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青空に手紙を  作者: 立花優月
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慣れず分からず通学路

「お母さんー、行ってくるー!」


香帆は手をせわしなく振りながら母にそう呼びかけ、玄関をでる。

ガシャンと古びた音をたてながら門を閉めると、そのまま息を大きく吸い込んだ。

目に映る全てが見慣れぬものだった。家々から生える木々も、その間を忙しく飛び回る鳥やカラスも、そんな鳥たちの背景の青空も、行き交う人々でさえ、東京とは違う。歩いていると耳に入る『やねん』『あかん』『そうやな』などの関西弁も新鮮だ。

周りと私は違う文化の中で育ってきたみたいだった。それを実感させられる。香帆は、言わばお好み焼きの上にのせられた苺のようなものだった。苺もこれからお好み焼きに合うように紅しょうがになる訓練をしなくてはならない。


(きっと今日だってうまくいくよ)


ぐっと鞄を持つ手に力が入り、真新しいローファーがコツンと音をたてた。







………………………







苺が紅しょうがになるのはかなり難しいらしい。


電車登校で、香帆はそれを再認識させられた。

(エスカレーターって右側が急ぐ人用で、左側で止まって乗るんじゃないの………?)

いつものように左側で止まって乗っていたら、頭部が寂しいおじさんに注意されたのだった。何が何だか分からなかったが、周囲の方々の冷めた目線が痛かったので少し察した香帆だった。

(お母さんが買った『関西あるある100選』借りておくべきだった)

駅で精神的ダメージを食らい、満員電車で汗をかき、いたるところで発せられる関西弁の意味がわからず混乱する。メンタルと体力が売りの香帆でもさすがに疲弊してしまった。


「はぁ…………………………」

何とか校舎が見えるところまで来たが、慣れない環境のせいだろうか、ため息がなりやまない。

(時間は…………まだ間に合う。ゆっくり行こうかな)



「君!」



「へっ⁉」


唐突に後ろから声がかかり、香帆の心臓がビクリと跳ねた。

おそるおそる振り返ってみると、黒髪を刈り上げたスーツの男の人が香帆を手招きしていた。


「君さ、関東から来た子やろ?」


男の人はそう言ってニカッと笑った。

『見知らぬ男』

『若い』

『手招き、勧誘?』

『私を知っている』

以上のワードが揃っていた場合、ほぼ9割が


(不審者………………!)


明らかに怪しいじゃん、こんなの!ずっとニコニコしてるし馴れ馴れしいし、私を知ってるし!

香帆は母から不審者に会ったときは、通報、逃走が一番いいのよと聞いていた。でもそのまま走っても追いつかれるから、時間は稼いでおくべきだと香帆は思う。


「あっ、ドローンだ」


「え?」



逃げながら香帆は思った。

男が単純でよかった、と。


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