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ダンジョンマスター“戒”  作者: 宇宙猫
 激闘? 灼熱地獄 編
9/55

 ドリルサボテンの絶望






 何なんだ! 何だってんだよう!!! 何だって”アレ”は起きあがってんだよう!!!

 オイラは確かに風穴空けたはずだったんだぜい!!!? だっていうのによう!!!

 なんだって”アレ”は起きあがる‥‥‥またかよう!!!






 ◇






 ‥‥‥やれやれ、この私とした事が少しばかり童心に帰っていたようです。こういうのって、なんて言うんですかねえ‥‥‥思い出せません‥‥‥まあ、いいでしょう。

 問題はこの血です。この辺り一面に広がっている酸化してドス黒くなっている血です。

 問題は、これが”何”の血か? ということですが‥‥‥私以外には、ちょっと考えられないでしょう。

 ここには私以外にサボテンぐらいしか見当たりませんから、この考えは的を得ていると見て間違いないでしょう。

 まあ、それ以上に問題なのは‥‥‥この”血”に関しての記憶が私の頭に一切存在しないといった事なのですが!!?!


 と、思案していた知憲はとっさの反応により地面に身を投げ出す。

 その結果、目、口、鼻、耳、などの穴という穴に砂が入り込んでしまい、ゴロンゴロンとのたうち廻っている内に再びサボテンに殺されてしまった訳だが、倒れ伏そうと決断した知憲は確かに目撃していた。

 知憲に向けてドデカい螺旋状の針を発射するサボテンの姿を。






 ◇






 ドリルサボテンは悩んでいた。何度殺そうと蘇る”アレ”。

 現時点で”アレ”を殺した回数は、既に十九回。殺しては立ち上がり、また殺しては立ち上がり‥‥‥と、いつになったら終わるのか、全く先の見えないこの状況に嫌気が差してきていたのである。




 ムクリッ‥‥‥ドサッ‥‥‥




 まただ‥‥‥これで二十回目。まだ始めの数回はよかった。何度も何度も蘇る”アレ”は、正直言って気味が悪いが、おいしい経験とも考える事が出来たからである。

 この広すぎる砂漠での生存競争は想像以上に厳しい。そのような環境下で、更にその場から身動きが取れないという生まれながらに枷を架けられているドリルサボテンのような植物にとって、獲物を狩ることすらままならないのが常。

 その為、一撃で倒せる知憲は、楽して経験を稼げるという観点からすれば、ドリルサボテンにとってはこれ以上にないくらいにお得な存在であったのである。それも本来であれば、の話ではあったのだが。

 しかし、現状からも見て取れるように現実はそんなに甘くはなかった。

 何度殺しても立ち上がり、自分の事を食べようという意志で迫って来る者は、例えそれが自分より圧倒的に格下だと理解していても、その行動に恐怖を感じずにはいられない。


 だが、ドリルサボテンにも意地がある。このドリルサボテンはいつの日かキングサボテンに進化することを夢見ていた。

 ベビーサボテン、ミニサボテン、砂サボテン、チクチクサボテン、ゴツゴツサボテン、ミラクルサボテン、ボコボコサボテン、そしてドリルサボテン。

 現在ドリルに到るまで、進化して進化して進化を重ねてきたのだ。頑張って生き抜き勝ち抜いて来たのだ。それを‥‥‥それを‥‥‥こんなところで終わらせるわけにはいかない。

あと二回、あとたった二回進化出来れば、キングサボテンに手が届く。そうすれば‥‥‥




 生きとし生ける全てのサボテンの憧れ、キングサボテン。

 古文書に、サボテンのくせに足が生えてる変な奴とだけ記されているキングサボテン。

 サボテン種の中で唯一自由に移動ができる、サボテン種最大の弱点を克服した最強種のサボテン、それこそがキングサボテンなのである。






 ◇






 八十八本のドリルの内、既に二十一本も消費してしまったドリルサボテンは焦りを感じ始めていた。



 まだ、まだ、ドリルの再生時間を考慮しても一撃一殺していけば、”アレ”に食われる事はない。それだけは確かだ。

 だが、問題は”アレ”がドリルサボテンの攻撃をよけようと試み始めていることだった。

 二撃一殺……までならまだなんとかなるが、三撃となるともう無理である。

 そうなってしまえば、”アレ”の復活時間がドリルの再生時間を完全に上回ってしまう。


 そうなる前に、この現状を打破すること。それこそが、現在ドリルサボテンに課せられた至上命題だったのである。






 ◇






 少しづつ……少しづつではあるが、知憲はサボテンとの距離を確実に縮めていた。

 知憲とサボテンとの初遭遇から実に三ヶ月(地球換算で約二百日)目にして、初めは百メートル程も離れていた距離を、残り三十メートル程までに縮めていたのだ。

 知憲自身が、死の直前の記憶を思い出すことは無い……正確に言えば出来ない。


 ダンジョンマスター”戒”の構造上、記憶に留めることが出来無いからだ。その知憲が、この短期間でこれほどまでにサボテンとの距離を短縮できたのは、単に知憲の頭の回転が速かったからである。

 圧倒的若さで総理大臣にまで上り詰めた実績を持つ、知憲の頭脳は伊達ではない。

 戦略や戦術はもちろん、危機的状況に陥った時に見せるとっさの判断力は超一級品。それは、砂漠に自生するサボテンを食いたいという、それを聞いただけでは頭を回転させる必要を感じさせないような単純な目的であったとしても変わりようがないのである。






 ◇






 しかし、この知憲の優秀すぎる判断力に堪忍ならないのがドリルサボテンである。

 知憲を殺して、殺して、殺し続けて早三ヶ月。これほどの経験を積んでいるのにもかかわらず進化の兆しすら見せない自身のサボテンボディーにも苛立っていたのだ。

 進化してくれない自身の肉体も許せないと言えば許せないのだが、一番許せないのは、確実に距離を縮めて来る”アレ”の存在。

 そもそも、自身がこんなにも進化を急いでいる理由は、諸悪の根源たる”アレ”が諦めずに向かって来ているからである。


 そうイライラしながらも、何時もどうり蘇った”アレ”にたいしてドリルを放ったサボテンの全身を絶望が支配した。

 三ヶ月目にして、ついに”アレ”が一本目に続き二本目のドリルを躱したのである。

 流石に三本目のドリルは躱しきれなかったようだが、三本目すら躱し始めるのは時間の問題。それ以前の問題として、現時点でドリルの再生が間に合わないという危機に直面していたドリルサボテンは無い知恵を絞りに絞って革新的な打開策を模索する。




 ムクリッ……




 そして、まるでそのサボテンを嘲笑うかのように、この三ヶ月間繰り返してきた動きで、風前寺知憲は再び息を吹き返した。






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