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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第十一章
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突然やってくる

 絶望は、突然やってくる。


「――優里ちゃん、私……圭介君のこと、好きになっちゃった……」


 親友が闇に沈みそうになっている事実に、私は机の中の教科書類を、教室の床にぶちまけた。本日提出のプリント、一時間目で使う教科書とノート、朝読書の時間に読んでいる詩集、ヒビキ君とおそろいの筆箱……全てが雪崩のように、机の中から零れ落ちる。

 それもこれも、授業の準備をしている最中に朋子から告げられたとんでもない言葉に、動揺が爆発してしまったからである。


「朋子……今、なんて言った……?」

「圭介君に惚れちゃった!」

「朋子、少し痛いかもしれないけど、ちょっと我慢してね……」

「優しい目で親友を殴ろうとしないで優里ちゃん! 私の頭は正常だよ!」

「狂ってる! どうしちゃったの朋子、頭打ったの!? 病院行こう、私も着いて行くから!」

「私の話を聞いて!」

「ぐふっ!」


 デジャヴ。とある一年生男子を彷彿とさせる一撃を親友から受け、混乱していた私の頭は徐々に冷静さを取り戻していった。

 しかし、冷静になったところで朋子の言葉の意味が理解できない。


「優里ちゃん、私圭介君のこと好きになっちゃったの」

「……へ、へえ、ケイスケ君ね、どこのケイスケ君?」

「優里ちゃんの幼馴染みの――」

「少しは現実逃避をさせて!」


 逃げ道を完全に塞がれる。私のトラウマ野郎と同姓同名の誰かを好きになったのかと思いたかったのに、私の幼馴染みっていったら滝富圭介しかいない。

 私は教科書を拾うことも忘れて朋子に詰め寄った。


「なんでよりにもよってあいつ!? 朋子、あいつがどんな人間かわかってるよね!? 私に全校集会という名のトラウマを植え付けたゲス野郎だよ!?」

「うん、知ってるよ」

「だったらなんで……! いつから……!」

「今日の朝」

「最近!」

「ハンカチ拾って貰って」

「しかもちょろい!」


 普通ハンカチ拾って貰っただけで惚れる!? やっぱりこの子おかしいよ、前々からちょっと変な子だとは思ってたけど!


「あいつだけはやめた方がいいよ、朋子。なんでよりにもよってあんな不良? 周りもうちょっと見てみなよ、もっと優しくていい人いっぱいいるよ」

「でも優里ちゃん、私本気なの!」

「……」


 朋子の澄んだ目の奥。……真っ赤に燃えていた。

 圭介が私以外の誰かと一緒にいる姿は想像できないが(慢心とかでなく)、積極的な朋子に掛かればあの鉄壁のストーカーも心が揺らぐかもしれない。

 なんだか厄介払いになるみたいで嫌だけど、最近の圭介は都子先輩の調教……じゃなくて、助言のお陰でまともになろうと努力している。案外思考もまともになっているかもしれない、ここは朋子を応援するべきか……。


「わかったよ朋子、私朋子を応援する」

「本当!? ありがとう優里ちゃん!」


 ドロドロした三角関係には全くならない不思議。


「何か圭介のことで困ったことがあったら言ってね、なんでも力になるから」

「早速頼みごとがあるんだよ!」


 早速すぎる。私が協力してくれることを確信していたのだろうか、信頼されているみたいで嬉しい限りだけど。

 朋子は「えっとねぇ」と呟きながら、机の脇に掛けてある自分の鞄から、何か封筒を取り出した。


 待って朋子、まさか私にラブレターを渡してほしいとか言うわけ? 早すぎるよ行動が! 今朝惚れてその日のうちにラブレターとか、圭介もびっくりの行動力だよ!

 と思っていた私だが、その封筒の中身を見せられた瞬間、思わずテンションが上がり笑顔が溢れる。


「あー! ふわふわランドの割引チケット!」

「そうだよ優里ちゃん。この前二人で行こうねって話してたでしょ?」

「話した話した!」


 ふわふわランド。県内一の規模を誇る遊園地であり、専用のチケットがあれば一人分の値段で四人分のフリーパスが買える。そしてその専用のチケットというのが、朋子が今封筒から取り出したものだ。少し前に朋子と「一緒に行こうね」と話していたのだが、まさかこんな所で専用チケットが登場するとは思わなかった私は、予想外の嬉しい事態に目を輝かせる。マスコットキャラがすごく可愛くて、一度でもいいから本物に会ってみたかったのだ。

 話によると、朋子のお父さんが知り合いに譲って貰ったらしい。朋子父、グッジョブ!


「ふふん、優里ちゃん、このチケットが欲しいのかい……?」

「いや、チケットが欲しいっていうか、一緒に行くんだよね……?」


 朋子が私の目の前でひらひらとチケットを靡かせる。


「これ、最大四人まで割引効くでしょ?」


 なんとなく話の流れが予想できるぞ……。


「――優里ちゃんの方から、圭介君も誘ってっ!」


 言うと思った。


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