夢見る戦士(バカ)と受け継ぐ勇者(バカ)6
『ママ、みーも。あとかちゃずけのおてつだいすりゅーね』
『「後片付けね」うん、じゃあお願いしようかしら。それじゃみーちゃんはママが洗った皿をこの布きんでふきふきしてね』
『えー、みーも、もこもこしたいよ~! ふきふきじゃなくて、ママみたいにアワアワで、シュワシュワのもこもこしたい~!』
『もうー、みーちゃんったらそれが目的だったのね。でも、駄目。この「洗剤」っていう、泡がいっぱい出るけど、みーちゃんくらいの歳はまだ肌が荒れちゃうから駄目よ』
『アレ、しちゃうの?』
『荒れちゃうの。あと、そんな言い方しちゃ、めっ、よ? 言うならもっと大きくなってからよ』
『? なんでなんで? アレしちゃうっていけないことなの? アレしちゃうってなに?』
『フフフ、なんでもないわ。……そうね、荒れちゃうが分からないなら、手が真っ赤になっちゃって、イタイイタイしちゃうのよ。みーちゃん、イタイイタイしちゃうのヤダでしょ』
『え、イタイイタイしちゃうの? みーやだよ~。シュワシュワってイタイイタイ、こわいよぉー。おフロのシュワシュワもイタイイタイしちゃうの? みーちゃんのあたまもイタイイタイしちゃうの? シュワシュワこわい』
『お風呂の? あ、シャンプーは大丈夫よ。あれはイタイイタイしないから。大丈夫だから泣いたら駄目よ』
『うん。……おフロのはちがうの? なんで? おフロもシュワシュワってすりゅよ?』
『お風呂のとは違うものだから大丈夫よ。……それにしても本当にすごくシュワシュワって泡立つわね、これ。ママもびっくりしちゃったわ。流石はスリーセブン商会の商品ね。この間も新しい種類で洗濯用洗剤もの出たしね』
『ねー。せんじゃいはイタイイタイ。ちゃんぷーいたくないいたくない?』
『そうよ、何でも魔獣を退治してくれた、救世主様が考えて作ってくれたものね。救世主様の英知は本当に素晴らしいものね』
『きゅーけいしゅーちゃま、エライエライ?』
『そうよ。みーちゃんも大きくなったら救世主様みたいにみんなのためを思って、みんなのことを幸せにしてくれる偉くて優しい人になってね』
『エライになったら、ママもよろこんでくれりゅ?』
『ママだけじゃなくて、みーんな、みーちゃんにありがとう、ってことを言ってくれるわよ』
『そっか。なら、みー、なりゅー! 大きくなったらまぎゅーもたおしてママからも、みんなみんなからも、ありがとうって言ってもらえりゅーようになりゅね』
『フフ、魔獣は倒さなくてもいいわ。でも、そうね。優しい人にはなってね、みーちゃん』
『うん、みーがんばりゅー』
『フフ、あ、そうだ、みーちゃん。少し前まで使っていた石鹸を使ってシャボン玉でも作りましょうか。あれでもしゅわしゅわでもこもこできるわよ』
『わーい、すりゅすりゅ!』
『じゃあ、その前にお片付けしよっか。みーちゃんは小さい皿だけをふきふきしてね。大きいのはママがやるから』
『はーい』
× × ×
結局、あの後……三人して部屋にから追い出された後、一先ず、朝食にしようとテーブルに三人、席についてインドアさんを待つこととなった。
あんなことがあったばかりで空気は気まずく、重い、ピリピリしたもの。ニートさんはまだ怒りはまだ静まっておらず、一人険のある空気を放っていた。そのせいで、という訳ではないが俺も俺で、ニートさんには少なからずに思っていることがあった。
いきなり、キルにあの態度は一体どういうことだ。錯乱している相手になんてことを、一歩間違えれば絞め殺していたのかもしれない。それが酷く許せなかった。
だが、あの時のニートさんの様子もおかしかった。キルの言葉を聞き、途端に怒りを覚えていた。『お前が、オカノハラリョウスケを転移させたんだな、そうなんだな!』と、言っていた。あれは岡之原に対する八つ当たりであり、同時に岡之原に加担するもの全てを許さない、との怒り。
