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夢見る戦士(バカ)と受け継ぐ勇者(バカ)1

前章までのあらすじ

パワポケの復興を願う僕、夜名津我一はパワポケ信者を増やすため、数少ない友人にしてロリコンの変態、雨崎千寿君に洗のうゴホンゴホン、布教作業に勤しんでいたある日、彼の家のおじいちゃんの部屋から龍が生まれて呑み込まれてしまい、目が覚めたら異世界にいた。そこは僕たちよりか先に転移されて世界を救った、最悪人類の救世主なんとかかんとか君が英雄視されている世界だった。彼のせいで世界がおかしくなっているらしく、その彼を倒してくれとき、き、き、……なんとかホームレスちゃんに頼まれる。 同時に彼のハーレムメンバーの女の子が三人が僕らに襲い掛かってきた。覚醒したり、パワポケ知識を駆使したり、犠牲を払いながらも何とか命からがら逃げられた僕たち(※僕は二回ほど死にました)

果たして、パワポケは復興することはできるのか!? パワサカのSwitch版出るとして、その時の姉妹版としてあのパワポケの世界観を出してくるのか!? あと、ついでに勇者として召喚された雨崎君と救世主のなんとか君の運命はいかに!?



 夜の森の中はひどく冷えた空気だった。長時間歩き続けているせいで呼吸は乱れて、全身から流れ服に染みつく汗、森の草や木々の放つ特有の澄んだ冷たい緑の香りが鼻にきて、さらに体が冷えるのを感じる。


 が、それに耐える。今の自分の状態以上に心配だったのは背中に背負った小さな重み。眠ったままの起きる様子を一切見せない少女、キルレアル・ホームレス・ロードことキル。その身が気になった。


 城での激戦を終えて彼女はまだ目を覚まさずに俺の背中で眠ったまま、そして移動のせいで疲労も溜まってしまったのか、熱まで発し始めたのだ。


 できることなら早く医者に見せて休ませてやりたいところだが、残念ながらここは森の中。人っ子一人としてその気配はない。


 森に入ってから数時間は歩き進んだ。途中、何度か休憩をはさんだりもしたが、歩き続けた。


 一先ず、目的としてはこの森を抜けることと、あるいはどこか休めるような場所……例えば森にひっそりと暮らしている人間がいて、そこに住んでいる家や小屋といった休められそうな場所を見つけてキルを休ませることだった。


 けれどそんな都合の良いものはなく、ただ永遠と夜の暗い森の中を月の光を頼りに彷徨っていた。せめて飲める水の川や湖がある場所の存在があってほしい、と夜空の星々に願う。


 真円が少し欠けた形をした月を中心に光りを舞う星空。森の木々のせいで光は差されるが、明るさ充分。そのおかげで道自体は迷うことはなく、前進することに迷いはなく進行することができていた。


 あと、何キロだ? 何メートルだ? あとどれほど歩けば家がある? 小屋がある? 水がある? 火がある? 食べ物がある? 医者がいる?


 頭の中で何度もそのことばかりを重複する。


 すると、雨崎君、と名前を呼ばれて我に返って後ろを振り返る。後ろには全身ズタボロに引き裂かれて血まみれの衣服を着ているが、外傷自体はない無表情の男、友人の夜名津我一が話しかけてくる。


「もう、ここいらで休もう。流石に限界だろ?」


 少し息を切らしながらそんな提案をしてくる。いつも無表情のコイツが疲労の色をみせていることは珍しかった。それだけ疲れが溜まっているんだろう。


 確かに最後の休憩をとってからだいぶ時間が経ったような気がする。キルのことも心配だけど、俺たちも体力的にキツイ部分も出てきている。休むならそろそろいいだろう。


「ホームレスちゃん、おぶわれているだけでも体力は消費するって言うし、一度横にさせて休ませよう。僕らもだいぶ歩いて体力的にキツイ」


「……そうだな。少し休むか」


 夜名津に同意してできるだけ寝心地の良さそうな場所に背負っていたキルをそっと下ろす。寝転んだキルは息も乱れ、やはり熱も出ているみたく顔は赤く苦しそうな状態。額に手を伸ばして体温を測ってみるも熱くて火照っていた。


