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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第十一章
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悟の秘密

 機械に身を任せるということへの恐怖を、みなさんは知っていますでしょうか?

 止まりたくても止まれず、自分の意志とは関係なく、後悔と共にどんどん上空へと昇っていく私の身体。そして後悔が頂点に達した時、人は浮遊感と共に自我が崩壊する感覚を味わうのです……。


「うっひゃ~! 楽しかったね、サトルン! アマネン! もう一回乗ろうね!」

「……一人で乗ってろイカレ野郎」

「サトルンそんなこと言って、五回も付き合ってくれたくせに! ツンデレさんめ~!」

「好きで乗ったわけじゃ……」


 私達は今、フードコーナーの椅子に腰かけて、お通夜のように静まり返っていた。蒼斗君を除いて。

 なぜ私までが死への超特急に五回も乗ったかというと、蒼斗君に引っ張られた天音ちゃんに引っ張られた悟に引っ張られた結果である。天音ちゃんは蒼斗君からの頼みを断れないのか、一度手を引っ張られれば、その手を振り払うことなく悟を道連れに死への超特急へ五回も向かった。勿論私も道連れに。

 しかもげっそりしているのは、意志とは関係なくジェットコースターに乗らされた私と悟と天音ちゃんだけで、率先してジェットコースターに乗っていた蒼斗君は、キラッキラした笑顔を絶やすことなく死への超特急を満喫していた。


 朋子ぉ、助けてぇ……このままじゃ、あなたの弟に殺される……!

 一度しか乗っていない裕也君と三上君は今、死に掛けの私達のためにアイスクリームを買いに行ってくれた。買いに行く前、裕也君は天音ちゃんに「無理だったら無理だって言うんだよ」なんて言って頭を撫でていたが、この死への超特急五連続で、私は確信していた。

 ――天音ちゃんは、無理とは言えない性格であると……!


 だって今にも泣き出しそうなんだよ? 天音ちゃんだけでなく悟まで涙を堪えてるよ? 私だって辛いよ、お願い天音ちゃん、六回目とか勘弁して……!


「あ、じゃあじゃあ、今度はアレ乗ろうよ!」


 蒼斗君が指さす先――見なくてもわかった、今まさに絶叫を生み出す悪魔の乗り物。


「いい加減にしろよサイコ野郎、俺達を殺す気か」

「安心してくれ我が友人達よ! 死にそうになったら俺が愛の人工呼吸で助けてやるぜっ!」

「ふざけんな! おい天音、天音だってもう嫌だろ? 正直お前が断らないと全員死ぬ」

「えっと……」

「アマネン、一緒に乗ってくれないの……?」

「うっ……」


 もうわざとやってんじゃないかってくらい、蒼斗君が不安げな表情を浮かべて天音ちゃんを見詰める。天音ちゃんを巻き込めば全員が着いてくると学習したようだ。


 天音ちゃんが答えに迷っていた時、丁度アイスを買いに行っていた裕也君と三上君が帰って来た。


「お待たせ、アイス皆の分買ってきたよ」

「ご、ごめんね裕也君! わざわざ!」


 時間稼ぎにしかならないが、天音ちゃんが押しに負ける前に帰って来てくれて助かった!


「亘理ぃ、俺も頑張って並んで買って来たんだけど~」

「あ、うん、三上君ありがと」

「冷たっ! アイスだけに冷た!」

「俺バニラがいい~!」


 私は三上君からバニラ味のアイスを受け取って、蒼斗君に渡してあげた。「サトルンの彼女さんありがとう!」なんて言われたが、そんなに悟の彼女であることを大声で言われると、こう……ムズムズする。

 私が勝手にムズムズしていると、裕也君がストロベリー味のアイスを天音ちゃんに渡している様子が見えた。


「あ、ありがとうございます、裕也先輩」

「うん、天音はイチゴが好きだったよね」

「は、はい! 裕也先輩、覚えててくれたんですね」

「勿論だよ、中学の時沢山お世話になったし」

「お、お世話なんてそんな――」


 まるで初々しい恋人のようなやり取り。真っ赤な顔で笑う天音ちゃんは、どこから見ても天使……。

 ……あれ、そういえば天音ちゃんって、中学の時の部活のマネージャーってことは、裕也君と同じ中学出身ってことで……。


 裕也君が告白を躊躇するような人ってどんな人なのか聞いた時の、裕也君の言葉を思い出す。


 ――その人はすごく魅力的な人で、中学の時に一回告白しようかと思ったんだけど、結局怖くなってやめちゃったんだ。


 その言葉で私は、裕也君の好きな人=同じ中学出身の人だと確信した。裕也君と同じ中学出身で、仲のいい女の子……。


 裕也君の好きな人って、もしかして――天音ちゃん……?


 ま、まままま待って待って。え、嘘、こんな所で私は真実を知ってしまったの? 心の準備してなかったよ、どうしよう……。


「優里先輩、謎の熱気でアイス溶けてますよ、どうしたんですか? 具合悪いなら俺が食べましょうか?」


 私を心配しているのかアイスが食べたいだけなのか、悟が私の顔を覗き込んでくる。悟だってさっきまで真っ青な顔してたくせに、アイスで元気を取り戻したようだ。

 私は裕也君の好きな人を知っているらしい悟に、確認のために聞いてみることにした。勿論悟にしか聞こえない、小さな声で。


「……あのさ、悟。裕也君の好きな人、この遊園地に来てたりする?」

「……」


 すっと冷める悟の表情。聞かなきゃよかったと後悔した直後、悟はあたふたする私を見てふっと笑った。そして人差し指を唇に当てて。


「秘密です」


 ……これ完璧天音ちゃんじゃん!


 だってここで秘密にする理由がないもん! 天音ちゃんじゃないって情報だけで誰が裕也君の好きな人かなんてわかんないし! 普通に「いないですよ」って言えば、再び私の中で迷宮入りだったし!


 見るからに動揺している私を見た悟の口元が、弧を描く。からかわれているだけだろうか、やけに静かに笑う悟が印象的だった。


「さーて、アイス食ったら今度何に乗ろうか?」

「はいはいはーい!」


 三上君、余計なことを……!


 案の定三上君の言葉に即座に反応して挙手をした蒼斗君が、無邪気な笑顔で悪魔の乗り物を指さす。


「アレ乗りたいアレ! 浮遊感すごそう!」

「だからお前は……」


 再び青ざめる私と悟と天音ちゃん。しかしここで、裕也君が助け舟を出してくれる。


「絶叫系は結構乗ったし、ローテーションでみんなが遊びたいアトラクションを周るっていうのはどう?」


 さすが我らが裕也君! 私達の精神的体力的疲労をいち早く理解して助け舟を出してくれるとは……!


「天音は行きたい所ある?」

「え、私が決めてもいいんですか……?」


 消え入りそうな声の天音ちゃんは、裕也君からの問い掛けに真っ赤になると、恥じらうようにもじもじしながら、パンフレットのとあるアトラクションを指さした。

 コーヒーカップとかかな? それともメリーゴーランド? 天音ちゃんだったらきっと、そういう心優しい乗り物をチョイスするだろうなぁ……。


「おっ、いいじゃんいいじゃん! みんなで行こうぜ!」

「……」


 ――お化け屋敷だった。

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