最初はニートさんの態度からして言う通り、インドアさんに雇われているから、仕事だから、という理由で俺たちの戦いに付き合ってくれているばかり思っていたが、……それとは別に、ニートさん個人の理由としても何らかの事情があるのかもしれない。
ニートさんのただならぬ雰囲気からして何かしらのわけがあったのかもしれない。
稽古の時のシゴキは鬼畜野郎の、いつか絶対に仕返しして、泣かせてやる思わせるほどクソ野郎ではあるが、基本頼れる兄貴肌で食事に関しては大変お世話になっている面もある。
信頼しているからこそあの態度は許せなかったし、そして今どうすればいいのか分からなかった。
一体、ニートさんと岡之原の間になにがあったのか。そう、訊けばいいだけの話かもしれないけど、まだ互いに怒りが冷めてないのでとても訊ける空気ではない。
ニートさんは何か対して苛立ちを覚え、俺はキルに手を上げたこと許せないでいる。どちらか大人になって、クールダウン、……というか俺が怒りを矛を沈めればいいだけなのだが、だってこの場合俺が怒ることは少しおかしいような気がするし、ニートさんは自分の中にある、因縁か何かがのせいで冷静さが欠けてしまっているんだからそう簡単には静まらないだろう。
だから俺が『どうしてあんなことをしたんですか』と訊ねればいいだけだ。
まともに返答が返ってくるは分からないが、少なくともそれで俺の中のわだかまりは治まったのだと、ニートさんにも、そして自分にも言い聞かせることができる……はずだが、俺はそれが出来なかった。
キルの泣き声がまるでどしゃぶりの雨のように家に響き、時々、大声を上げる声が聞こえるとニートさん眉間に青筋が立ち、チッ、と舌打ちする音が、小さくだが、ハッキリ俺の耳に届く。その態度に俺も眉間に皺を寄せる。
不穏な空気の沈黙が食卓を包む。不愛想な顔して向かい合わせの席に位置づいておりながら、互いに互いを一切見ない。が、見えない壁や覇気のようなものは静かにぶつかり合っているのが互いに認識していた。
そんな空気の中で一人、どうどうとそんな空気なんてどうでもよさそうに、いつも通り無表情のまま平常運転といわんばかりの態度で食事の手を進めているのはその名の通り、一本の我が道を逝く、夜名津我一。
内弁慶で自分から話題振ったらさっき俺と話していたように喋りまくるが、振らないなら一切喋らない。
和やかな良い空気だろうとギスギスした悪い空気だろう、基本沈黙がスタイルを貫き通す。自分は関係ない、関係があっても最低限で済ませようとする、こういう場合には一切役立たない、自分勝手な奴。
ま、コイツには何も期待すまい。変に喋られて余計この空気を悪くされたらたまったもんじゃない。
そのまま朝食は不穏な空気で始まっては不穏のまま終わりを告げるように、食べ終わった、というよりか純粋に食事を切り上げた……食欲が失せた調子でやめ、ニートさんは席から立ち上がり、そのまま玄関に向かう。
目で追いながら呼び止めようかどうか迷っていると、ニートさんはただ一言告げる。
「稽古は勝手にやってくれ………一人にしてくれ」
それだけ言うとニートさんは家から出て行った。
無言で閉まった扉を眺めながらはぁー、と息を吐いて背もたれに寄りかかる。むしゃくしゃ気持ちのまま、どう整理させればいいのか分からず途方に暮れる。
隣に視線を移して黙々と食事を続ける夜名津に訊ねる。
「……お前は何か言うことはないのか」
「ん? 特にはないけど……あ、じゃあそこのソース……じゃない、えーとなんだっけ…………あ、ジャムだ。黒っぽいブルーベリージャムみたいなの取って」
……コイツに周囲を気にするとかデリカシーとかないのだろうか。
ご注文通りの品を取ってテーブルに叩きつけるようにして乱暴に置く。ありがとうと一言礼を言い瓶の中のジャムを掬いあげて、パンに塗って口へと運ぶ。
「ニートさんと岡之原の間に何があったんだろうな」
「さあ?」
ゴクンと呑み込んで俺の呟きに返答してくる。目を細くして夜名津を見つめる。
