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part.20-3 そのパンジャンは誰が為に……

 翌日、異世界にて。僕達はヘルメピア本国からの招集を受け、ヘルメピア王城内へ向かった。僕達も城に用がある手前、ちょうどいい話でもあり、招集された理由も僕らの目的と一致しているのだろう。

「よくぞ来てくれた。ルーディ・イェーガーとその一味よ」

 ヘルメピア第5国王『クレスト・L・ヘルメピア』の前に、僕達は跪く。

「身に余るお言葉を頂き、光栄に思います」

 ルーディさんがそう言った。

「良い。時に、ショータという者はいるか?」

「はい。ここに」

 国王に呼ばれ、僕は顔を上げる。

「そなたの働き、しかと聞き受けた。此度の所業は本当に申し訳なく思う」

「慈悲深きお言葉、心から感謝申し上げます」

 顔を上げ、胸に手を当てて僕はそう答えた。

「そなたの無念を晴らすべく我々もエルヴィンを追っているが、彼奴はパンジャンドラム・ヘルベチカを盾にこの国から逃げ延び、力を蓄えて我が国を襲う算段だ。捕まえようにもヘルベチカが強力過ぎる」

 ヘルメピア国王は続ける。

「そこで、そなたらに協力を願いたいと考え、こうして招集を掛けたのだ。勝手な事を言っているのは重々承知している。しかし、このままでは国が……いや、世界が崩壊しかねない危機に瀕しているのだ。どうにか彼奴を止めなければならない」

「クレスト国王……」

「頼む、どうかこの私に力を貸して欲しい……!」

 と、クレスト国王は頭を下げた。一国の王らしからぬ行為に側近の兵士達は皆顔を見合わせる。

「どうかお顔を上げて下さい。我々も元より戦うつもりでここへ来たのです」

 と、ルーディさんは言った。

「そなたの言葉、心から感謝する。我が国もヘルベチカを無力化するべく、全力を上げよう」

「しかし、今のところヘルベチカを止める手段がありません。私もこのショータから聞いた程度でしかヘルベチカを知らないのですが、どうすべきなのか私にも分からない状態なのです」

 と、ルーディさんは答える。

「うむ。その件についてなのだが、先日より我々はパンジャンドラム・レプリカントの緊急量産体制を整えた」

「パンジャンドラム・レプリカント……!?」

「そうだ。道を外し、堕天したパンジャンドラムを止められる者……それは最早、パンジャンドラム以外にあり得ないのだ」

「……なるほど」

「そなたらは然るべき場所へパンジャンドラム・ヘルベチカを誘導してもらいたい。その後、レプリカントによる総攻撃を行い、ヘルベチカを無力化する」

「かしこまりました。レプリカントの数は如何程あるのでしょうか?」

「現在、既に8基のレプリカントが完成し、ロード・トゥ・ブリティッシュに配備されている。恐らく作戦開始までには10を超えるだろう」

「なるほど。それなら勝機も期待できるでしょう」

「うむ、作戦開始までそなたらの入城を認めよう。今後、この城には自由に出入りするがよい」

「ありがたきお言葉」

 深々とお辞儀した後、僕達は王室を後にすべく、その場から立ち上がる。

「……時に、ショータよ」

 国王に呼び止められ、僕は後ろを振り返った。

「そなたはパンジャンドラムの『足』を作り上げた者だ。その功績は何者にも負けぬ物となろう。いつか事が収まりし時、今一度顔を見せるが良い。そなたはこの国における最高の称号『パンジャンドラマー』を持つ者だ」

「……ありがたきお言葉です。いつか必ず、もう一度ここへ参ります」

 僕の言葉を聞いた国王は満足げな表情を見せた。


◉ ◉ ◉


 その後、ヘルメピア連合王国の傭兵扱いとなった僕達はロイヤルアーミーから武器の支給や訓練を受ける。ルーディさんやイヴァンカに関しては防具のみの支給で武器は自前のものを使うらしい。栞は魔法に関する訓練を受けると言っていた。そして僕はヘルメピア標準装備の防具に加え、以前武器屋で試した『シールドボウ』を支給された。当時は使いこなせなかった武器だが追々ロイヤルアーミーからの訓練を受けられるらしい。ひとまず武器の支給を受けた僕はルーディさんと合流する。

