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窓から見えるは青と春  作者: 今日の空
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ぼくの庭


_人生を創るのは、庭を育てることと似ている_





「あなた、投票で学級委員に選ばれたけれど、一学期も去年も学級委員だったわよね?」

「…はあ、まあ、そうですけど…」


 僅差。それも一票の差で、ぼくは副学級委員に当選された。

「学級委員を同じ人がやるのは良くないの」

 先生の言っている意味は解る。学校、教師側の考えでは、様々な生徒に『学級委員』を経験させたいのだ。でも、言い方が悪い。

「良くなくはないですよね?」

そもそも、この学校のルールで多数決により学級委員が決められたのだ。ぼくが常に学級委員の立場に居たいという発言をする野心家なら、先生の言い方も仕方ない。

「良くないよ」

解りにくいかもしれないが、ぼくのさっきの言葉は先生に言葉を訂正するチャンスを与えたのだ。しかし、説明もなく先生は同じ言葉で返答した。

 何も言わないぼくが納得したとでも思ったのか、先生は話を続ける。

「次に票が多かった山垣さん、学級委員やりたい?」

控え目な山垣は困ったように笑って誤魔化す。まるで、自分以外の誰かに決めて欲しいとでも言いたげに。

 ……ああ、それはぼくも同じか。


「私、学級委員長はちょっと…。休みも多いから…」

クラスの天使、水木はそう言った。彼女もまた二度目の学級委員に選ばれた。

「どうしますか?」

先生の声はパワハラに近い圧力を含んだように聞こえる。まるで、『辞退しますと言え』と言われているようだ。まあ、ぼくの邪推ではあるが。

「やります」

「本当に? 大丈夫?」

「はい」

空気は読まない。他人任せのくせに、どうして意のままになると思うのか。これは小さな反抗でもあった。

「大城ちゃんがやるなら、私も学級委員長やります」

水木はそう言って学級委員長を引き受ける。

 クラスメイト達はもう飽きてお喋りしているなか、とても煮え切らない学級委員の決定がされた。




 ぼくの記憶がフラッシュバックする。


 小学校で、学級委員を初めて決めた時。

「誰か、学級委員やりたい人ー?」

そもそも、学級委員の仕事自体を理解していないのに、面倒な事を引き受ける子はいなかった。

「はい」

誰もやらないなら、ぼくがやろう。そう思って手を挙げ立候補した。

「他にやりたい人は? 推薦でもいいわよ」

「推薦って何?」

「学級委員をやって欲しい人を言ってね」

「じゃあ、〇〇!」

「〇〇ちゃん」

「〇〇君」

沢山の推薦が挙がる。そこで、多数決をとることになった。

「はい、みんな伏せてー」


「結果は、〇〇君十票、〇〇ちゃん九票、〇〇君十六票、大城ちゃん一票で、……」


 その一票は、ぼく自身が入れたもの…


「大城ちゃんの一票は、本人が挙げましたが、」


 やめて


「進んで立候補したのも一人だけですし、」


 やめて


「自分に自信を持っていて」


 顔が熱い


「素晴らしいことですよ!」


 ……


「お前、学級委員になる自信とか信頼とか、自分にあると思ってるわけ? 自分に票入れるとかダッサ」


 だって、誰も立候補しないんだもん…。


「〇〇ちゃんの方が可愛いし、頭もいいし、運動できるし、あなたには学級委員なんて無理無理」





 高校に入学して、やっと小学校の奴らと離れて、手に入れた信頼。もう、その一票差は自分の入れたものではない。

 …一種の執着。一種のトラウマ。

だから先生、ぼくはパンドラの箱に触れた先生(あんた)が嫌いだ。勿論、先生がぼくの悪意に気がつかないよう猫を被る。()()()()()で居るために。

 バリウムのようにドロリとした青を飲み込んで、ぼくは笑う。





 ぼく、大城 ゆうきは、女である。表向きでは『私』であるが、心の中では『ぼく』という一人称を使う。性同一性障害…と言うよりか、正直男と女の間で揺れている。成長期にはよくある現象だそうだ。ぼく自信は、自分が男でも女でもどっちでもいいので深くは考えていない。

 見た目は普通に女。髪も長い。ぼくはとにかく、無頓着なのだ。




「大城、部活ー」

「ちょっと待って!」

無頓着仲間の田崎は、ぼくをさっさと置いていく。

「今日の曲は何?」

「あー、あれだよ。あれ、タララーってやつ。地獄の」

田崎は雑に返答した。

「うぉーあー! 本番まで時間がないー!」

「本当にな!」

ヤバー。と二人で顔を見合せて、競争するように階段を駆け上がる。下の方から、

「階段をあいうがああああー!」

と滑舌の悪い怒鳴り声が響いた。体育教官の河石先生だ。

 …多分、「階段を走るな」と言いたかったのだろう。

「はーい。ごめんなさーい」

二人で小声の謝罪を述べる。勿論、先生の顔は見えないし、先生に声は聞こえていないだろう。何より、二人して走りつつの謝罪したなので、一切反省していない。




「え? 高原さん、また休みですか?」

「そう。本当に困る。本番近いのに…」

部長はため息を吐いてそう言った。

「まだ病み期ですかね?」

「どうだろう。何か聞いてる?」

「何も聞いてないです」

「そっか。じゃあ、楽器出して」

「はい!」

部長は十円はげを心配するレベルで頭を抱えつつも、基礎練習に取り掛かる。本当に、部長を尊敬します。頭が上がらない。



 深呼吸は心を安定させる。その上、ストレスの発散もできる優れもの。深呼吸と楽器を吹くのは似ている。ただ、楽器は神経を使うがそれがまた楽しい。つまり、嫌な事をすっかり忘れた単純なぼくである。

「先輩、今日音楽室片付けます?」

合奏終了後に、後輩の山田ちゃんがぼくに聞いてきた。

「明日も授業あるから、片付けるよ」

「はーい。わかりました」

音楽室を片付けて、椅子を出していると『今日が終わる』そんな気がする。ぼくは少し空気の緩んだ時間が好きだ。





「今日は悪し(わろし)、晴れた日、でもまあ良し!」

誰もいない田舎道。自転車をこぎながら、ぼくは心に移り行く由無し言をそこはかとなく叫ぶ。

「あ、そこの家、出来たんだ」

前の家を取り壊す場面から見ていた家。最近は家が建つのも早い。

「ポチ、今日もかわゆい!」

赤いリードした、黒い柴犬がぼくを見て興奮する。

「うぇぇ……。トラックの排気ガス」

真横を通り過ぎた大型トラック。

 そして、上を見上げればはっと息を呑むような…


「…今日も空が、綺麗だ…」





 人生を創ることを例えると、『まるでガーデニングのようだ』と誰かが言った。

 家は親が建てた(環境)で、庭は色々な人が手を加えて出来上がる人格。学校は公園という名の社会の箱庭。



 …苦いものは肥やしにして、暖かいものは日差しにして。強く強く美しく、育てましょう。

 家の窓から見える庭。

 四季折々が望める庭の季節は春。時に日和、時に嵐にさらされ、また時には虹が掛かる。不安定な季節(時期)


 窓から見えるは、茂る青と春…



ぼくのガーデニングは、上手に行えているのでしょうか?


今日の空です。

お付き合いして下さり、ありがとうございます!


ガーデニングは苦手です。

サボテンすら、水やり忘れて枯らしました。

サボテンさん、ごめんなさい…


精進します。

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