第6話:草原への旅路
「なあ、ナヴィ、レキール平原ってどの辺にあるんだ?」
ギルドで槍術を覚えた翌日の朝、俺はクエストに行く準備をしながらそうナヴィに聞いた。
「レキール平原はエドイックスの東に位置しています。歩いて6時間ぐらいですね。」
「歩いて6時間か……疲労がたまると戦闘も厳しくなるから……」
俺がこう呟くと、ナヴィは、
「でしたら、借り馬車を使いましょう!」
と言った。
「借り馬車?」
「はい。借り馬車は人間界でいうタクシーみたいなもので、運賃さえ払えば陸が繋がっている限りどこへでも行ってくれます。」
「いや、俺たちは金が無いんだぞ。そんなのは使えないだろ。」
「大丈夫ですよ。ギルドに登録しているナヴィたちの運賃はギルドが代わりに払ってくれるんです。1か月5万ルキまでなら。」
「そんなに簡単に貸し出しちゃって、ギルドは経営破綻しないのか?」
「3か月の間に1つもクエストをクリアできなかった場合は自腹を切って払わされますし、冒険者の資格が剥奪されてその後1年は再登録もできないというデスルールがあるから、大丈夫なんでしょう。」
「マジか……」
俺は身震いした。ギルドルール怖い。
「ちゃんとクエストしてればいいんですから、問題ないですよ。さあ、行きましょう!」
そうナヴィはハイテンションに言うと、俺の手を引く。俺は【初心者支援セット】と【クエスト支援セット】を【宝物庫】に入れると、丁度部屋に来たアムネリアちゃんに鍵を預け、ホテルから出るのだった。
道端でナヴィが手をあげると、石畳の上を走っていた馬車が止まった。御者は中年の男性で、気さくな笑みを浮かべている。
「お客さんたち、どこまでだい?」
「レキール平原までお願いします。」
「お、レキール平原ってことはお前さんたち、冒険者だな?」
「はい。まだ登録したばかりの新米ですけど。」
「レキール平原は初級、中級、上級、最上級の4つに区分されてるが、どこが目当てだい?」
「まず中級です。それから初級で。」
「おお、いきなり中級に行くとはなかなか気概があるな。よし、じゃあ行くが、レキール平原はちょっと遠いからその分運賃も高くなるぞ。」
「いくらですか?」
「2人分で片道500ルキだ。向こうで俺の馬車を待たせるなら1回ごとに追加で50ルキ。日をまたいだら更に追加で100ルキ。」
「ってことは、全部待って貰って且つ日をまたいだとしたら……」
「1200ルキだな。」
「じゃあ、全部待っていて貰えますか?」
「了解だ。あ、一応乗り逃げとかされると困るから、ギルドカードの提示を頼む。」
御者のおじさんがそう言うので、俺とナヴィはギルドカードを見せる。
「よし、分かった。ハヤテ君とナヴィちゃんだな。俺は借り馬車御者歴17年のトリエン・フェイピックだ。」
「トリエンさんですか。よろしくお願いします。」
「おう、よろしくな。ああ、それと、俺をもしハヤテ君たちの専属御者にしたかったら、5万ルキでできるぞ。いつでもフリーだから、もし俺の運転が気に入ったら言ってくれ。」
トリエンさんはそう言うと、俺たちを馬車に乗せ、
「レキール平原までは1時間30分ほどで着くんだが、どんな道が良い?」
と聞いてきた。
「道、ですか?」
「ああ。舗装された揺れが少ない道、舗装されていない揺れまくる道、水溜まりだらけでバシャバシャ音がする馬車道。他にも1ルキ追加で水中の道、5ルキ追加で地中の道、10ルキ追加で天空の道が通れる。さ、どれでも好きなのを選んでくれ。」
「ナヴィ、どの道が良い?」
「ナヴィは馬車酔いしないので、ご主人様がお好きな道をお選びください。」
「分かった。じゃあトリエンさん、舗装されていない揺れまくる道でお願いします。」
俺が言うとトリエンさんは頷いた。
「ダスティ、ソフィ、アクロバティックロードだ! 行くぞ!」
牽いている2頭のウマにトリエンさんが鞭を入れ、馬車はゆっくりと平原に向かって走り出した。
「そういや、ハヤテ君たちは冒険者になったばかりだったよな? どこ出身なんだ?」
出発してから30分ほど経った頃、トリエンさんがそう聞いてきた。
「えっと、南のナモナキっていう小島からです。」
「ああ、あのトトナッツが名産の所か。職は?」
「俺はアイテムコレクターで、ナヴィは俺専属のメイドです。」
「アイテムコレクターか。レア職業だな。しかもこんな可愛いメイドが専属とは……イイ男は違うな。」
「イイ男って……」
「アイテムはいくつ持ってるんだ?」
「えっと……今は13種ですね。」
「13種か。まあ、それならまだまだこれからだな。頑張れよ。」
「はい、ありがとうございます。」
「なに、冒険者のモチベーションをアップさせるのはサービスの一環だ。礼はいらねえ。」
そう言うと、トリエンさんはウマに鞭を入れた。
「ほい、着いたぞ。ここがレキール平原(中級)だ。」
街を出て2時間程経ったところで、トリエンさんがそう言った。
「ここに住んでるモンスターはフレイムレオとかグランドゼブラとかの大型獣系モンスターと各種プラント系モンスターだ。危ないと思ったら戦闘から逃げるんだぞ。危険に突っ込んでって死ぬのはバカのすることだ。逃げることも勇気の一種だからな。」
「はい。」
「じゃあ、気を付けて行ってこい。俺はここで待ってるからな。」
「お願いします。じゃあナヴィ、行くぞ!」
「はい、ご主人様!」
俺たちは馬車から降りると、レキール平原(中級)でフレイムレオを探すのだった。