「おお、ショータか、どうだった?」

 ルーディさんにそう言われ、流れを説明した。

「……なるほど、お前も午後からは暇になるのか?」

「……ええ、どうやら訓練は明日からのようですし、今のところなにもないですね」

「なるほど、では午後からは魔法の訓練と行こう。カローラ博士の屋敷でグレンが待っている。訓練の方針もヤツが決めているらしい。まずはそちらへ向かってくれ」

「分かりました」

 そう言って僕はルーディさんと別れた。


◉ ◉ ◉


 それからカローラさんの屋敷に戻った僕はグレンと合流する。その後、ロード・トゥ・ブリティッシュ平原へやって来た。

「前回の訓練に引き続き『マークコード』の魔法訓練を行う。内容は覚えているな?」

「射撃武器の弾道を予測する魔法だったか?」

 僕が聞くと、グレンは正解と言わんばかりに満足そうな表情を見せる。

「そうだ。……よく見るとキミは今射撃武器を持っているようだな」

「……シールドボウの事か?コイツはついさっきロイヤルアーミーから支給されたものなんだ」

「ほう……ちょうどいいな。今日はそれで訓練しよう」

「……そうだな」

 そう言って僕はボウガンの弦を引き絞り、矢を装填する。目標の的に向かってそのボウガンを向けた。

「……」

 グレンから魔力を貰い、ボウガンの軌道を追おうとしたが、一行に魔法を使えない。どうやらグレンが僕に魔力を与える行為を拒んでいるらしい。

「なあグレン、魔力を……」

「……どうだかな」

「は?」

 グレンの呟きに僕は首を傾げる。

「ショータ、今一度聞かせてくれ。キミはカローラ様を殺していないのか?」

「はぁ?その無実は証明されたはずだ。真犯人も特定されている。疑う余地なんて……」

「そうだ。キミはカローラ様を殺していない。だけど、殺された責任が無いと思っているのなら、それは間違いだ」

「……何が言いたい?」

「もし……もしもキミかカローラ様のどちらかがヘルベチカ計画に加担しなければ、今回の事件は起こらなかったはずだ。ヘルベチカ計画が再稼働しなければエルヴィン派がカローラ様を殺す必要性なんてなかったはずだ!」

「そんなの結果論だろうが!」

「分かってるさそんなの!……でも、どうしてもボクは許せないんだ。犯人だけじゃない、カローラ様を死に追いやったヘルベチカ計画が……それを動かしたキミが……!」

「だったら……!」

 そこまで言いかけて僕は大きく深呼吸した。何処に怒りの矛先を向ければ良いのか分からず、グレンは混乱している様子だ。

「……だったら、僕はどうしたらいい?」

 グレンをなだめるようにそう問うた。

「……エルヴィンを、殺せ。キミのその手で殺すんだ。ボクの魔力を使って殺せ。それで初めて復讐になる」

 グレンはそう言った。

「……それでいいのか?」

「……どういう事だ?」

「そんな事を死んだカローラさんは望んでいるのか?」

「そんな事もう分からないじゃないか!カローラ様はもう死んだんだ!」

 と、グレンは言った。いつかのあの日、僕の父さんも同じような事を言っていた。……ような気がする。

「……そうだな。だけど、カローラさんは復讐なんて望んでいない。少なくとも僕はそう思っている」

 と、僕は答えた。

「なら、ボクの復讐には協力しないという事だな?」

「……ああ。そんな事をしてもカローラさんは戻ってこない」

「それなら、今ここでボクを殺せ」

「……なに?」

 グレンの言葉に僕は困惑する。

「復讐出来ないのならもうボクが生きている理由なんて存在しない。自分で死んでも構わないが、どうせならキミに殺された方が何かと禍根も残る事だろう」

 と、グレンは言った。確かにグレンの言う通り大きな禍根が残る。僕がグレンを殺したという罪は勿論の事だが、何より僕はもう周りの仲間が死ぬ姿を見たくはない。

「……!」

 僕はゆっくりとボウガンをグレンに向け、そして放った。しかし、矢はグレンから外れ、地面に着弾する。

「……どうした、こんな距離でも当てられないのか?」

「外したんだよ。……ったく、どいつもこいつも死ぬだの殺せだの簡単に言いやがって」

 僕はそう吐き捨てた。

「……良いだろう、綺麗事はもうなしだ。僕がエルヴィン伯爵を……いや、エルヴィンを殺す」

 僕はそう続ける。

「……本当にやってくれるのか?」

「ああ。それに、グレンの言う通り、カローラさんが死んだ原因は僕にもある」

 そう言うと、ようやく僕の体に魔力が宿った。

「……なら、訓練を始めよう。目を瞑ってあの的に矢を当てろ」

 と、グレンは言った。

「……ああ」

 そう言って僕はシールドボウを構える。

「いいか?この魔法でエルヴィンを捉え、そして射貫け。この魔力はその為のものだ。忘れるなよ?」

「勿論だ。こうしてようやく、グレンにとっての復讐になるのだろう?」

「分かっているなら良い。始めろ」

 グレンの言葉を合図に、僕はボウガンの矢を放った。


続く……


TIPS!

グレン③:カローラの契約妖精だが、実はカローラ自身が魔力を持っていた為、グレンの魔力が使われることは滅多に無かった。

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