 クソっ、早く医者に診せねえとマジでマズイことになるかもしれねえな。


 そんな歯痒い思いを抱きながら俺はすぐ隣に位置に座り込む。対面するように夜名津も木に寄りかかってこちらを覗いていた。


「どうだい? 彼女の様子は」


「駄目だ、ガチでキツそうだ。熱もあるし、早く医者に診せなきゃマジでやばいぞ」


 そうか、と額の汗を手で拭い去りながら夜空を見上げる夜名津。乱れている呼吸を整えていてから。


「どうする? 正直このまま進むのも体力の限界だし、夜ももう遅い。それでももう少し進むかい? それとも一旦ここで野宿して明日の朝に更に進む?」


 夜空に顔を上げたまま夜名津がそう提案してくる。進むか、一旦やめるか、と。しばし考える。キルのことは確かに心配だが、俺達の体力も無限というわけじゃない。俺たちも体のほうも限界と悲鳴を上げている。


 この世界に転移してから数時間は経つが、襲われて、逃げて、走って、倒れて、抱えて、逃げてから動きっぱなし。城から離れ、森に入ってからも歩いて休んで歩いての繰り返し。当然、水や食料などはない。いや、本来なら逃亡の際にキルが準備してくれたナップサックがあったはずなんだが、逃げる際のゴタゴタでどこかに失くしてしまった。


 あれさえあれば食料や水、そして救急キットくらいの装備あったはずなのに!


 自分の失態がこうも頭にくることなんてなかった。せいぜい、欲しかった限定版のゲームの予約を忘れて逃した時に湧いたがそれとは比べられないほど自分に対して頭に来た。


 けれど、もう過ぎたことを悔やんでもあのときには戻れない。


 悔やむ思いを抑えつけて、思考を回しに回してから夜名津に言う。


「今日はここで野宿する。もう夜は遅いし体力も限界だ。……気休め程度でも眠って体力を回復されたほうがいいだろ」


 考えに考えた結果俺は休むことを選んだ。森の中でなんの装備もなく野宿するとはだいぶ危険なことだと思うが、そんなこと森に入った時から承知の上、このまま歩き続けるのに比べたらマシだ。一晩休み、体力を回復させて明るくなったところで進んだほうがよっぽどいい。


 夜名津も同じ意見だったようで深く頷いた。


「賛成だ。もし、先に進むっていうんだったら、僕を置いて先にいけ、言っていたよ」


「死亡フラグかよ」


「あるいは、こんなこともう嫌だ、僕はもうここに居座るぞ! って言ってたね」


「やっぱ死亡フラグじゃねえか、……っておい、どこに行くんだ?」


 いつも通りの馬鹿なやり取りをしていると、急に立ち上がってどこかに行こうとする夜名津を慌てて止める。


「川とかないか少しだけ探索してくるよ。必要だろ? 水。大丈夫、すぐに帰ってくる」


 振り返らずにそれだけ言うと俺たちが歩いてきた整備された道とは違う、草木の生い茂る森の中へと入っていく。おい、と俺が呼び止めるがそれを無視して夜名津は深い闇の中にあっという間に消えて行く。


 後を追うにも寝たきりのキルを一人にすることはできず、夜名津を追うことは出来なかった。


「あー、もう、あいつは全く」


 行ってしまった夜名津に対して呆れ果てて悪態つき、頭を掻きむしる。


 ったく、協調性とか助け合いとか、少なくとも話し合うとかちゃんとしてから行けよ。……いや、したらしたで口先三寸で言い負かされて、結局俺が残って夜名津が動くことになっただろう。


 普段は大人しいやつで実際の中身は面倒くさがりな性格の夜名津なんだが、こう、やると決めたらやるというか、自分の興味があることになると普段とは比べられないほどの集中力と行動力を起こすやつ。


 学校でも教室で人と話しているよりも一人でラノベ読んでいたほうが楽しらしいし、面倒な課題が出た時も班でやるよりか一人でやった課題の方が良かったり、清掃ボランティアとかでアイツ任された掃除スペースは異様に綺麗だったりと何か得意分野に嵌まると強くワンマンプレイヤーというべきか。協力プレイとか連携ができない。


 あの時の話、『自分の好きなようにさせてもらう』とかの要望もたぶんそんな性格から来たのはすぐに分かった。


 あと、一人で何でもやる性格のせいで培ってきた器用さが強いせいか器用貧乏な面もある。


「まあ、アイツはとりあえずほっといても大丈夫だろう」


 むしろ、ほっといたほうがアイツのためといえる、そう思いながら俺は思考を切り替える。


 この先のことは一体どうするかだ。


 一先ず、今晩のことは決まった。問題は明日からだ。


 少なくとも森から出てキルを病院に連れて行くのは最優先。が、それはどうする?


