始まらない今日について
今日は、緊張でぶっ倒れました。
散々、私はできるぞ、というように、優等生ぶりを発揮していた癖にです。
唐突に、舞台に上がることが怖くなりました。
怖くなるのと同時に、私には無理だ、と、見る人全てがいやな気持ちになるだろう、と思えてきたのです。
だから私は、緊張に身を任せて、ぶっ倒れました。
おいおい大丈夫か、みんな口々に申し上げました。
意識は遠くなっていましたが、その声ははっきりと聞こえていました。
だから私は、早くこんな意識消えてしまえと、目を回しながら思ったのでした。
電話口では、うまく話すことができませんでした。
そもそも名前も思い出せず、私は早くテレビゲームの続きがしたいなと考えていました。
言葉は少しも出てこない癖に、ゲームのためにするすると動く指を、私は好きになれませんでした。
攻略法を見つけ、次々と新しい面に進んでいくけれど、レベルアップを怠ってきたので、いとも簡単に私は倒されゲームオーバーになりました。
受話器の向こうのおばさんは、モゴモゴとした声で、途切れ途切れになにか話しかけてきていましたが、僕は聞くつもりもなくて、早く切れればいいのにと思っていました。
発表がどうなったかは、もう分かりません。
誰がいてもいなくても、多少困るにしろ、時は進むことをやめませんから、たいして大きな支障もなく、発表は済んだのだろうなと思います。
みんなは僕のことを優等生だと信じていました。
僕は優等生ではありません。
その皮を被っていた方が楽だから、そんな理由だけで、僕は優等生を演じていただけです。
みんなはがっかりしていました。
優等生じゃない僕で生きていけば、もう僕は誰からも相手にされないだろうなと、僕はその日思ったりしました。
夢に出てくる記憶は、意外にも断片的ではなく、僕の心にすんなりと入り込み、経験した出来事のように違和感なく残っていきました。
僕は、その日朝目が覚めて、僕が一体なんだったのかわからなくなりました。
それはいつものことです。
ただいつもよりも度合いがひどくて、僕は少し混乱しました。
僕が僕であるということを、いったいどれだけの人が証明できるのだろう、と、ぼんやりと天井のコンセントを眺めながら思いました。
今日のお話は、これだけ。
僕は今日をはじめない。
だから今日は、これで終わりです。