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part.21-3 Panjan is...

「……エルヴィンが、パンジャンドラム・ヘルベチカが、サイキ・ショータに決闘を申し込むと……!」

「なんだと!?」

 予想よりも早くヘルベチカが動きを見せた。

「……すみません、行ってきます」

「待て、これは罠だ!第一ヘルベチカとタイマンで勝てる訳が……!」

「それでも、ひとまず行ってみます。乗るかどうかはその時決めますよ」

 軍師に軽く会釈して戦場へ向かう。


◉ ◉ ◉


 戦場へ到着するとそこにはヘルベチカの姿があった。その手前に立ち往生するロイヤルアーミーの軍勢も見える。

「これは……」

「来たか、待っていたぞ」

 ルーディさんが出迎えてくれたが、どうにも滅入っているようだ。

「ルーディさん……ヘルベチカは?」

「見ての通りだ。奴はお前を求めている。ヘルベチカと生身で決闘など——」

 普通ならできる筈がない。ただ戦えば恐らく負けるどころか死体すら残らないだろう。

「ルーディさん、ヘルベチカのパイロットは?」

「随分ご立腹の様子だ」

 ルーディさんが見てみろと言わんばかりにヘルベチカに目をやる。

「奴はまだなのか?このままここにいる全員を粉砕しても構わないのだぞ?」

 ヘルベチカから奴の高笑いが聞こえる。見下しているようにも見えるがその反面、焦りの色も感じ取れる。

「……ここは奴の挑発に乗らず慎重に——」

「いや、行きましょう」

「ああ、それで――何ィ!?」

 ルーディさんの言葉を押しのけて僕は進む。

「おい正気か!?そんな事して生きて帰れるはずが……!」

「大丈夫ですよ、ルーディさん」

 そう言って僕はルーディさんの方を振り向いた。

「——パンジャンドラムは、神になんかなれません。……絶対に!」

 その言葉はルーディさんをも圧倒し、最早僕を止める者などいなかった。

「……グレン?」

「なんだ?」

 僕は不意にグレンに話しかける。

「……随分と澄ました顔だな?」

「そういう君こそ、まるで勝利を確信しているかのようだ」

「ああ、恐らく考えている事は同じだ。……やるぞ!」

 そう言ってグレンと拳をぶつける。


◉ ◉ ◉


「来たか、バカめ……!」

 僕は遂にヘルベチカと相対する。『ヘルベチカを前に何ができる?』——奴はまるでそう言っているかのようだ。だが、コクピットの装甲は剥がれ、パイロットの体が僅かに見えている。

「グレン……頼む!」

 小さく放った声と同時に強い魔力の流れを感じる。暖かくも、冷たくもあるこの感触は、きっと現実世界では体験できないものなのだろう。頭の片隅でそんな事をぼんやりと考えた後、シールドボウをヘルベチカに向ける。使う魔法は『マークコード』——矢の軌道を読む情報処理魔法だ。

「フン、シールドボウか……確かに、その矢で我が身を射貫けるのならヘルベチカを倒す事も出来よう。しかし——!」

 ヘルベチカの車輪が動き出す。凄まじい殺気に耐え、必死に魔法をコントロールする。

「構えが甘い……狙いが甘い!貴様の攻撃など避けるまでもないわァ!!死ねェショータ!!貴様はパンジャンなどではない!この私が断罪してくれる!パンジャンの錆にしてくれるわァ!!!」

 エルヴィンの言葉と共にヘルベチカの車輪が回転力を増していく。そんな中、僕の周囲には魔法陣が形成されていた。

「……こ、この魔法陣は、パンジャンの祝福だというのか!?」

「なんて美しい、彼は……彼はまさか——!」

 その魔法陣を見たロイヤルアーミーの兵士達は、皆口々に僕をこう呼んだ。

 『伝説のパンジャンドラマー』——と、

「うおおおおおおおおおおお!!!」

 パンジャンドラムの作動音にも屈しない叫び声を上げながらシールドボウをエルヴィンへ向ける。

「どいつもこいつも……いいかお前らァ!パンジャンってのは……パンジャンってのはなァ——!!!」

 『失敗作』——その言葉は矢を放つ音と共にパンジャンドラムの激しい作動音にかき消され、誰の耳に入る事も無かった。


挿絵(By みてみん)


 ……、

 …………、


 一体、どれほどの時間が流れたのだろうか?恐らく一瞬に過ぎないのだろう。しかし、まるで時が止まったかのように長い長い一瞬だった。恐らく、今後何があろうとも忘れられない瞬間になるだろう。振り下ろされたパンジャンドラムの車輪は激しい砂埃と衝撃を放ち、地面に食い込んでいた。まるで生きている感覚が無い。もしかしたら僕は死んだのではないだろうか?そんな疑問を抱きながらもゆっくりと砂埃が消え、視界が回復する。目の前に広がるのはロード・トゥ・ブリティッシュ。僕のすぐ横には地面にめり込んでいるパンジャンドラムの車輪があった。僕はすんでのところでヘルベチカの攻撃を回避していたのだ。初めて生きている実感が沸いた。そして、エルヴィンは……、

「……うご、が、あああ……!」

 放たれた矢はコクピットの隙間を縫ってエルヴィンの腹部に直撃していた。

「……勝った、のか?」

「き、貴様ァァァァ……!」

 必死に僕を睨むエルヴィン、しかしやがて意識を失い、パンジャンドラムは操縦不能となった。宙に浮いていたヘルベチカはそのまま地面に激突し、墜落してしまう。


 ……、

 …………、


「ワアアアアアアアアアアア!!!!!」

 一瞬の沈黙の後にロイヤルアーミーの歓声が沸き上がる。遂に我々はエルヴィン派に勝利する事が出来たのだ。ヘルベチカを撃墜したロイヤルアーミーの勢いを止められるはずも無く、エルヴィン派の勢力は一晩で壊滅に追いやられた。


続く……


<今日のパンジャン!!>

方向性無きパンジャンドラムに

運命を委ねる者達へ告ぐ!


ヘルメピア王国第3国王フィリップ・L・ヘルメピア

(ヘルメピア独立戦争終結後、勝利宣言の冒頭部分より)

今回掲載しているイラストは招布 さんに描いて頂きました!


素敵なイラストをありがとうございます!!

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