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青空に手紙を  作者: 立花優月
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拝啓、私たちの青く透き通るような青春へ


ジリリリリリリリリリリリ……………


レトロな目覚まし時計が、主人を起こそうと躍起になりながら精一杯体を揺すり機械音を鳴らす。

が、懸命な努力はあと一歩及ばなかったのか、まだまぶたが半分も開いていない少女、坂井香帆はなんのためらいもなく目覚まし時計を叩いた。


「ぬぅ…………………………」


布団が何故かいつもより柔らかい。まるで新品みたいだ。

ああ、眠い。このまま布団に抱かれて夢の世界に帰りたいが、何かがひっかかる。とても重要で忘れてはいけないこと_____。


香帆の頭が急にフル回転しだした。

ビデオテープを巻き戻すかのように、昨日までの出来事が脳内を巡り始める。

そうだ、私は東京から兵庫に移ってきて、ここは前のマンションじゃなくて、それで今日は…………………。



「あああああああああああ!!今日初めての登校じゃん!」


あまりの大声に騒いでいた小鳥がチュンチュンと飛び去っていった。

そうだ、なんで忘れていたんだ。今日は私立平井高等学校に初めて登校する日だった。あれだけ自己紹介の練習をしたのに!

窓の外は爽やかな初夏の青空だった。雲なんてどこにもなく、青い空と眩しい太陽が香帆の部屋を照らしていた。どこからか鳩の鳴き声も聞こえる。というかこんなに見事な晴天っぷりは、もしかしてもう………………。

あわてて香帆は先ほど叩いた目覚まし時計にかじりついた。時刻は7:06。電車登校だが、まだまだ間に合う時間だった。

香帆はほうっと息をついた。朝からスリリングすぎて心臓に悪い。ジェットコースターに乗りながらゾンビに襲われたような感覚だ。




「はあ、ビビったぁ………。顔洗わなくちゃ」


心機一転、心機一転と呟きながら隣の洗面所に入る。

(やっぱり新しい家だからかなぁ、ホテルにいるみたい)

真新しい蛇口をひねり冷たい水を興奮して火照った顔にかけた。

そっと顔をあげ、鏡を見る。ポタポタと雫をたらしながら見つめてくる自分の顔は、いつものような快活さはない。黒髪が濡れてべちょりと額に張り付き、光の具合ではブラウンに見える瞳はまだ開ききっていなかった。

新生活への不安と寝起きの低いテンションがそこにはありありと浮かんでいた。ハンバーガーにピクルスがはいっているのを見つけたときの顔だった。

この顔で、転校生として挨拶するの?冗談じゃない!


「笑え!笑え、香帆!こんなんじゃダメだろ!」


パシンと手のひらで頬を叩き、目をこじ開けるようにまぶたを引っ張った。

気合いが入り目が覚めたのか、普段通りの顔をしている自分を見て、一息つく。不安がっているのはどうも私のキャラではない。そう思い、タオルで顔を拭いた。



「香帆!朝ごはんできたから早く食べて!」


「はーい!すぐ行く!」



洗面所を後にした香帆の表情に、不安は一切無かった。

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