私、説教される
「いいこと? オマエは、殺されて当然の事をしたのよ」
「そうよそうよ」
「汚らわしい」
「屑が」
「女の敵」
「オマエのせいで神聖なる空間が穢れてしまうわ」
「そうよそうよ!」
‥‥‥先程から、私は説教をされている。‥‥‥美人な方々に。
美人さん方のお話しによると、私は淫乱おばばに刺殺された事により死後の世界。
‥‥‥つまり、俗に言われる『あの世』なる場所にて、生前の業を基に魂の行方について偉い人に審議される筈だったらしい。
『らしい』、のだが‥‥‥私の生前の生き様が美人さん方にとって大変不快な生き様だったらしく、本来は行われないらしい説教などという行事が発生しているという有り様である。
やーれやれ。
「オマエ!」
「はい?」
「今、無礼な事を考えていただろう!!」
こいつは参りましたね、完全敗北ってやつでさあ。
思考が読まれているのか、または見られているのか。
それとも、何となく理解出来てしまっているのかは存じ上げないですが、隠し事が出来ないって厳しいものですなあ。
「オマエ!! 開き直っているな!!!」
「何ですって!?」
「この状況下で開き直るなんて、大した屑ね!」
「まさに女の敵」
「そうよそう‥‥‥いや、開き直りと女の敵とは関係ないんじゃ」
「関係あるわ! コイツはどんなに女を泣かせてきても一切罪悪感に苛まれた事がないのだから、やはり女の敵よ!」
「なあんだ。それじゃあ遠慮なく‥‥‥そうよそうよ!! そうよそうよ!!!」
おっほー!! こいつは手厳しい!!! 一本どころか千本くらい取られたんじゃあないでしょうか。
美人さん方のおっしゃっている事は全て真実であるからして、ぐうの音も出やしませんねえ‥‥‥いや、流石にぐうの音くらい出せますかねえ? 物は試しっていうくらいだし、出してみましょうかね。
まあ、私は物ではないんですが。
「ぐう」
出ました出ました。
何事もやってみる物ですねえ!!! 『あの世』って事で肉体が無いものだから発声は不可能だと思っていましたが、成せば成るものなんてよく言った物ですよ、全く。
‥‥‥そういえば、先程普通に「はい?」なんて言葉を返せていた事を今思い出しましたよ!!!
いやあ刺殺なんて、されるものではないですねえ。
すっかり忘れっぽくなってしまったのも、恐らく刺殺何ていう情けない終わり方が原因なんだと私は思う所でありまして。
「オマエ!!!」
「あいあい」
「何だ、その態度は!!」
「そうよそうよ!!」
「いやー、私って刺殺されてしまっているではないですか。もう取り返しが効かないこの状況下‥‥‥何もかも、どうでも良くなってしまった! という心の持ちようになっていましてねえ。矢鱈と気分が高揚している次第なのですよ!」
「オマエ‥‥‥ひょっとしてナメているな?」
「はて、舐める? いや‥‥‥まだあなた様の女体は舐めさせていただいていないのですが‥‥‥っと、こいつは失敬! 私、死んでいるから舌ありませんでした!! あははははは」
「「「「「‥‥‥」」」」」
◇
女達は女神と呼ばれる存在である。
彼女達に課せられた役目は、死後の世界である『あの世』にて、魂の手助けをするというのが主だった内容だった。
だが、彼女達が手助けしたくないような魂は、当然であるが存在する。
生前に悪行を積んだ、地獄ですら生ぬるいとされる、救いようのない魂達。
これらの魂は、男神と呼ばれる連中が魂を叩き直した上で地獄に落とすのだが、ここまでやっても更生不可能とされる“真”救いようのない魂というものが、極々稀に、本当に稀に存在するのだ。
今まさに、彼女達の目の前で馬鹿笑いしている魂がそれに該当する。
◇
「オマエは! 何て奴だ! 死んだ癖に何も変わっていない!! ‥‥‥うっ」
「お姉様!!」
「大変! お姉様が失神召されたわ! この糞虫魂!」
「そうよそうよ! お姉様しっかりなさって!!」
おやおや。どうやら、美人さん方を取り纏めていらっしゃる立場の美人さんが気を失われてしまったようですねえ。
美人さんが気を失う‥‥‥悲劇だ!
私の心はとっても悲しい気持ちに包まれました。
私は美女が好きなもんで、いくら初対面とはいえ美人さんが気を失ってしまったとあれば、黙っていては男が廃るってもんじゃあないかなと思った次第にございやして、「大丈夫かい?」なんて介抱されてる美人さんにキザったらしく声を掛けてみたんです。
すると、「オマエは馴れ馴れしく口を聞くんじゃない!!」なぁんて、先ほど気を失った美人さんに言われましてね。
え? 散々好きに言わせていて腹が立たないのかって?
そんな馬鹿な事はありやしませんよ。
美人さんは笑っていようが泣いていようが、怒っていようが死んでいようが美人さんなんです。
美女が好きで好きでどうしようもなく好きな私は、そんな些細な事は気にならないんです。
むしろ、美人さんの怒った表情を拝見する事が出来て、今年の御神籤に感謝感激なんて具合ですけど、私死んでました。
がははは。
「お姉様! まだ立ち上がっては」
「かまわん! やはり小奴は我々の手に負える相手ではなかったのだ!!」
「しかしお姉様!」
「分かっている。分かっているとも」
「では」
「ああ、小奴は我々の手でダンジョンマスター“戒”に転生させる!」
「?」
取り纏め役な美人さんが何を言っているのか、この時の私はまったく理解出来なかった。
‥‥‥まあ、時間が経っても理解出来ていないので、正確には現在進行形であるのですが。