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part.20-4 そのパンジャンは誰が為に……

 それから一日中マークコードの訓練を行ったが、結局矢が的に命中する事は無かった。次第にボウガンの弦を引く手が震える。体力的にも限界となり今日の訓練は終了となった。こんなことでヘルベチカに勝てるはずもない。頭ではそう分かっていても体が言う事を聞かない。その日の夜は食事を済ませてすぐに自室のベッドに潜った。

「……兄さん、大丈夫?」

 僕の様子を心配した栞がドアの向こうから声を掛けて来た。

「心配ない、寝てれば治るよ。……知らんけど」

「知らないのなら言わないでよ」

 そう言いながら栞が入室する。

「悪い……でも怪我してるとかじゃないんだ。単に疲れただけ」

「そっか……なら良いんだけど」

 栞は近くの椅子に腰かける。

「……栞はどうだったんだ?なんでもロイヤルアーミーから魔法訓練を受けたんだとか」

「うん、パイクリート・ニードルについての訓練と講義だったよ」

「パイクリート・ニードル?それに関してはもう習得できたはずじゃ……?」

 そう言うと栞は首を横に振った。

「ううん、まだ学べる事も多いみたい」

「そうなのか?」

「うん……」

 それから暫く栞との他愛もない会話が続いた。ロイヤルアーミーの事や今回起きた事件の流れ、パンジャンドラム・ヘルベチカ等、僕と栞が別れていた間の情報を共有した。これと言って新しい情報は出なかったものの久しぶりに兄妹で会話できた事に安心感を覚える。

「……じゃあ、私はこれで」

「ああ、おやすみ」

「うん、今日はゆっくり休んで?」

 そう言って栞は部屋を後にした。


◉ ◉ ◉


 その後、一週間の間、僕達はロイヤルアーミーと共に暴走したパンジャンドラム・ヘルベチカを止めるべく作戦会議や演習に参加した。今はその作戦会議中だ。その間、ロイヤルアーミーの斥候部隊がパンジャンドラム・ヘルベチカの居所を突き止めたらしい。どうやら南側に向かっているのだとか……。

「ん?待てよ、その方角はまさか……!」

「カドゥ村か!?」

 僕の言葉に続いてイヴァンカが叫ぶ。

「その通り、どうやらエルヴィン派の連中はパンジャンドラム・ヘルベチカを手土産にガレルヤ王国への亡命を企んでいるらしい。その為にガレルヤ王国領でも最も広い土地であるカドゥ村に向かっているのだろう」

