ふわふわランド
遊園地当日。現地集合で全員が揃った頃には、私達は一つの団体となっていた。
涼しい風と、青く澄んだ空の色は、まるで私達の心の真逆を映し出したようで……。
「いい天気でよかったなぁ、遊園地なんて小学の時以来だわ~」
「なんか見覚えのあるメンバーだな」
合計八人。私、朋子、圭介、三上君、悟、裕也君、悟の友人二名。大所帯!
「デートにお邪魔しちゃったみたいで悪いねぇ、亘理!」
「……」
なぜ! なぜ私は悟にイライラしたからといって、三上君を誘ってしまったのか!? 私だってこの人苦手なのにぃ!
悟がにっこりと天使のような笑顔を私に向けてくる。
「優里先輩、ちょっといいですかぁ?」
訳:面貸せや無能が。
「わかった。わかってる、悟の言いたいことはよーくわかる! 私も自分のしでかしたことはバカだったと思う!」
「優里先輩のせいで最悪な事になりました。大体なんですか、このメンバー。あなたの友人はまだわかりますけど、なんで滝富先輩がいるんですか? 俺があの人との決闘で酷いレッテルを貼られた事件のことを忘れたんですか?」
「酷いってあんた、最低な勝ち方したのは悟でしょ!?」
あれで圭介を嫌うのは筋違いすぎる。初めて圭介を可哀想だと思った。
だが変に邪魔をさせないためにも、悟には説明しておくか。
「朋子……私の友達が、圭介のこと好きになっちゃったんだって」
「は? いつからですか?」
「昨日の朝」
「最近……」
「ハンカチ拾って貰って」
「ちょろっ……」
私と同じこと言ってる……。
「私は今日、二人の距離が縮まればいいなって想いでここに来てるの。悟も、協力しろとは言わないから邪魔はしないでね!」
「俺と裕也先輩の邪魔をした優里先輩の言うことなんて聞きません」
いじけんなよ、子供かよ。
私と悟がいつも通りひそひそと本性で会話していると、裕也君が悟の友人の一人と話している姿が見えた。
「天音、久し振り。入学式以来かな?」
「は、はい」
あれが、昨日悟と裕也君の会話に出てきた『天音』という子か。小さくて気が弱そうで、天使の羽が似合いそうなめちゃくちゃかわいい女の子だ、こんな清楚な子が悟の友人なんて信じられない。
「天音も来るっていうから、びっくりしたよ」
「さ、悟君が誘ってくれて……」
天音ちゃんは、頬を赤らめながらちらりと悟に視線をやり、「ありがとね」と礼を言う。悟は小さく頷いてそれに応えていたが、なんか……なんだろう、この子達の関係がわからない。こんなにかわいい女の子が悟の友達ってだけで信じられないのに。
「へぇ、チビ助が誘ったのかぁ、浮気だぜ亘理! 浮気!」
「三上君黙ってて」
「あの、悟君の彼女さん、ですか?」
「え? あ、はい、亘理優里です……」
天音ちゃんに話し掛けられて、なぜか敬語になる。チワワのような潤んだ目でじっと見詰められた私は、思わず目を逸らしてしまった。
だが目を逸らしてもなお、天音ちゃんはずっと私を凝視してくる。顔に穴が開いてしまいそうだ、なんなんだろうこの子……。
「……」
「……あの、天音ちゃん? 私の顔に何かついてる?」
「……あっ、す、すみません! なんでもないです……!」
顔を真っ赤にした天音ちゃんの頭を、隣にいた裕也君が優しく撫でる。そして撫でながら、何もわからない私に説明をしてくれた。
「天音は中学の時の部活のマネージャーなんだ。ちょっと人見知りが激しいところがあるけど、すごくいい子だから、仲良くしてあげてくれるかな?」
つまり天音ちゃんは中学の頃剣道部のマネージャーで、裕也君とも仲がよかったと。そして久々にこんなに可愛い後輩に会えてテンションの上がっている裕也君は、天音ちゃんの頭を夢中でナデナデしている、と……。
「ゆ、裕也先輩、あの……」
「あ、ごめん」
天音ちゃんの涙目を見た裕也君が、慌てて腕を引っ込めて撫でるのをやめる。
裕也君、どれだけ天音ちゃんのこと可愛がってるんだ、裕也君のこんな姿初めて見るかも……。
「裕也先輩、天音を撫でるの大好きですもんね」
悟からの言葉に、裕也君は動揺するでもなく首を傾げた。
「うーん、気付いたら撫でてるんだよな……なんでだろ?」
それは何かの病気では?
