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変化

私は今隣国、クリストバル様の祖国に来ている。

ここに来る途中の街道で襲ってきた魔獣どもは難なく倒した。

私もずいぶん強くなったものだ。

昔は一人では絶対に国境を越えられないと思っていたのに。


私はこの国の王都郊外に家を買った。

市井の生活も悪くない。

私が実家から持ち出した資産は三年間食べて行くには十分すぎる金額であり、報復の過程で習得した技能により大抵のことは自分で出来る。

すべてが自由だ。

でも、時折寂しくなるときだってある。

そんな時はここに来るようにしていた。


「「「「ユリアお姉ちゃん、いつもありがとうございます!」」」」

シスター・ミナに促され孤児院の子供たちが一斉に頭を下げる。

「はい、どういたしまして」

私が返事すると子供たちは我先にとお土産のお菓子に群がっていく。

ここには朽葉色の髪や青い瞳の子供が数人いる。

私はシスターからのお礼の言葉を適当に受け流しつつ子供たちを眺めた。

この程度が丁度良い。

お菓子の争奪戦をぼんやりと眺めているとその中の一人が私の方へ駆け寄ってくる。

「はい、ユリアお姉ちゃん」

そう言ってその子はお菓子を持っている手を突き出した。

「わたくしはいいからあなたがお食べなさい」

「これ、おいしいよ」

その子は私の言葉が聞こえなかったのか小首を傾げて私を見ている。

あの子と同じ青く綺麗な瞳だ。

「そう、ではいただこうかしら」

私が受け取るとその子は再びお菓子の争奪戦に参加するため駆けていった。

「あの、どこかお加減が悪いのですか」

シスターが泣いている私を心配して声をかけてきた。

「何でも無いのよ。少し嬉しかっただけだから・・・今日はもう帰りますわ」


その日の夜は旦那様とユリバルの夢を見た。

クリストバル様と少し大きくなったユリバルが私を見つめている。

「ユリアお母様」

旦那様によく似た優しい笑顔だ。

私は息子に駆け寄って抱きしめる。

「大きくなったねユリバル」

そして、そのまま抱き上げる。

「ユリア」

次に旦那様の優しい声がして私の頭がなでられた。

とても幸福な世界

分かっている、これは私の願望だ。

遠くの空が明るくなってきた。

もうこの世界から目覚めなければならない。

朝日が差し込むと二人はその光に溶けるように消えた。

なんと残酷な世界だろう。

そして目が覚めた私は声がかれるまで泣いた。


==============


今日は卒業パーティーが行われているはずの日である。

この世界は卒業パーティーの日から数日で必ずあの日に巻き戻る。

だから最後にあの青い瞳を見たくなって孤児院へ向かった。

しかしあの子は引き取り手が見つかって遠い町へ行ってしまっていた。

仕方が無い、時が巻き戻ったらまた会いに来よう。

私はお菓子に群がる子供たちを見ながら白湯を飲む。

紅茶なんて贅沢なものはここには無い。

「今日は顔色がすぐれないようですが、どうかなさいましたか?」

シスターは心配してくれているのだろうが、時が巻き戻って今の世界が無くなってしまうなどと言っても信じては貰えないだろう。

だがこの時私の心に魔が差した。

どんなことを話しても、どうせ数日中に無かったことになるのだ。

「シスター・シア、もし世界が消えてしまうとしたら貴女ならどうしますか?」

さすがにこんな突拍子も無い話を急に振られても困るだろうなと思ったが、シスターは難しい顔をして考え込んでいる。

真面目な人だ。

こんな話、冗談だと笑い飛ばしてしまえばよいものを。

私が彼女を微笑ましく見ていると幼い声が割り込んできた。

「世界を消さないでって女神様にお願いしたらダメなの?」

振り向くといつからいたのか、子供が私の隣でお菓子を食べていた。

「シアお姉ちゃんが平和ってのが無くならないように毎日お祈りしましょうって言ってたもん」

ああ、それは神殿で行われる朝のお祈りのことだろう。

”あまねく世界に時の女神のご加護がありますように”

神殿の者でなくても毎朝唱える祈りの言葉だ。

「そうですね、レンちゃん」

シスターが名案だとばかりに微笑み、私も毎朝の礼拝に参加しませんかと誘ってきた。

「お邪魔で無ければそうさせて貰おうかしら」

まあ、どうせあと数日で時は巻き戻るのだからチョットくらい付き合っても良いか。

しかし、本当にそうなったら・・・

そうしたらいつまでも眠っていられるのに。

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