 この森を抜けたすぐ先に町はあるのか? もしかしたらもう数日先のところに町があるんじゃないのか。町がすぐそこにあって病院に行けたとしてキルを本当に助けられることができるのか。治療費はどうする? この世界の金どころか自分たちの世界の金すら持ってない状態でも病院で診てもらえることはできるのか? 仮に診てもらえたとしても、何だか影響で手遅れだったらどうする? もう救える手がなかったら。助けられなかったら。


 なんともいえない黒く重いものが胸の中に棲う。それは締めつけたり、握りしめたといったことはないが、ただそこに大きく存在しているだけでそれ以上のことはないけど、だけどそこにいるとだけ感じているだけで、不快いで不安な嫌な気分になり俺を貶める。


 手で額の汗を拭い去るようにそれも消そうする。が、汗しか取れなかった。


 不安になることは他にある。


 追手についてだ。


 人類最悪の救世主こと岡之原亮介の陣営。俺が勇者()であるが故に襲ってくる刺客、女騎士ホレン、魔法使いシアト、そして女盗賊ディーネリス達のような奴らがまた襲ってくるのは目に見えている。城ではキルとコールさんのおかげでなんとか逃げ切れたけど、また襲撃されたら打つ手はない。


 どうやってあの連中を迎え撃つ? 武器なんてねぇし、魔法も知らないし使えない。唯一知っていて戦える人物たるキルは眠っている。


 ろくに戦ったことなんてない俺たちが戦って勝つことは、生き残ることは困難。不可能に近い、ハッキリ言って無理ゲーだ。クソっ、どうすればいい。


 考えれば考えるほど沼に、底のない絶望の沼に沈んでいっているのがわかる。足掻いても足掻いても打開できる手はなくてただ静かに順当に沈んでいく。


 駄目だ、頭が痛い。考えること全部が全部、悪いほう悪いほうへと考えがいってしまう。


 怠い、重い、辛い、怖い、疲れた。頭の中の負のことでいっぱいになって、体も頭も心も疲れ果ててそのままぐちゃぐちゃになって何も考えられなくなる。ここに来てどっと疲労が出てきやがった。


 何とかしないと何とかしないと、思う気持ちはあっても頭はついていかない。視界もぼやけて重たくなっている瞼、意識も遠のいていく。虚ろな呆けた状態でもう寝ているのか起きているのかすら自分でもよく理解らない。


 ただ、目を開けて景色が見えるから「あ、起きているんだな」と他人事みたいな感想だけを抱いていた。


 どれくらいその状態が続いたのか、いっそうっすら寝ていたのかもしれない、そんな時だった。突然風もないのにササッと草木が動く音が聞こえた。夜名津が帰ってきたのかと相変わらず上手く機能してないぼやけた頭でそう思いながら音をした方に首を曲げる。


 そこには二つの大きな陰が立っていた。一つは縦長く、もう一つは横に広い大きな陰だった。


 なんだ、人? 夜名津か? いや夜名津はこんなにデカくないし、それに……二人いる?


 状況が理解しきれていなかった。月の逆光のせいで顔はよく見えないけど姿形からしてそれが人だということはわか、あれ? 縦長いやつ左肩が盛り上がってないか? ……あ、 肩パットか。異世界だもんな、肩パットくらいあるよな。


 肩パットが変形してペガサスになったり、肩パットの監獄長と肩パットの死神のラブコメとかそれくらいのことはあったりするよな……いや、それは漫画の漫画か。うん? なら漫画の漫画ならつまり目の前にいるのは縦長の肩パットはザーボンさんで、横長なのはドドリアさんってことか。あ、そっか、ザーボンさんとドドリアさんが目の前にいるってことは………これは夢なのか。うんそっかそっか。フリーザ様の命令でドラゴンボールを集めているのね。ナメック星だもんね。


 疲れ果てて、滅茶苦茶な思考回路のままドラゴンボールの夢でも見ている気でいた。夢だと思うと今日あったことも全部が全部、ただの夢だったような気がしてきた。


 ああ、夢なのかならちゃんと起きないとな。と先ほど変わらない他人事のように全く起きる気力のないことを思っているとドドリアさんが何かを口走る。


「ーーーーにーーたーーー」


 え、なんだって「こんなところにいたのね」だって?


