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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第十一章
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一歩進む

 気温は肌寒いほどなのに、夕日の光に包まれたゴンドラ内は温かく、むしろ二人きりの空間は暑くさえ感じた。

 心臓は裕也君と二人きりという状況に耐えきれず暴れ回り、鼓動のせいでゴンドラが揺れてるんじゃないかと錯覚するほど。


 裕也君と向かい合ったゴンドラが四分の一ほど進んだが、一向に私達は口を開けなかった。

 二人きり、邪魔も絶対に入らないこの空間で、裕也君と何を話したらいいのかわからなくなる。ここはまず、無難なことから会話を……!


「きょ、今日は楽しかったね。裕也君とこうやって遊べるなんて、昔は考えてもなかったよ」


 恥ずかしくてなかなか話し掛けられなかった憧れの存在と、今こうして遊園地で遊び、観覧車で二人きりの時間を過ごしている。恋人ではないけど。


「俺も、亘理さんとこうやって観覧車に乗れて嬉しい」


 夕日のお陰で、裕也君の頬が赤く見える。そのセリフを赤くなりながら言ってくれたのだと妄想すると、ニヤニヤが止まらない。裕也君にそのつもりは全然ないだろうし、嬉しいと言ってくれたのだって、社交辞令のようなものだろう。変に期待はしない。


「裕也君って、観覧車好きなの?」

「うん、観覧車から見える景色が好きなんだ。ずっと遠くまで見えて、自分の周りの世界なんてすごく小さいものなんだって思えるから」

「……綺麗だね、夕日」


 裕也君がキラキラした瞳で見詰める先。夕日がその存在を世界に知らしめている様子は、荘厳で煌びやかな神々しさを感じる。昼間は青かった空も、今では夕日の色に染まっていて、単純に綺麗だと感じるその景色。私も裕也君と同じ景色を見ているのだと思うと、なんでもないことなのに幸福を感じた。


「……」


 今、ここで振られるのも、悪くないなぁと思える。そういえば、裕也君に告白しようとしたあの日も、こんな夕日の中だった。あの時は悟に邪魔をされたけど、今悟は死への超特急に乗っていて邪魔はしない。


 想いを伝える。私がそれをすることで裕也君を傷付けてしまうかもしれない。でも裕也君だったら、その傷を受け入れてくれる気がするのだ。

 結局は私の自己満足になるだろう。でも恋なんて、みんな自己満足だ。自己満足でなくなるのは、恋が愛になったその時。愛の為に、自己満足は必要だろう。

 告白。今ここで、私は――


「亘理さん」

「っ、な、なに?」


 思い切って口を開こうとした途端話し掛けられた私は驚いて、夕日に向けていた視線を前に向ける。すると、神妙な面持ちの裕也君がいた。


 斜め下を向き、膝の上の拳を震わせるその姿。私はそんな裕也君の姿を、今までに一度見たことがあった。


 校舎裏。一年生の女子生徒を振った裕也君。


 ――諦めるなら、それこそちゃんと想いを伝えないと。ちゃんと返して貰わないと。裕也君、一生後悔しちゃうよ。


 木を見詰めながら、私のその言葉に答えようとしていた。その時の裕也君と、全く同じ。


「……今こんなことを言っても、亘理さんはすごく困ると思うんだけど……」


 私は相槌を打つこともなく、固唾を飲んで裕也君の言葉を待った。

 何か、とても大事なことを言われる気がする。

 どうしてか、今ここにいない悟の顔が浮かんだ。

 裕也君が真っ直ぐ私を見詰めて、口を動かす。


「……俺――」





 ――デデデデーン!


 突然鳴り響く私の着メロ。雰囲気ぶち壊しのこの着メロは……。


「っご、ごめん、悟からだ」


 こんな着メロにしてると知られて、恥ずかしさがオーバーヒート。慌てて通話ボタンを押して携帯を耳に当てる。

 もうジェットコースターに乗り終わったのだろうか、もうすぐで戻ることを知らせてあげなければ。


「も、もしもし、何? 電話とか珍しいね、もうジェットコースター乗り終わったの?」


『……優里先輩』


 電話越しの悟の声。

 稼働中のジェットコースターが近いのか、ゴゴゴゴという機械の音が電話越しに聞こえた。


 そして。



『俺、明後日裕也先輩に告白します』




 一つの恋が、一歩先へ歩いていった。


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