なんて思ったが、私も裕也君と同じく、気付いたら天音ちゃんの頭を撫でていた。これは吸引力あるぞ、裕也君の気持ちわかる……。
「っゆ、優里先輩……」
「あ、ごめん」
涙目の上目遣いやばい、超かわいい。天使の羽と輪っかが見える。それにそんな可愛い声で「優里先輩」なんて呼ばれたら気が狂いそうになる。後輩の女の子ってすっごくかわいい……。悟も女の子だったら少しは……いや、ないな。暴力後輩女子とかないわぁ。
「優里先輩まで何やってるんですか、あなたは愛しい彼氏の頭だけ撫でてればいいんですよ」
「だって撫でたら照れ隠しで殴――」
ドスッ。
言い終わる前にグーで腹を殴られた。
「触らないで下さい、汚らわしい」
「さ、さっきと言ってること違う……」
しかもこいつ、裕也君の前で堂々と殴りやがった。裕也君見て! こいつ普段からこんなに凶暴なんだよ!
案の定、裕也君は悟の頭をコツンと叩いてお説教をしていた。嬉しそうな悟に腹が立つ。
「こら悟、ダメだろ女の子にそんなことしちゃ」
裕也君、女の子じゃなくてもダメだから。
「えー、俺なりのスキンシップですよぉ」
可愛く言ってもダメだから。
私がスキンシップによる涙目で悟を睨むと、裕也君に頭をコツンとやられて嬉しそうにしていた悟が、勝ち誇ったゲス顔で私を見下してくる。人間の形をした屑……。
ていうか、この状況で圭介が大人しいことに恐怖を感じる。前は私に暴力を振るった悟のことを、相当敵視していたはずなのだが……。
私は圭介の体調が心配になり、こちらをじっと見ている圭介に「今日大人しいね、どうしたの?」と聞いてみる。放っておけばいいのだろうが、今日圭介には朋子と仲良くして貰いたいのだ。体調が悪い中で無理をさせて、朋子に失敗して欲しくない。
だが私の心配をよそに、圭介は微笑みを浮かべて告げる。
「何を言う優里ちゃん。俺はいつも通りだ」
「いつも通りなら、私が殴られる前に助けるよね?」
「安心してくれ、俺は優里ちゃんの性癖を否定しない」
「は?」
何言ってんだこいつ。
「共に歩み続けて十数年、優里ちゃんが痛みに興奮する性癖だとは気付かなかった。今まで気付かずにいてすまなかったな」
「は!?」
何言ってんだこいつ!?
「優里ちゃんと名取は『殴り愛』で繋がっているのだと、九条都子から聞いた」
都子先輩いいいいいいい!
都子先輩は私達をどうしたいの!? 力になるとは言ってくれてたけど、私と悟の関係が最悪な感じにレベルアップしてるんですけど!?
「俺は優里ちゃんが幸せなら幸せだ。優里ちゃんの幸せの邪魔はしたくない、俺は優里ちゃんを全力でサポートする!」
やめて圭介その純粋な目をやめて! 誤解解きづらいから……!
大勢の前でドМのレッテルを貼られそうになった私は、慌てて圭介の誤解を解こうと思考を巡らせる……が、私より頭の回転が無駄に早い悟に先を越された。
「そうなんですよ裕也先輩、俺達殴り愛で繋がってるんです。素晴らしい絆ですねぇ優里先輩! 俺、これからも優里先輩を悦ばせるために精進します!」
「精進すんな! 大体私はドМなんかじゃ――」
「俺のもう一人の友人を紹介しますね! ほら、自己紹介しろ蒼斗」
被せてくんなよ! しかも話題変わったらもう誤解を解くタイミングがああああ!
悟が強引に腕を引いて私の前に連れて来た男の子は、急な振りにも関わらず、びしっと背筋を伸ばして敬礼をした。
「初めまして、サトルンの彼女さん!」
サトルンって誰や。