 ロイヤルアーミーの軍師がそう言った。

「しかし何故連中は経済も乏しく兵力も少ないガレルヤ王国へ……?亡命ならもっと条件の良い国があるはずだが……」

「……アモールの森」

 ロイヤルアーミーの発言に僕は呟いた。

「ミスター・サイキ、どうかしたか?」

「パンジャンドラム・ヘルベチカは膨大な魔力を必要としています。そして、ガレルヤ王国にはほぼ無尽蔵の魔力を持った場所がある。それがアモールの森です。」

「なるほど、奴らの狙いはその魔力か……確かに筋は通っているな。アモールの森はどこにある?」

「カドゥ村から北西の……ここですね」

 ロイヤルアーミーのお偉方が地図に丸印を付けた。

「なるほど、ここから比較的近場でもあるな」

「ちょっと待ってくれよ!」

「……今のは?」

 その声に一同は戸惑う。

「ボクだよボク」

「……ソフィー!?」

 ソフィーは栞の肩を離れて会議室の机に降り立つ。

「パンジャンドラム・ヘルベチカが魔力を求めてアモール様の元へ行ったと言うのかい!?それなら森は……アモール様はどうなるんだい!?」

 ソフィーは我を忘れて興奮気味にそう言った。

「森は滅ぶかもしれないな。いや、ヘルベチカの速力ならもう森までたどり着いているのかも……」

 静かに僕はそう言った。

「そんな……ボク、ちょっと様子を見てくるよ!」

「え!?ちょっと待っ……!」

 栞が言い切る間もなくソフィーはどこかへ消えて行った。

「本当に行っちゃった……ソフィー、大丈夫かな」

 不安そうに栞がそう言った。

「そういえば僕らと出会った時、ソフィーは一人でモンスターに襲われていたんだっけ……よし、後を追おう!」

「いや待て、俺が行く。お前は会議に参加しておくべきだ」

 行こうとする僕をルーディさんが制止した。

「ああ、ごめんなさい。お願いします!」

 ルーディさんを見送り、再び会議席に着いた。

「……よろしいか、ミスター・サイキ?」

「申し訳ありません、取り乱してしまいました」

「構わない、アモールの森まで斥候を向かわせる。お仲間の契約妖精には『行く必要はない』と伝えておいてくれ」

「……恐れ入ります」

「エルヴィン派がアモールの森へ向かったとなると、決戦の場所が定められるな」

「……カドゥ平原ですかね?」

「いや、カドゥ平原はガレルヤ王国領だ。そんな場所に派兵するわけにはいかない」

「となると……」

「奴等は必ずヘルメピアに攻め込むはずだ。それを迎え撃つ。ロード・トゥ・ブリティッシュ南街道を閉鎖しろ。加えて付近にパンジャンドラム・レプリカントを配置、決戦に備えるのだ」

「かしこまりました」

「我々はこれから『パンジャン同士の戦い』を行う事になる。パンジャンドラマーとしての誇りをその胸に示せ」

「はっ!」

 こうして今日の作戦会議は終了となった。


◉ ◉ ◉


 その日の夜、ルーディさんと合流し、カローラさんの屋敷へ帰った。どうやらソフィーは城下町を出る前にルーディさんに捕まったらしい。なんにせよ無事で良かった。夕食時にルーディさんが離脱した後の状況を説明する。

「……それにしても疲れた」

 水浴びを終えて自室に戻る。睡魔で下がった知能でも分かる。ヘルベチカとの決戦が近づいているという事が……。

「パンジャン同士の戦い……」

 天井を見上げながらそう呟く。思えばパンジャンドラムとは僕達が住んでいた現実世界で生まれた試作兵器。それが今、何の因果かこの異世界で争い合っている。その争いの中で多くの命が犠牲になった。今となっては僕達の仲間であるカローラさんもその一人だ。

「ヘルベチカを止めなければ……僕は……!」

 その言葉と共に僕は深い眠りについた。


続く……


TOPIC!!

パイクリート・ニードル(P)


パイクリート・ニードルには現在、4種類の弾種が存在するが、その内の一つ。

パイクリート・ニードルの中でも最も基本的な弾種であり、

使用される頻度の高い弾で、「P弾」と呼ばれている。

本TOPIC!!ではパイクリート・ニードルで使用する特殊な氷を「パイクリート」と呼ぶ。

パイクリートについての詳細は下記URLのpart.15-4 Pykrete needle! TOPIC!!を参照。

https://ncode.syosetu.com/n3079fi/83/


パイクリートを針状に形成し、高速で敵目標に飛翔させる魔法であり、

アイスニードルと似ているが、

飛翔体の強度がアイスニードルの3倍近くもあり、

より高速での飛翔も耐えうる強度となっている事から

弾速、貫通力共にアイスニードルとは比べ物にならない物となっており、

その高い貫通力から「Piercing shell」の名が付き、

冒頭の「P弾」と呼ばれる所以となった。


他の3種の弾種と比較しても秀でた性能は無いが、

弾の構造が最も単純であるという利点を持っている。

P弾は弾の内部に穴を開けたりパイクリートの小さな破片をいくつも結合するといった難易度の高い生成を行う必要性が無く、

パイクリートを針状に形成するだけで弾ができる為、

弾の生成が最も簡単であり、生成速度が早く、

多くの弾を生成できる事から他の弾種と比較して最も連射速度が早いという利点があり、

P弾が最も使用される理由の一つとされている。

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