「お前は少しを気にしろ」
「と言われてもね。ずっと寝むっていた僕は君と違ってほとんどニートさんのことは知らないよ。会話したのも精々、さっき、起きた時の挨拶とご飯ができるから君を呼んできてくれ、くらいしか話してないし。見た目からして怖いし、さっきの取っ組み合いの出来事で、あ、キレやすそうな人だ、あんまり近づかないでおこう。……くらいの要注意人物、って認識だけど」
「……まあ、そうなるのか………?」
そう言わればこちらとしても強くは言えなくなる。眠っていた夜名津と、数日剣を交わし、同じ飯を食い、言葉を交わして過ごして俺とではニートさんの知っていること知らないことに差がどうしてもできてしまう。
付き合いのない夜名津と、付き合いが短い俺との間であっても、それでも十分な差だ。
「でも、それはそれとして、気になりはしないか?」
「いや全然」
「頼むから少しは興味を持ってくれ」
スープを啜っては少し面倒くさそうな顔をする夜名津。
「じゃあたぶん、ニートさんの彼女だった人が、ニートさんが働かないとか理由で気持ちが離れていって、ある日岡之原君に出会ったことで新しい恋という名のハーレム要員の犠牲者になったんだよ。そして彼女の気持ちを取り戻そうと彼女の元へと行くとそこに岡之原君が現れて『お前が悪いんだよ、アイツの気持ちを考えずに自分のことばかりで。そんな奴が誰かが好きでいて続けてくれるわけないだろう。何もしなかったおまえではな』とかなんとか言われてニートさんはそれに激怒して飛び掛かったけど返り討ちにあって、それで恨んでいるんだよ。きっと」
「そんなDQNな人間像で変な憶測をやめろ。いい加減、NTRからも離れろ」
無駄に想像力働かせやがって。少しあるかも、とか考えてしまったじゃあねえか。……あるのかな?
少し心の中で葛藤ができて悩んでいると、その間に夜名津は食事を終える。
「ご馳走さま」
夜名津は席を立ち、自分の使った食器はキッチンへと運んでいく。俺も急いで皿に残っていたものを平らげて夜名津の後を追う。キッチンで夜名津は不思議そうにキッチン周りをウロチョロして、何かを探しているような様子。その様子を見て、既視感を覚えながら告げる。
「水はそこの水がめな。そこの紐とか棒の付いた樽とか使え」
「お、そうか。……あー、そうだよね。普通に水場あるのに肝心の水が出る蛇口とかないと思ってどうしようか迷ったけど。ありがとう」
頭にはてなマークを浮かばせながらも、夜名津はすぐ理解した。俺が指さした大体、俺たちの胸元近くある大きさの水がめへと近づいていく。
この前俺も同じ疑問持ったんだよな。こういうところって現代っ子は驚くもんな。捻ればすぐに水が出る蛇口とか違って、わざわざ水を汲んで水を貯めておく。こういうところも異世界としての面として見える。
感慨深く思いつつ、夜名津は蓋を開けて水がめから水を汲もうとすると。
「……これってもう水がなくない」
「マジか? ちょい俺にも見して」
夜名津と場所を変わり、俺は水がめの中を覗いて確かめる。中の水はだいぶ減っており、汲み取ろうとしてもあまり汲み取れないことが分かる。それでも頑張ればなんとか食器を洗うくらい量くらいはありそうではあるが。
「あー、確かにこれ少し厳しそうだな。汲んできたほうがいい―――って、うおおおいぃぃ!!?」
「あ」
言いながら振り返ると夜名津が持っていた蓋の俺に向かって殴りかかろうと振りかざそうとして反射的に両手を前にして防御の態勢を取るが、殴ってくる衝撃は来ず、夜名津を見ると殴りかかろうとする姿勢をやめており、こちらも防御の構えを解く。
「ま、マジびっくりした~~!! ……いきなりなに振りかぶってんだお前!!?」
「あ、いや、ほら、無防備な背中晒すから。ああ、これがホラーサスペンスとかだったら、ここで後ろから頭を殴られて、そのまま殴られた勢いで水がめに入った、殺人風景の図になるな。って思いながらその体で遊んでた」