 寝ぼけた状態でドドリアさんの言ったことは何とか聞き取ることができたが、その意味はまるで理解しきれなかった。なんだ、その、……まるで俺のことを知っているみたいな言い草は。俺のことを知っているのはここにいる夜名津とキル以外の人間はい―――。


「!?」


 ここでようやく頭が醒め、気力を振り絞って起き上がる。


 そうだ、何寝ぼけてんだ、俺は。馬鹿ヤロウ! 今現在で俺達のことを知っているやつなんて最早それはただの敵でしかない!


 緊急と頭の警報で火事場の馬鹿力を発揮したのか、今までの呆けと疲労が嘘のように消え、警戒心がグッと高まる。よし、動けるぞ。体の具合を確認しながら、あとはどうするかと探るように俺は二人と向かい合う。


 突然、俺が起き上がったことに驚いたのか、二人は一歩引いた。と、そこでようやく気づいた。ザーボンさんじゃない、縦長の男が左肩に掲げているのは肩パットなんてもんじゃなく、もっと見覚えのあるもの……人物だった。


「夜名津!!」


 だらっと、布団干しのように肩に垂れ下がっては全く動く気配のない夜名津がそこにいた。


 それが目に入ると俺の中で怒りの感情が湧いてくる。


「お、お前ら何を」「待ちなさい!!」


 恫喝している途中でドドリアさんではなく、横長というか肥満体型の、声質からして女性と思われる人物から止められる。


「待ちなさい、落ち着いて。……いい、良く訊いて。私たちはあなた方の敵ではないわ。いいかしら?」


 落ち着いてありながら芯が通っていて、人を安心させるような声色で諭すように話してくる彼女。その彼女の雰囲気に呑まれて、口に出かかったもの飲み込む。だが、警戒心は解かずに二人を睨みつける。


 肥満女性ことドドリアさんは俺の睨みに怯むことはなく、一歩前へと足を伸ばす。


「確認したいことがあるわ。この子はあなたの友達でいいのかしら」


「……ああ」


「そう、……ならあなたはもしくは彼が………異界からの勇者だったりするのかしら」


「!! ……お前らやっぱり」


 やはり彼女たちは俺や夜名津を異世界から来たことを知っていて、それで勇者だと当たりをつけている。やはりこいつら岡之原の陣営。


 どうする、キルを連れて逃げるか? いや、キルを抱えたまま逃げ切れる自信はない。それにそれをした場合、夜名津を置いていく羽目になる。


 思考をフル回転させるがこの状況を打破できるアイディアがないか巡らせるが案は浮かばず、半ばヤケクソ気味に叫ぶ。


「ああ、そうだよ。俺が勇者……勇者雨崎樹海の孫で、雨崎千寿だ! 夜名津を放せ、そいつは……そいつは関係ないんだ。俺に用があるんなら相手になってやるからそいつを解放ーーー!?」


 自分の身を投げ出す思いで名を語り、夜名津を解放させようとそう叫んだけど、それを聞くや否や突然肥満の女性は膝を折って地面に手を付けて頭を垂れたのだ。


 それはまるで忠誠心誓う騎士のような頭を垂れるような格好だった。何が何なのかよく分からずに戸惑う俺を他所に彼女は続ける。


「探しておりました、勇者千寿様。私の名は巫女のインドアといいます。聖なる神獣、獄天龍カオスヤバスより天命を預かり、これより私はあなた様への助力を微力ながらも尽くすことをここへ誓います」


「へっ!? いや………へっ!?」


 え、巫女のインドア? 獄天龍カオスヤバス? どっちにしろ名前のセンスがヤバス……じゃなくて! あれ、名前のセンスはともかく獄天龍って確か、あの俺たちをこっちの世界に連れてきた龍だったよな。


 あれの………巫女? 肥満体質の女性が? え、普通巫女ってガルフレの森園芽以ちゃんみたいな黒髪ロリっ子の可愛い子じゃないのか!? 異世界だからこんな肥満系巫女なの……いやだからちょっと待て俺! 今はそういうことでもなくてだな、助けるってことは岡之原の陣営とかじゃないのか? あ、太っているからひょっとしてハーレムメンバーに外されたのか。太っている女キャラのは駄目か、可愛いヒロインじゃなきゃダメなのか。私がモテてどうすんだの主人公もやっぱり見た目が大事って過酷な現実を教えくれたしな。あ、でもBUYUDENのもかちゃんは個人的に普通に有り……だからそう言うことでもなくてだな! うん? あれあれ?


