この程度の解読など私にとっては造作もない事です
「ダンジョンマスター戒! ダンジョンマスター戒! ダンジョンマスター戒! ダンジョンマスター戒! ダンジョンマスター戒! ダンジョンマスター戒! ダンジョンマスター戒! ダンジョンマスター戒! ダンジョンマスター戒ぇぇぇぇええ!!!!」
ドガッ! ズガッ! ドガッ! ズガッ! ドガッ! ズガッ! ドガッ! ズガッ! ドガッ! ズガッ!
ただひたすらに「ダンジョンマスター戒」と声を上げながら魂を殴り続ける頂神。
この頂神の異常な様に女神軍団は勿論の事、頂神を案内した男神すらも唖然としていた。
さて、一見すると精神に異常をきたしているように見えるが頂神は至って大真面目である。ダンジョンマスター戒としてでしか異世界に追放出来ない魂には強制学習が通じない為、文字通り魂に「お前はダンジョンマスター戒である」と刻み込むしかないのだ。
その唯一の方法が洗脳であるのだが、普通に洗脳する事は不可能である為、まず手始めに暴力にて意識を朦朧とさせる必要がある。その上で魂の潜在意識に自身がダンジョンマスター戒であると洗脳により植え付ける事が出来たならば、その時になってようやく魂は異世界に転生するのである。
兎にも角にも重要な事はダンジョンマスター戒だと認識させる事なのだ。
(まだか? まだなのか?
あれから随分時間が経ったように感じるがまだなのか? )
如何に殴り疲れようとも、頂神は腕と声を止める事はしなかった。
否、出来なかったのだ。
一度止めてしまえば魂が慣れてしまい同じ方法では二度と洗脳出来ないからだ。
「ダンジョンマスター戒ぇぇぇぇええい!!!!!」
ドガッッッ!!!
(まだか!!!)
その時であった。魂が光り出したのである。
(ついに来たか!!)
◇
全く持って迷惑な爺である。いくら何でもこれはないだろう。
あの暴力爺、何が楽しいのかは知り得ないが私に対してひたすら殴打を繰り返しているのだ。
それにしても‥‥‥それにしてもである。いくら関わりたくない基地外爺であろうとも目の前で暴力被害に見舞われている私がいるのだから美人さん方も爺を制止するなどの行動を示しても良いのではなかろうか?
情けは人の為成らずなどとは言いますが、いくら何でもこのような状況下では流石の私でも情けぐらい掛けて戴きたいものなのです。
既に死んでしまっているとは言え、私も人様の子なのですから死んでまでこのような仕打ちを受けるのは大変御免こうむりたい所存な訳でありますから……嗚呼、何だか頭がクラクラしてきました‥‥‥
まあ、先程から云われ無き暴力に見舞われている訳でありますから当然の症状であるのですが。
そう言えば暴力基地外爺が狂ったように繰り返し叫んでいる『だ!』何とかかんとかについてですが、美人さん方からは聞かされずに済んだんですがね。
面倒臭い事この上ないですが、暴力基地外爺のせいで聞き取れてしまいましたよ。しかし何なのでしょうか? 『だんじょうますだあんいましめ』とは?
『いましめ』は『戒め』ですかね? まあ美人さん方は私の生前の行いに憤慨しておられる御様子だったので罰を与えたかったのかも知れませんが、もう今の暴力被害で引き分けでいいんじゃないでしょうか?
そのくらい酷い暴力行為な訳でありますし。
と、言いたい所ですが『“いっせい会”なる暴力団』に転生させるなどと言っておられましたし、恐らく『戒め』とは『暴力団』で何かをやらされる事を持って『戒め』という事にしたいという話だったのだと理解しましたが、問題はそれが何かという事ですね。
何かを知る為には『だんじょうますだあん』という謎を解きほぐす必要がありますが、まあはっきり申し上げて意味が分かりませんね。何ですかね『だんじょうますだあん』って?
う~ん‥‥‥『だんじょうますだあん』『だんじょうますだあん』『だんじょうますだあん』‥‥‥だんじょう‥‥‥だんじょう‥‥‥ああ、『壇上』ですかね?
となると『ますだあん』は『増田庵』?
『増田庵』‥‥‥『増〇塾』みたいなものですかね?
つまり『だんじょうますだあん』は『壇上 増〇塾』となる訳ですから‥‥‥成る程。やっと全ての謎が今解けましたよ。
つまり『だんじょうますだあん』とは『壇上 レ 増〇塾』と読むのが正しいという事です。これは塾講師を指している様ですから暴力団で塾講師‥‥‥まあ遠回りに家庭教師を表しているのでしょうね。
いやはや、それにしてもまさかここに来て『漢文』形式で来るとは予想外でありましたが、まあ私に掛かればこの程度の謎解きなど造作も無い事でしたね。 やれやれ、まさか罰としてわざわざ転生させられた挙げ句に暴力団で家庭教師をしなければならないとは人生とは世知辛いものです。
そういえば‥‥‥私は中卒なのですが、暴力団構成員の子供の家庭教師ですかね? まさか中卒構成員の高校進学の為の家庭教師?
何だか光に包まれ始めましたが、もう転生してしまうのでしょうか。
あ~あ。暴力団専門の家庭教師とか嫌だなあ‥‥‥
◇
「行ったか‥‥‥」
ドサッ
無事に魂を異世界に送り出す事に成功した頂神は仰向けに倒れて乱れた呼吸を整えていた。
「ぶ~は~!! ぶ~は~!! ぶ~は~!!」
「頂神様‥‥‥」
「安心せい!」
「それでは!?」
「成功じゃ! 成功したんじゃ!!」
「やったぁ!!」
「今日は宴じゃ!」
「「「「ひゃっほう!!!」」」」
知憲を被害ゼロで異世界に追放出来たご褒美としてその日から一年に渡り宴が開催された。
だが一年後に頂神は見るからに衰えを見せた為に引退を宣言する。原因は知憲がダンジョンマスター戒を全く理解せずに独自解釈した反動が、知憲にそのように認識させてしまった頂神だけに跳ね返ってきた後遺症によるものであったが命までは奪われなかったので元頂神に悔いはなかったという。