「中学生みたいなことすんなよ。うわ~、マジでビビった」
「うん、計画通り計画通り」
グッジョブと親指を立てる夜名津に、恨みがましく睨みつけた。
ホント、中学生みたいな悪戯しやがって! お前がするとマジでホラーサスペンスも飲みたくなりそうで怖いんだよ。その無表情のままで行動するのをやめろ。クラスから「殺人鬼みたいで怖い」って陰口叩かれている原因の一つだろ。俺もそう思っていたし。
そう罵ってやろうかと思ったらそんなこと言うと鬱モードになって凹むのがみえているので黙って抑えておく。
「うん、次のチャンスでは包丁でスタンバっていることにしよう」
「ガチで殺る気満々の態勢はやめろ! マジで怖い!! いや、冗談抜きで本気頼みますホント、夜名津さん勘弁してください」
「分かった。任せろ。僕はエンターテイナーとしてその振りに応えてあげられるよう努力しよう」
「しなくていいしなくていい」
もう一度親指を立てる夜名津に対して割と本気の懇願、もとい冗談もそこそこに話を無理矢理戻す。
「それより水汲んでこないと。もう二、三日くらいは滞在することになりそうだしな」
「ま、ホームレスちゃんがあの調子じゃあねえ。でもそう呑気に構えていられないよ。あちらさんの追手もいつ来てもおかしくないからね」
「ああ、わかっているよ」
夜名津が言葉に頷く。夜名津が危惧しているのは、岡之原の陣営からの追手。
城での戦いを終えてもう五日目だ。城埋めになったディーネリス達のことを考えると、帰ってこないあるいは連絡が来ないことに不信に思ってそろそろ追手や捜索隊みたいなの派遣されて、いつ新たな襲撃が来てもおかしくない。
「幹部が欠けたとなると、次来るのは岡之原君本人って可能性も高い。そうなればゲームオーバーだ。魔導も出来たてほやほやの僕と、育ち盛りで剣もない君じゃあ世界を狂わせている英雄相手は話にならない。それに怖いよ、自分に好意を寄せてくる相手を殺した主人公の怒りは」
「……キルを見捨てろと言いたいのか?」
声を少し低くして夜名津を睨みつける。冷めてきていた怒り火が再燃焼し始めている。夜名津は俺の瞳を見るとポーカーフェイスのまま返す。
「違う。その案は僕の中じゃあ三番目あたりに絶対やってはいけない案だ。犠牲なんて、……あの城の時で十分だろ」
最後の夜名津の言葉は何よりも重く発せられた。
城でのこと、何もできない俺たちをコールさんの大きな助けで俺たちが助かったんだ。
他人がどうなろうと知ったことではないと、どこか自分と他人は識別の線を引いている、ドライな部分があるこいつだが、流石に人の生き死となるとその価値観も捨てているのか。
てっきり、人を切り捨てることに何の躊躇のないと思っていたが、それは違った。
夜名津が、それはないと断言する言葉には説得力があった。
「だから、僕の案は泣きわめくホームレスちゃんをぶん殴って黙らせて、気を失って動けなくなっているうちに担いでも移動することだ」
「……お、おう」
それはそれでどうなのかな? 人として。いや、緊急時だってことはその案が多少強引ではあるが『有り』なんだろうけど。……言い方がちょっとな~。
「あまり物騒なことはやめてもらっていいかしら?」
と、止めに入ったのは俺ではない。音質のいい、高い、女性の声だ。そちらに振り返るとそこに苦笑した表情のインドアさんがいた。
気が付けばキルの泣き声も止んでおり、落ち着いたのかインドアさんが上から降りてきた。
「キルはもう大丈夫なんですか」
開口一番に訊ねるとインドアさんは首を横に振る。
「今は泣きつかれて眠っています。でも、すぐに空腹で覚ますと思います」
「起きた時の空腹感ヤバいですからね。僕も腹減って死にそうだったし。彼女はよくあんなにも暴れる元気があったのが不思議なくらいです」
同じ経験者が語る。不思議と言うが顔と口調は全然不思議だと思っていなそうに言う。それにインドアさんも返す。
