ここはどこ? 私は総理である!!!
ドサッ!!
「うおっ!!! あっつ!!!」
ついに無理矢理転生させられた知憲が、異世界にて体感した初めての感覚は熱さであり、暑さであった。
「熱い上に……暑い。一体全体どうなっているんだ? 生き返った事実には正直驚いてはいるが……件の暴力団はどこにいるんだ? 暴力団の馬鹿息子や馬鹿娘はどこにいるんだ? ここは……見渡す限りの砂漠じゃないか……あっっ!!!」
知憲の認識通り、知憲が送り込まれた場所は砂漠。辺りは砂一色であり暴力団の痕跡すら見あたらなかった。
それに加え、知憲が思わず声をあげてしまったのには訳があった。あまりの暑さに一瞬、反応が遅れたというよりかは気付きにくかったことなのだが……
「服がねえ……下着すらねえ……どうしよう……」
知憲は全裸だったのだ。
◇
あの日から……あの衝撃の転生日から、知憲は宛がなさ過ぎる不毛な旅を続けていた。来る日も来る日も砂漠を歩いては干からび、蘇っては干からび、また夜の極寒状態となる砂漠の環境に耐えきれず凍死をしては蘇り、蘇っては餓死し……と、何のためのにわざわざ異世界転生させられたのか、誰であろうと頭に疑問符を浮かべそうな状況であったが、知憲には旅をしていると胸をはって断言出来る程に、明確な目的が存在していたのである。
それは、知憲を家庭教師として必要としているらしい暴力団の存在であった。
当然だが、そんなものはこの異世界には存在しない。存在はしない……のだが、知憲は神々の話をまともに頭にいれていない事に加え、謎の暴力老人から想像を絶する暴力を受けたのだ。
ただでさえ理解する気も覚える気も無い知憲が、異世界、ダンジョンマスター”戒”、などの転生する上での最も重要な事柄を覚えている訳がないのであった。
知憲の頭のなかでは自身が転生させられた理由は、《いっせい会なる暴力団の馬鹿息子ないし馬鹿娘、あるいは中卒構成員の家庭教師をすること》の一点で完結しているのだ。
ゆえに、知憲は歩く。歩き続ける。裸足で……全裸で……フリチンで。
そして、とうとう時間の感覚も無くなり始めた頃。知憲は異世界に転生してから、ようやく砂以外の物、生物を発見したのだった。
◇
「あ゛、あ゛、あ゛」
口と喉が乾きすぎて、もうまともに声すら出せない知憲。その胸の内に湧き出たのは喜びという感情だった。
「あ゛、う゛、ひっ、ひっ」
あの日(転生日)から……いったい何度、気を失ったことだろうか……
砂以外、何も無かった。思い出せる訳などある筈が無いが、兎に角、お前には心の底から感謝の意を表するぜ。
総理大臣として、そして一人の男としてな!!!
そう感動に身を震わせながら、生物に対して歩みを進めたその時である。
知憲は異世界にて初めて、死を自覚した。
いままでも、自然の猛威に苛まれ死に続けてきた知憲であったが、気を失ったと誤った認識をしていたために、自身が死にまくっているという事実を意識出来ていなかったのである。
「はっ……ぁ」
ドサッ……
知憲が死んだ事で、辺りは再び静寂に支配されていく。
ここは、異世界の最南端に位置する忘れられた大陸。
かつて、この世界を震撼させた二人の超戦士の決闘により環境すら変化させられてしまった灼熱地獄。
そんな人っ子一人いない砂の牢獄で、知憲は再び息を吹き返したのだ。