罪悪感
「悟、悪ふざけも程ほどにしなよ。今日のは流石にエスカレートしすぎ」
「壮観でした」
「感想なんて聞いてない!」
そりゃ壮観でしたでしょうね! 悔しいけど痛がってる裕也君可愛かったよ……!
満足した様子の悟は、いつもより清々しい顔で笑っていた。
「亘理さん、今日はごめんね。俺が余計なことしちゃったせいで……」
「ううん、裕也君のせいじゃないよ」
三上君のせいだよ。
一応三上君は裕也君の友達なので悪くは言わないが、恨みは忘れないでおこう。裕也君の前では心の広い寛容な女の子でいるのが私のモットーなので……。
「それより裕也君、足大丈夫?」
「ああ……」
悟が満足げに笑っている一方で、裕也君は足が痛いと悟に文句を言っていた。マッサージだと騙されたことを根に持っているようで、じとっとした目を悟に向ける。
「……悟に騙された、足痛い」
「騙してません、マッサージっていうのは効くほど痛いものですよ」
「へぇ、じゃあ今度は俺がしてやるよ」
「え!? いいんですか!?」
食い気味。しかも期待に満ちた眼差しで。
「え、うん……」
騙されちゃだめだよ裕也君、そいつの頭の中煩悩で一杯だから。と言いたいが、どういう意味かと聞かれたら答えられないのでやめておく。悟の機嫌が益々よくなった所で、十字路に辿り着いた私達は別れた。
「悟、部活の時覚えてろよ」
「やだぁ、怖いです~」
イチャイチャしてるようにしか見えないんだよこっちは!
悟の猫撫で声に若干イラッとしたものを感じながらも、大人な私は笑顔を取り繕って裕也君に手を振った。悟もマッサージの予約を取れて嬉しそうだ、腹立つ。
二人きりになった私達は、会話もなく無言で歩く。悟もつまらなそうな無表情に戻っていた。
あのさ、裕也君と私に対する態度が明らかに違うのはなんなの? 喧嘩売ってるの?
さすがにここまで態度が変わるとちょっと傷付くんですけど……。
私達はそのまま電車に乗って、最寄りの駅で降り、私の家へ向かって二人で歩く。
すっかり夕日が目の前にあった。
「……優里先輩」
「なに」
急に立ち止まった悟に合わせて、私も止まる。すると立ち止まった私の前に立った悟が、夕日の中で私の頬に手を添えてきた。
殴られた時の怪我で絆創膏を貼ったままの、まだ少し腫れている頬を。
突然のことに驚いて、私の心臓は跳ね上がる。
真剣な表情で私を見詰める悟の顔が、目の前にあった。夕日の光に照らされているせいか、誰かに見られているような気がして心臓が暴れる。悟の掌の温度が頬を伝って、顔全体に広がっている気がした。
「さ、悟……? どうしたの……?」
「この間は庇ってくれてありがとうございました」
「えっ」
今かよ。
「ちゃんと俺の口から言ってなかったと思うので言っておきます」
「……どういたしまして」
悟は私の頬から手を離し、再び歩き出した。
触れて傷の具合を確認したらしい。
「だけど、もうあんなことしないでくださいね。優里先輩だって一応女なんですから、ああいう状況で逃げたって誰も責めません」
むしろ可愛らしく悲鳴上げて逃げるべきですよね――そう言っていつも通り人を馬鹿にするように笑う悟。
けれどその笑顔からは、抑えきれない罪悪感が滲み出ているようだった。
口には出さないが、私の頬の傷を余程気にしているらしい。先程浮かべた表情――見ているこっちが苦しくなるような、そんな笑みだった。
私は早歩きで悟の横に並ぶ。
「誰かに責められるとか関係ないでしょ。悟とは一応恋人だし」
「何言ってるんです、裕也先輩もいないのにそんな嘘吐かなくていいんですよ」
「悟とは一応友達だし」
「……脅して付き合わせたこと、怒ってるんじゃないんですか? 友達なんかにしていいんですか?」
「キス以外のことは許してあげるよ。悟にだって事情があったんだし」
「……思ってましたけど、優里先輩って異常なくらい寛大ですよね」
「へ?」
「普段は心が狭いくせに、いざって時の対応が寛容すぎます。ギャップ萌え狙ってるんですか? ご苦労様です」
――ギャップ萌え狙ってるのはあんたでしょ!
私が悟に反論してやろうと口を開きかけた時、見慣れた道に見慣れた背中を見付けた。
あの後ろ姿は……。
「――ヒビキ君!」
コンビニにでも行ってきたのだろう。ヒビキ君は手に買い物袋を下げて歩いていた。