 名乗り返されたが彼女の言葉が上手く呑み込めず、一気に頭の中が大混乱する。何とか自分の中で考えをなんとか要所要所の部分で繋ぎ止めて、必死で冷静さ取り繕いながらまとめ上げていき、そして出来上がった結論を口にする。


「えーと…………あんたたちは……俺たちの……味方ってことか?」


「はい、千寿様」



 肥満の女性が顔を上げ、俺と目を合わせて返答する。その真剣な眼差しに嘘はない………と思う。


 すぐには信じられなかった。


 なんと言うか……ふっと沸いて出てきた幸福と言うか、棚から牡丹餅とか言うか、流石にこのタイミングでの助っ人というのは都合が良すぎるというべきか、確かに漫画とかならそういう場面もあるけど………現代社会で育った俺としてはイマイチ信頼しきれない。


 信用しきれない悩んだ俺の顔を見るや、立ち上がる肥満女性ことインドアは優しく諭すように話してくる。


「千寿様、突然現れて信用できないのはよく分かります。色々と思うところがあると思います。ですが、詳しい話は後で説明致します。今はお連れの方々の具合をみますと一刻を争う事態です」


 そう言われてから二人の状態を思い出した。キルはあんな状態だし、あの縦長の……身長が高い男性に担がれている夜名津も全く動く気配がない。そのことに不安を覚える。


 この人の言うとおりだった。今は助けもらうしか俺たちに道はなかった。


「今は私たちを信じてください千寿様」


「……………分かった。今はあんたたちを信じる」


 彼女たち対する猜疑心は一先ず自分の中に抑えつけて彼女言うことに従うことにした。するとインドア……


さんは安心したように笑みを浮かべる。


「ではすぐに移動しましょう。この先に私たちがキャンプを張っているので付いてきてください。あ、あと彼女は……私が運びますね」


 インドアはキルを抱きかかえてそのまま前を歩く。夜名津を担いだ身長の高い男性を先頭に俺たちは森の中へと足を踏み入れる。



× × ×



 インドアはキャンプを張っていると言ったので、想像では簡易的キャンプ用のテントでも張っているのだと想像していたのだが実際についてみるとそこには家が、俺が何となく希望的観測で藁にも縋る思いで想像していた森の中の小屋よりも立派なもので、森のコテージと言っても過言じゃない代物が建っていたのだ。


 インドアたちの登場といい、何だかキツネにつままれている気分に陥るが、「早く中へ」と催促されて誘われるがままにコテージへと。


 外装だけではなく中もしっかりとした作りになっていて明るくて温かい、木造建築特有の木の良い香りが鼻を澄ませる。また、食事の途中だったのかテーブルには食べかけの食事が……明らかに二人分の量としてはありえない量が大きめのテーブルにいっぱいに作られていた。


 気を失ったままの二人を二階の空き室へと運び、二人を治療すると言ってインドアさんはそのまま付きっきりになり、近くにいても何もできることはない俺と背の高い男は部屋から出され、下の階へと降りてインドアさんを待つことになった。


「あー、とりあえず飯でも食おうぜ。味は保証する」


「あ、はあー」


 気を使われて夜名津を運んできた長身の男と共に、あのご馳走の山のあるテーブルの席に向かい合うようにして座る。


 男は髪を雑に後ろへと纏めていて、肌が黒く、恰好は緑のインナーの上に胸当て、下は黒に縁がオレンジのズボンを履いていた。歳は大体二十になったくらいか、若いけど少なくとも俺たちよりも上で、成人は越えている印象がある。男は食事に手を付ける。


 目の前にある食事の香ばしい匂いが俺の腹の空腹感を刺激する。こっちの世界に来て飲まず食わずの状態だったから腹は空いていたけど、だからといってすぐに目の前にある食へとがっついて手を付けられるほど俺のメンタルは強くない。


 二人のことが心配だし、いきなり現れて仲間だと言われる連中に対してもやはりまだ信じきれないところもある。


「勇者の……えーと、チヒロだったか? ちゃんと食ったほうがいいぞ。少し冷えているけど、味と量は保証する。でなきゃ今にあの大食いが来て全部食っちまう」


 と、肉を食いながら明るく茶化すように言う男。先に食べたことから食事には毒は盛られていないようだ、と漫画みたいなこと判断「ぐぅーー」……腹が鳴った。


「体は正直だな。無理しないでさっさと食えってほら」


 男は何故か笑顔で焼きウィンナーを差し出して来る。そして前の言葉と相成って、何というか、こう、なんだ? 明らかに狙っているような言葉と品をチョイスしているようにしか聞こえない。なんだコイツ、ホモか?


