神様は寒暖差が激しい
「可愛かったね、ゾンビ」
「日本人形エロかったな、サトルン!」
「楽しかったですねぇ、優里先輩!」
この一年生グループ頭おかしいんじゃないの?
天音ちゃんがホラー好きだということ自体意外だったけれど、まさか悟まで暗い所が平気だとは思わなかった。結局お化け屋敷で怖がっていたのは私と裕也君のみで、他の四人はお化け屋敷にいたとは思えないほど平然な顔をしている。
「さ、悟って、暗い所平気なんだ、意外……」
「まあ、孤独と暗い所には慣れてますから……」
「重いよ!」
こういう所で過去話しないで貰えるかな!
「た、楽しかったね、天音……」
「はい! 付き合ってくれてありがとうございます、裕也先輩」
裕也君必死の笑顔。笑顔を作るのが得意な裕也君の笑みを崩すとは、お化け屋敷恐るべし……。
「亘理さん、大丈夫だった?」
「う、うん、大丈夫……」
「亘理、ずっと裕也にくっ付いてるんだもんな~、亘理って怖い系無理なんだ」
「え?」
私が……裕也君に、くっ付いてた……?
確かにお化け屋敷にいる時、私は先頭を歩く一年生ズを後ろから眺める位置にいた。ぶっちゃけ怖すぎてどうやって自分がお化け屋敷から脱出したのか覚えていない。覚えていないのだが、そういえば、ずっと誰かの腕にしがみついていた気が……。
理解した瞬間、私の頭は爆発した。顔からはプスプスと蒸気が上がり、体がプルプル震える。
「あ……う……ご、ごめんね裕也君、迷惑だったよね……」
私のバカ! なんで覚えてないんだ、私の人生で一番の美味しい場面だったのに!
「え!? い、いや、俺も正直覚えてな――あ、いや、大丈夫だったよ! 普通に歩けたし、そのっ、亘理さんは女の子だもん、怖くて当たり前だよ……!」
裕也君が、自分も超絶怖かったことを隠しつつ私のフォローをしてくれる。うう、かわいいよ裕也君、本当なんで記憶ないんだ……。
裕也君は自分がお化け屋敷で怖がっていた事実が恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして私から目を逸らしている。私も今誰にも見られたくない程真っ赤になっているから、そのまま顔を逸らしたままでいてくれると助かります……。
天音ちゃんはお化け屋敷が余程楽しかったのか、とても満足そうに笑って蒼斗君と感想を言い合っている。あの地獄を経て、何をそんなに語ることがあるのだろう。
同級生と楽しそうに話す天音ちゃん。その様子を、裕也君はじっと見詰めていた。どんな表情をしているのか、気になったけれど見ないことにする。裕也君が好きな女の子か……うむ、やっぱりしっくりくるなぁ。
私がお化け屋敷での疲労を感じつつ羨ましそうに天音ちゃんと裕也君を見ていると、悟が私の裾をクイッと引っ張った。睨んでくる。
「優里先輩、どさくさに紛れて裕也先輩に……」
「仕方ないじゃん怖かったんだから! 悟こそ一年生の友達と随分楽しそうだったね、彼女と好きな人が同時に怖がってる時にさ!」
そうだこいつ、私と裕也君が怖がってる時、蒼斗君と天音ちゃんと一緒に楽しそうにどんどん先へ進んで行ったんだ。楽しんでいるようで何よりだけど、お化け屋敷にはもう行きたくない……。
「あれが怖いとか、頭の中蒟蒻畑ですね」
なんて言われたが、怖いものは怖い。あれを怖がらない一年生達と三上君がおかしい。
悟は次何に乗るかと議論を始める蒼斗君達を見ながら、一息吐いた。そして私をちらりと見て。
「……説明しますが、天音は蒼斗のことが好きなんですよ」
「……えっ」
「遊園地も、最初は俺だけ蒼斗に誘われて、後二人は好きな人誘っていいと言われたので、俺が天音と裕也先輩を誘ったんです」
なるほど、悟は天音ちゃんのために、二人の距離を縮めてあげようとしたのか。ここに来た理由がどうやら私と一緒のようだが、残り一人に裕也君を誘っている辺り、煩悩に溺れたと見える。
裕也君より先に私を誘えや! 彼女だよ私は!
「見ての通り、天音は奥手で臆病で振り回されっ放しです。まあ天音より蒼斗の方が問題なんですけどね」
「え? どういうこと?」
「見ていればわかるでしょう、あいつ脳内幼稚園児並みで恋愛感情皆無なんですよ、天音の恋は報われないでしょうね……」
「人の親友の弟をズタボロに言われると複雑な気持ちなんだけど……」
「見たところ、朋子先輩も相当アレですよ。さすが蒼斗の姉」
「人の親友をズタボロに言わないでくれる?」
でも、そっか……天音ちゃんは、蒼斗君が好きなのか……。
思わず裕也君の方を見てしまう。いつも通りの笑顔だけど、心は今どうなってしまっているんだろう。確かに天音ちゃんをよく見てみれば、蒼斗君の純粋無垢な笑顔を前にとても幸せそうに笑っていた。頬だって、少し赤くなっている。
……そっか……裕也君、私と同じ理由で好きな人に告白できずにいたんだね……。
ほんわかしていて可愛い天音ちゃん。押しに弱い臆病な彼女は、誰かに告白されたらきっと、自分の恋そっちのけで相手のことを考えてしまう。裕也君は好きな人に重荷を背負わせるのが嫌だったのだろう。
私と悟は裕也君が好きで。
裕也君は天音ちゃんが好きで。
天音ちゃんは蒼斗君が好きで。
「あ、あのお姉さんおっぱいでけぇ!」
……蒼斗君はおっぱいが好き、と。
「……」
神様は寒暖差が激しい。




