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part.18-3 パンジャンに溺れた者たち

 その日の夜、ルーディは一人、町はずれのスラム街にある酒場にやって来た。酒場と言っても屋根は無く、最早建物と呼べない場所だ。そんな中、ルーディはいつもより割高で酒臭いビールを飲み、とある人物を探していた。

(金髪で赤い服装、兵士の剣を腰に下げて一人で飲んでいる……あの男か)

 情報屋であるピエールから聞いた男と容姿が一致している。ルーディは自分のビールジョッキを空にしてその男に近寄った。

「よぉ、隣良いかい?」

 そう言ってルーディは承諾を得る前に座る。

「……何の用だ?」

「別に、ちょっと人を探していてね……『アンドリュー・レイソン』ってやつなんだが?」

 ルーディは『お前がそうだろう?』と言わんばかりにその男を見やる。

「……で、何の用だ?」

 その男は自分がレイソンである事を否定も肯定もする事無くため息交じりに聞き返す。

「単刀直入に言わせてもらおう、俺たちは王宮内殺人事件の件で王宮内を調査したいと考えている。何かやってくれないか?」

 それを聞いたレイソンらしき男は目を細め、自身の持っていたビールジョッキを一気に空にした。

「ほぅ……いくら出すんだ?」

「俺の要件を聞いての一言目がそれか?頼んでおいてアレだが、随分良心的だな?」

 言いながらルーディは目を細める。

「当然だ、何故なら俺にはそうする事が出来るからだ」

 そういいながら男はルーディを見やる。

「はじめまして、ルーディ・イェーガー。私はアンドリュー・レイソン、ロイヤルアーミーの上級兵だ」

 と、レイソンは答えた。

「俺の名前を知っているのか?なら、事情も把握しているんだろうな?」

「ああ、お仲間さんの事は気の毒に思うよ。俺は事件捜査の責任者でもある。俺に掛かればあんた達を捜査員とすることも可能だ」

「なるほど、俺達にとっては都合の良い話だ」

「だが仲間を救う為とはいえ証拠の捏造は許さない。捜査員に入るなら、あくまであんたは俺の監視下にあるという事を忘れるな」

「問題ない、最初からそのつもりだ。金ならあることだし、明日から関与させて頂きたい」

「明日から?随分急だな?」

「ああ、時間がない。俺たちは貴族の連中が真犯人であると踏んでいる。だから急がなければ誰かの伝手で証拠が捏造される可能性だってあるんだ」

「ほう……その言葉、城内で言えば殺されるだろうな?」

 と、レイソンは鼻で笑った。

「まあ、いいだろう。それでいくら出してくれるんだ?」

 更にレイソンは目を細めてそう言った。

「まあ金ならいくらでも用意できるんだが……なあ、こんな事を言ってもしょうがないんだろうが、ヘルメピアの一兵士がこんな真似してても良いのか?」

 呆れたような表情でルーディが尋ねると、レイソンは再びビールを口に運ぶ。

「あんたにゃ関係ないだろ?それより金だ、あんまりがっかりさせないでくれよ?」

「ああ、分かってる……ほらよ」

 そう言ってルーディは金貨を無造作に置いて見せた。

「ほう?これは悪くない」

「じゃあ、契約成立って事で良いのか?」

「ああ、明日これを持って王城に入ってくれ。活躍を期待しているよ」

 と、ヘンシェルは城への入場許可証をルーディに手渡した。

「どーも」

 ルーディは許可証を受け取り、その場を後にした。


◉ ◉ ◉


 翌日、ルーディ達はヘルメピアの王城、カローラが寝泊まりしていた個室を訪れた。

「やはり事件はここで発生したようです」

 と、イヴァンカはルーディに伝える。

「だろうな、ショータを見たって証言している妖精のグレンはその時何処に?」

「タンスの物陰に隠れていたんだとか……あの隙間でしょうか?」

 と、イヴァンカはタンスの隙間を指さした。

「グレンくらいの体格ならあの隙間でも隠れる事が出来そうだな。少し体を乗り出せば犯人に気づかれる事無く現場を見る事が出来るだろう」

 と、ルーディは分析する。

「でも、何故グレンはその時見た犯人が兄さんだと思ったんでしょう?」

 と、栞は疑問を口にする。

「ああ、犯人はショータを装ってカローラ博士の部屋に入ったのだろう。最初からショータに濡れ衣を着せたかったのか、はたまたカローラ博士を騙す為か……まあ、ひとまず痕跡を探ってみよう。何でもいいから手当たり次第に探ってみてくれ」

「「はい」」

「ああそれから、動かしたものは全て元の位置に戻しておけよ?捏造を疑われちゃあしょうがないからな」

「「分かりました」」

 そう言って3人とも散り散りに部屋を物色し始める。初めに声を上げたのはイヴァンカだった。

「部屋に争われたような形跡はないですね。やはり犯人は翔太に変装して?」

「だが、変装しただけなら顔を合わせた時点でカローラ博士にバレるだろう」

「それなら、魔法とか?」

「確か情報処理魔法に幻覚を見せる魔法があったはずだが……そもそも情報処理魔法に長けているカローラ博士がそんなものに騙されるか?」

「うーん」

 ルーディの反論にイヴァンカは黙り込んでしまった。

「あ、でもここで魔法を使われた形跡があるってソフィーが言ってますよ?」

 と、今度は栞が声を上げた。

「何!?それは本当か?」

「うん、この部屋でわずかに魔力の残り香を感じるんだ」

 ルーディの言葉にソフィーはそう返した。

「どんな種類の魔法か分かるか?」

「うーんそこまでは……でも、使われた時間は事件があった時間帯みたいだね」

「なるほど……犯人は何かしらの魔法を使った、か……そこまで分かれば十分だ」

「ひとまず切り上げますか?」

「ああ、今日の情報をまとめてレイソンに報告しておきたい。お前たちもついてこい」

 と、ルーディは言った。


続く……


TIPS!

グレートパンジャンシティ①:ヘルメピア独立戦争後に出来た大きな街。その人々はパンジャンドラムを信仰している

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