「ん、どうした俺の焼いたウィンナーはうまいぞ、ほらイイ色しているだろ?」


 身を乗り出して手を伸ばしウィンナーを突き出してくる。……この人ホント怖い。もうセリフがアレなセリフにしか聞こえない。


 昼間にあった命の危機とはまた別の危険が、自分のナニがナニされるかもしれない恐怖が俺の背筋をゾッとさせる。何とかこの危機を脱しようとして慌てて手元にあった骨付き肉を手に取ってそれを食い、自分の口を塞いだ。……美味い!


 肉は脂の旨みと柔らくてさっぱりした肉感、味のベースは醤油なのか、程よい辛みがそれもまた肉の旨みが引き出している。


 そして一口入れたことで腹に刺激され、口の中いっぱいに涎があふれ出てから一気に食欲が掻き立てられる。そのまま今まで抑えていた食欲を開放するようにご馳走に食らいつく。俺の食べっぷりを見て、少し圧倒したように呆然とした男だったが、けど安心したようにウィンナーを引っ込める。


「あ、紹介がまだだったな。オレはニートだ」


「!? ごへっ、ごへっ!!」


「おいおい、急いで食うからだぞ。ほれ」


「あ、ありがとうございます。……え……でも、あれ、……え!?」


 男の急な話の振りのせいで喉に詰まらせる。男が差し出してくるナプキンを手に取り、汚れた口元を拭い去る。別に慌てて食べていたから喉に詰まらせたわけじゃない。


 え、なんでこの人いきなりこのタイミングで自分が無職だと暴露した!? ホモ案件といい、……この人はどれだけの業を背負っているというんだ。


 何といっていいのか分からず目を細めて彼を見つめながら座っている位置を後ろの方へと移動させると、心外そうな顔をする。


「なんだよその目は、ん? そんなに俺の名前がおかしかったか?」


「……名前? えーと、ニートがですか?」


「ほかに何があるんだよ。なんだ文句あるか?」


「あ、……いえ」


 言えない。俺たちの世界ではニートとは無職の社会不適合者の人を表す言葉だとは口が裂けても言えない。


 なんだろうか、この、ホームレスといい、インドアといい、ニートといい、なぜ味方らしき人物はこうも社会不適合者的象徴を匂わせるタイプのネーミングセンスの人ばかりなんだ。


「ちなみにご職業とか伺っても?」


「ん、傭兵だ。今はインドアに雇われている」


「傭兵?」


 と聞くと確かに恰好からしてそんなイメージはある。が、同時にそれは騎士や兵士よりも職ランクの下のような気がして、ようはフリーターみたいなもの印象が強い、と俺の中に出来上がってしまい、つまりは………やはりこの人は無職の人なのか。などと勝手なことを考えてしまう。


 そんな失礼なことを思っている俺のことなど知らずに長身の無職の男改め、ニートの話を続ける。


「雇われ傭兵だからな。詳しく事情の話は一通り聞いた。この世界で何が起きているのか、お前がなんでこの世界に呼ばれたのか、そしてこれから何をするべきなのか。安心しろ、俺もあいつも味方だ」


「そうですよ、チヒロ様。私たちは決して敵ではありません」


 上から声がかかる。肥満女性のドドリアではなくインドアさんだ。巫女と名乗るだけあってか和服ではないが、恰好は清楚な白の衣装、神官みたいな服装を身に纏っていた。夜名津たちの治療が終えたのか、階段から降りてニートさんの一個スペース開けた席に着く。


「あの、二人は大丈夫ですか」


「はい、一先ず二人とも大丈夫です。ですがしばらくの間、絶対安静が必要です」


「絶対安静ですか……」


 インドアさんの言葉が重くのしかかる。キルはともかく、あいつがそんな状態だったなんてにわかには信じられなかった。クソ、なんでアイツはそういうことを言わないんだよ!


