ドリルサボテン
”アレ”は、初めて見る生物だったんだ。
最初は遠くにいて分かりづらかったけど、妙にフラフラしているな? ”アレ”はいったい何なんだろう? と思っていたんだ。
でも、”アレ”がこっちに近づいて来る毎に、段々とムカムカしてきたんだ。
だってよう! ”アレ”って、どっからどうみても糞雑魚なのによう! オイラを食う気満々って雰囲気で近付いてきやがったんだぜ! あったまきちゃうよなあ!?
だからオイラは糞生意気な”アレ”に一発ぶちかましてやったのよ!!!
うひゃひゃひゃひゃ!!!! 見てみろよ! て言ってもオイラ以外だあれもいないんだけどよう。
まあ、”アレ”の死に顔っていったら傑作だったぜ!!!
全く、このドリルサボテン様を食らおうなんざ、とんだ大馬鹿ってんだ!!!
◇
「なんだこれは……」
何事もなく息を吹き返した知憲は、驚きを隠せないでいた。肉体が元に戻っていたのだ。
確かについ先程まで知憲の肉体はカラカラであり、カッサカサだったのだ。象も裸足で逃げ出すくらい酷く乾ききっていた知憲の肉体は、転生した直後の状態に戻っていたのである。
「ふーん……」
ここで、知憲はあらぬ方向に勘違いをし始めていた。
転生したこと事態は確からしいが、それ以外は全て夢だったのではなかろうか? と。
そうでなければ、知憲の中ではどうにも辻褄が合わないのだ。
あんなに乾ききった人間が一瞬でこんなにも水々しい肉体に戻れるなんて、最新の現代医学を用いても不可能と断言出来る。
何事にも言えることだが、急激な変化というものはよろしくない。
仮に急激な変化で肉体を戻したと仮定したとしても、その急激な変化に肉体が適応できる筈がない。つまり、それが事実だとすれば今頃、知憲は帰らぬ人となっているだろうからだ。
このようなことは考えを巡らせるまでもなく、分かりきったことだったのである。
「なぁんだ、すべて夢だったのか。やったぜ!!!」
実際には、今のところ何一つやってはいないような気もするが、今の知憲にとって一番の問題点であった運動機能の低下も夢であったのであれば、今後の活動(いっせい会なる暴力団の捜索)に何ら影響を及ぼさない為、歓喜せざるをえなかったのだ。
しかし知憲はここで、いままで気付きようがなかった周りの変化を、ようやく意識することとなった。
「ん? ………こっ、これは!!! ぶっ!!! 」
ドサッッ………
ようやく気が付いた………まではよかった。
しかし、知憲は再び死んでしまうこととなる。今度は背後から、ドリルサボテンの凶悪なドリルが知憲の胴体を貫いたのである。