「空腹感でのイライラも、精神面でもショックも、魔力が口渇状態なのも、色々といっぺんに悪い状態になってしまってパニックを起こしたんですよ。もうやってられない、ってくらいに」
「……………」
「次に目が覚ましたら暖かいスープとご飯で、お腹いっぱいに満たして。あと、できるなら少しお話も聞いてあげて、気持ちを軽く、楽にしてあげようと思います。今は毒を散々吐き出しましから。今度は優しさを、暖かさをあげる番です」
「……そう、してあげてください」
俺がそういうと、優しく微笑み返してくるインドアさん。
「ニートはどこにいますか? 少し話をしたいんですが」
いないニートさんのことを訊ねてくる。俺は少し顔を歪めて、夜名津の方をみる。目が合うと仕方なそうに夜名津が答える。
「一人にしてくれて、言って出ていきました」
「そう、本当に仕方がない子ね」
呆れたように息を吐くインドアさん。
「ごめんなさいね。ニートが変な態度を取ってしまって」
「あ、いや……別に気にしてませんよ」
夜名津の方を見ずに、俺だけをみてニートさんの代わりに謝罪の言葉を口にする。少し戸惑いつつも気にしてないと告げる。そうすると、仲裁に入られると自分が持っていた怒りも消え、少しだけばつ悪い気持ちになる。もともと何も聞かずに一方的に悪いと思っていただけだ。
俺とニートさんの間に溝ができたのは俺の一方的な思いがあったからだと、反省。
そう、ようやく気持ちの整理をつけて、ニートさんには聞けなかったことをインドアさんに訊ねてみることにする。
「あの、それよりなんでニートさんはあんなことを……。キル、というか岡之原に恨みがあるんですか」
訊ねると少し口に手を抑えて、視線を下げて何かを考えているインドアさん。間を開けてから口を開く。
「細かい事情は私の方でも詳しくは存じてません。この前、オカノハラの影響で文明が進化したという話はしましたよね。ニートの故郷はその進化に対応しようとし、今までの文化を忘れようとした村の一つで、ニートはそのことに強い恨みを持っています」
故郷が改革した。とだけ訊くとある意味、故郷を巣立ち、お盆などで久しぶりに帰郷した際に町の様子が少しだけ変わっている、ことに気づいて哀愁が匂わせるようなものくらいにしか思えないが。
夜名津も同じことを思ったのか、どう思うと目で投げかけてくる。よく分からんとだけ返す。
私が言えることはここまでです。とインドアさんもそれ以上のことは知らないのか、それともわざと話してくれないのか。なんにせよそれ以上の話を聞くならばやはりニートさん本人に訊ねなくてはならない。
インドアさんは話を続ける。
「けど、それが私がニートを仲間にした大きな理由一つ。決しておいしい料理を作ってくれるからではありませんよ。ええ、本当に作ってくれるからだけの理由ではないですからね」
大事なことなので二度繰り返す、肥満の女性。
あ、やっぱりそういう面でも見ていたんだこの人。夜名津と二人少し言いたげな顔でインドアさんを見つめるが、それを無視して話を進めるインドアさん。
「つまり、強い恨みを持っているから仲間にしたんですね。憎しみや恨み、復讐心は強い力を生むからってことですね」
「いえ、それは少し違います」
夜名津は実にらしい、負の面をベースに考えで話して納得していると、つかさず違うとインドアさんは突っ込んできた。
俺も内心では似たようなことを考えていたので、突っ込んできたことにそのことに驚く。
ならば、何でそんなにもニートさんを特別視しているのか。純粋な戦闘でも直接手合わせをしてもらっている俺だが、いつもボロ負かされている俺がいうのもなんだが、それでも岡之原の陣営に対抗できるほどの強さを持っている人には感じられない。
そして、インドアさんは告げる。ニートさんが特別視されるゆえんを。
「ニートの存在はオカノハラに対する上ではある意味必要不可欠の存在です。何故ならニートは救世主オカノハラリョウスケとは直接的には出遭ってはいない。影響を受けていない、それがニートの強みです」