 疲労していることぐらいはいつもの無表情(ポーカーフェイス)が少し崩れていることは分かっていたが、まさかそこまで深刻なものだったなんて。握っていた木製のスプーンに握力をかける。その様子を見てか少し心配そうな目をしながらインドアさんは言う。


「……ヨナツ、様でしたか。彼はハッキリ言って凄い精神力です。あの状態でありながらも些細な表情の変化程度しか表に出さず、気力だけで動いていました。カオスヤバスからの天命がなかったなら私は彼を発見できずにヨナツ様たちと合流することが出来なかったでしょう」


「天命って」


「本来なら明日には私たちは千寿様と合流する予定でしたが、今日はここでキャンプすることにしたんですが、食事中にカオスヤバスからお告げをいただきました。付近に勇者が存在、危機的状況。一人こちらへと向かわれる、と。それから私たちはヨナツ様と合流し、千寿様のところまで案内していたんですが、途中で倒れてしまって」


「ニートさんに運ばれてきたわけですか」


 はい、と小さく頷く。


「ヨナツ様の容体ですが、身体には何度も致命傷を負いながらそれを無理矢理くっつけた雑な治癒しているきらいがあります。彼は、一言でいえば呪い……不死の呪いの効力を受けていますね」


「不死の呪い!?」


 何、凄い特殊能力持ってんだアイツ。あ、いや、話の中でちょくちょく死んだのなんだの言っていたけど、てっきりそれは『死にかける羽目になった』ことのニュウアンスくらいにしか受け取っていなかったんだが。が、実際にあいつ自身は何度も本当に死んでいたのか。


「不死の呪い……この場合では正確には冥楽の聖約と言われています。冥楽界、つまり私たち生物が死んだ後の死後の世界にいる獣と契りを結ぶことで現世を生き続けることですが、その分最悪(リスク)もあります。一つは不死であっても不老ではないこと。これは老いて劣化し続ける肉体の痛みと苦しみを永続的に味わい続けることとを意味してます。不死ということですが、死に慣れもできません」


「しになれ?」


「死、そのものに慣れないんです。不死の生物は不死であるがその特性を生かして幾たびの戦いにおいて死に瀕する度、死そのものに抵抗を覚えなくなるんです。死んでも生き返られるから、との理由で。けれど、冥楽の聖約の不死において、死ぬ度に死に対する強い拒絶感を覚えてしまい、精神ショックが強いらしく、なんでも蘇生中にみる悪夢が死より恐ろしいもの見せられるようで、それを何度も見れば精神が壊れて最後には廃人となり、精神的な死を迎えても肉体は生き続ける、最後は生きた屍化としてあるものは草木の栄養、虫らの食肉なんて末路が殆どです」


「………」


 木製のスプーンを手から離し、昔読んだ神話関係の本を、たぶん絵本だったもの内容を思い出した。


確か、人間との恋に落ちた女神様がいて、父親の神に彼を神にしてくれ、と頼むだけど父は反対し、人間を神にすることはできないと断られる。だが、二人の思いを見て仲を許し、神にすることはできなくとも不死を与えることで二人の永遠は約束された。が、その不死であっても不老ではなく、人間の男は不死ながら老いていき、最後には植物に変り果てるという内容だった。


 それと全く同じことが今の夜名津の身に起きているのだ。


「それって、呪いを解除することは可能なんですか?」


 俺の質問に複雑そうな顔をしたまま首を横に振る。


「ハッキリって難しいです。大抵の呪いならば神の巫女である私なら解呪できますが、あくまでもこれは聖約にて契りを結ばれたもので、実際のところは呪いではないんです。効果的には呪いに近いものですから私たちの間では呪い、と口にしているだけです」


 すいません紛らわしい言い回しを使ってしまって、と謝るインドアさん。


「解呪の方法としては夜名津様自身が聖約を交わした獣ともう一度会って聖約を破棄させることが一番なんですが、もうヨナツ様はもう数度の死を迎えている時点で聖約が完全に有効の状態で、完全な破棄は不可能、何だかの対価を払わない限り、彼の体は蝕まわれたままです」


「対価って?」


「分かりません。獣自身がその都度で決めるらしく、身体の一部、生きている家族、最愛の人、培ってきた富み、魔力、と様々なのもです。一つであれば複数を求めてくることもあるそうです」


 考える。今の状態の夜名津に一体何が対価として相応のものを持っているか。まんま身一つでこの世界にやってきた俺らだ。装備としては俺がスマホで、夜名津は………自転車の鍵、か。ほんとロクなもんを持ってきてないな。


 どうも対価として弱い。ラノベならスマホの価値が高くて交渉時に役に立つことが多いが、それはあくまでも商人……人相手だからで、獣相手にスマホは対価として相応しいのか。


 駄目だった場合……払うとしてはやはり夜名津自身の身体になる可能性が高い。異世界にいる以上、俺もあいつも家族や恋人はいない。恋人はいない! ……大切なことなので二度言いました。


 ともかく、大切な人物がいない以上自身の体で払うしか、いや一つだけある。


 俺だ。夜名津の友人であり、その上勇者の血を引き、現勇者である俺ならその対価の価値としては十分なのではないのか?


