」
「そこだ!!」
二人同時にフーガに攻撃するが、距離が遠すぎたためか栞の攻撃は当たらず、僕の矢は当たったものの弾速が落ちて致命傷には至らなかった。
「もう少し引き付けるべきだったか……なあ栞、一旦退避して……!」
栞の方を振り向いた時、なんともう1頭のフーガが栞の背後に迫っていた。
「ピィィィィィィ!!!」
「きゃああ!!」
フーガに突き飛ばされ、栞は宙を舞う。
「栞!!」
追撃に入ろうとするフーガとの間に割って入り、攻撃を盾で受ける。
「栞、大丈夫か!?……っく!!」
フーガの猛烈な飛び蹴りに絶えながら栞の安否を確認する。
「大丈夫、かすり傷だよ……っ!」
ふらつきながらも栞はパイクリート・ニードルを放つ。残念ながらその攻撃は当たらなかったもののどうにかフーガから距離を取る事が出来た。
「二頭目が来る、逃げるぞ!!」
栞の手を引いて走り抜ける。途中までフーガは追って来たものの縄張りから離れたのかある所で途端に猛追をやめた。
「はぁ……はぁ……何とか逃げきったか」
「ん……」
何とか呼吸を整えるが、どうも栞の様子がおかしい。さっきから返事が曖昧で意識も危うい。
「あ……」
遂に栞はその場に倒れこんで意識を失ってしまった。
「栞!?……おい、栞!!」
続く……
TIPS!
佐伯栞⑦:最近前髪がうっとおしくなってきたのでヘアピンを探していたがどれもデザインがパンジャンドラムだったので絶望していた。