 昼間のことを思い出す。夜名津は自らを犠牲にして俺たちの逃げる時間を稼ごうとした。結果は俺が、夜名津の覚悟に気づかなかったことで失敗終わってしまったけど、でも今度は俺がそれをやるべきなんじゃないのか?


 俺一人の犠牲で夜名津を救うことができる。でも、……俺にその覚悟はあるのか?


 悩んでいる俺を察して、少しだけ話題を変えてくるインドアさん。


「もう一人の子、確かキルレアルちゃんだったかしら? 彼女もまたヨナツ様とは別の状態で深刻な状態です。彼女場合は体に刻まれている魔法式が焼き切れて、自身の魔力回路すらその影響を受けて魔力の循環が上手く回っていません。体と一体化された魔法式と強く結びついている魔力回路が流れる魔力をそのまま反映させるようにできている分それがあざになっていますが、これは最上級の魔法を使うときに使われるタイプの術式です。しかも彼女の状態から判断して、魔法そのものに失敗した。あるいは魔法の発動中に途中で切断されたから自身へと負荷がそのまま返ってきたものです。心当たりはありませんか」


「ある。なんというか、黒い、天使みたくなる魔法だった」


「黒い、天使ですか」


 重く、呟き返してくるインドア。最上級の魔法と言われて、あのホレンとディーネリスと戦っていた、あの黒い天使のような状態になったことを思い出す。確かにあれは恐ろしいまでに力を発揮し、あの二人と互角にやりあっていた。でもあれでまだ失敗なのか。


 何とも言えない気持ちになる。


「私が治癒でいくら癒すことができましたが、迂闊に手を出すと彼女自身に大きな傷を残すことになり、最悪魔法が使えなくなる可能性もあります。しばらくは様子を見ながら、少しずつ治癒をかけていきます。時間はかかりますが今はそれが最善です。あと」


 インドアさんはここで初めて言いにくそうに口をもごらせる。


「彼女には何か精神的な強いショックでも受けたんですか。うわ言のように、ごめんなさいごめんなさい、とつぶやいていました」


「………」


 夢の中ですらまだ引きずっているのか。一族とともに人類の救済として起こした奇跡であり、犯した罪を。


 罪悪感に苛まれ続けているのか。


 泣き崩れる少女。小さくも懸命に己の罪を償おうとひたすら足掻き続ける。


―――俺のもう一人の娘を頼んだぞ。


 頭に過る、たった一人少女のために守りたいがために死の淵から返り咲いて、己の命と引き換えに守りとした誇り高き戦士(おとこ)の顔を。


 彼女を救うには、心の闇を払うにはどうすればいいんだ? 岡之原亮介を倒すことか?

それで本当に解決するのか?


 守ってくれ、と託された尊敬する男の約束を果たしたい。

 助けたい、と己が決めたことを貫きたい。

 助けて、泣き叫んだ一人の少女の願いを叶えたい。


 全てが同じことのはずなのに、全てが全く違うことのようだった。


「話はそこまでにしとこうぜ」


 今まで黙っていたニートさんが話に割って入ってくる。インドアさんも「そうね」といい、俺に対する質問を一旦引っ込めて、明るい口調へと変える。


「話はもうやめて、食べましょうか。私はもうお腹ペコペコなんです。こう見えて大食漢ですから」


「どう見たってそうだろう」


 ニートさんの突っ込みに、もうと抗議の声を上げるインドアさんは薄いステーキを状の肉を食べ始める。ニートさんも笑いながら食の手を再開させていた。


 俺も先ほど食べた骨付き肉をもう一つ手に取って食べるが、先ほどのような感動は覚えなかった。話を少し引きずってしまっているせいだ。


 呪いをかけられた夜名津と傷を負ったキル。


 喉に突っかかりを覚えながらも俺は何とかそれを呑み込んだ。


雨崎(あめざき)千寿(ちひろ)

本章の語り部。勇者の孫にして現勇者として異世界にて転移された。通称選ばれし勇者。ロリコン。


夜名津(よなつ)我一(がのいち)

千寿に巻き込まれる形で異世界に転移された、通称巻き込まれた勇者。パワポケ厨。現在呪いの影響で眠っている。


・キルレアル・ホームレス・ロード

元岡之原の陣営(ハーレム)の一人。千寿とともに打倒を目指す。現在、魔人化の発動により眠っている。

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