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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第九章
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変化

 話に耽っていたらすっかり時間が経ってしまい、三上君と教室で別れてすぐに剣道場に行っても、部員達は片付けや着替えをしている頃だった。

 麗華様も部活の途中までいたらしいが、委員会の仕事があって途中で抜けたらしい。なんにせよ、裕也君とも以前までの仲に戻れたようでよいことだ。


「あら優里ちゃん、今日はお掃除お疲れ様」

「あはは……」


 裕也君に聞いたのだろう、私の恥態が剣道部員達に知れ渡っていた。三年生の先輩達からも「災難だったな」なんて励ましを受け、飴玉を貰った。いい人達だなぁ。


 で、私が一番驚いたのは、あの圭介が真面目に部活に参加していたことだった。てっきり概念となって私を監視しているものとばかり思っていたから、着替えを終えて更衣室から出てきた圭介の姿を見て驚きを隠せない。何を考えているのだろう、怖い。


 そして私が驚愕と恐怖で固まっている時、いち早く私を発見した圭介が嬉しそうな顔で駆け寄ってきた。迎えに来た母親を見付けた幼稚園児かな……?


「優里ちゃん! 会いたかったっ……!」

「あ、あぁ、そうなの……」


 私との再会に涙を浮かべる圭介。なんだなんだ、どうしたんだ……。


「圭介……頭でも打った……?」

「なぜだ?」

「いや、圭介が私のいない所でちゃんと部活してたから……」


 まあ本来それが普通なんだろうけど。


「言っただろう優里ちゃん、俺は優里ちゃんの右腕に相応しい男になると」

「言ってないよ?」


 右腕てなんやねん。


「健全な精神は健全な生活から。優里ちゃんを一方的に愛していたのではただ迷惑なだけだ、俺は優里ちゃんからも愛されるような男になりたい。だから優里ちゃんを一方的に見守る生活はやめて、優里ちゃんが俺を見てくれるように俺自身が努力することにした」

「圭介、あの、本当に大丈夫……?」

「すまないが、これからは四六時中優里ちゃんを見守るということはできないだろう。だが安心してくれ、優里ちゃんが俺を呼んでくれるなら、例え地球の裏側にいようと必ず駆け付ける」

「いきなりどうしたの、圭介……」


 あれほど妄信的だった圭介が、冷静に自分を分析して今までの悪習を改善しようとしている。私が今まで何を言っても聞かなかった、あの圭介が。


「私が助言したのよ」

「都子先輩」


 都子先輩が、圭介を前に固まっていた私の隣に立つ。


「ストーカーなんて続けていたら、いつか本当に優里ちゃんに愛想つかされちゃうわよ、って」


 あの日、私と悟のデートを邪魔させないようにと、都子先輩は圭介を監禁……いや、私から遠ざけてくれていた。その時に圭介と二人で話し合ったらしい。


「丸一日掛けてお説教しておいたわ」

「あ、あはは……」


 人は笑顔であっても、恐ろしい内面が見え隠れするものだ。


「でもタイミングが悪かったわね……。その傷、他校の生徒にやられたって聞いたわ。滝富君が近くにいれば防げたかもしれないのに、私の余計なお世話でごめんなさい……」

「あ、謝らないで下さい! 私のためにありがとうございました。これも自業自得と言いますか、むしろあの時圭介がいなくて助かりました」


 圭介がいたら、その場で血を浴びる所だった。勿論返り血。


「それでは優里ちゃん、俺は家へ帰る。優里ちゃんも帰る時には充分気を付けるんだぞ、何かあったら俺の名を呼んでくれ」

「う、うん、またね……」


 私が唖然としたまま手を振ると、圭介も嬉しそうに手を振って背を向けた。私の後ろを付け回していたはずの圭介が、手を振って私の先を走っていく。


 ……なんだか少しだけ切なくなった。子供が大人になっていくのを見る親の気持ちとは、こういうものなのだろうか。

 いやいや、ストーカーが改心してめでたいことなんだから、寂しいとか思っちゃダメだろう。


「ああそうだ、優里ちゃん」

「なに?」


 走っていた圭介が足を止め、こちらを振り返る。


「優里ちゃんを殴った連中なら川に沈めておいた」

「……」


 そう言ってにこやかに笑って走り去る圭介。


 純粋な瞳でそういうことするから、受け入れがたいんですよ……。

 ……え、冗談だよね? 私、殺人事件の動機の一部になるのなんて嫌だよ?


 あの中には中学の頃の悟の同級生もいたっけ。あの日のことを思い出した私は、ふと悟の姿が見当たらないことに気付いた。そして裕也君の姿も……。


「そういえば、裕也君と悟はどこに……」

「ああ、二人なら個人練習の後、あっちでマッサージしてるわよ」

「え? マッサージ?」


 都子先輩に教えて貰った方向――柔道部の道場破りごっこに使うらしいマットの上に目線をやる。


 そこには、仰向けに寝転がった裕也君の膝裏を持ち上げて、脚の間に割って入っている悟の姿が――ってなにしてんのどう見てもアウトだよ! 心なしか悟が恍惚の表情を浮かべてるよ!?


「ちょ、ちょっと悟あんた何やって……!」


 私が慌てて二人の元に駆け寄り、悟の肩を引っ張って裕也君から遠ざけようとする。が、私の焦燥を前に、二人の態度は変わらない。

 誰かこの体勢がおかしいって気付かないの!? 私の心が腐ってるの!? 私がおかしいの!?


「あ、亘理さん、掃除終わったんだ。今日は本当にごめんね……」

「い、いや、それはいいんだけど……なに、してるの……?」


 裕也君が仰向けに寝転んだまま、申し訳なさそうな顔で私に謝ってくる。

 が、今の私はそれどころではない。どう見ても普通のマッサージには見えないんですけど、裕也君それ悟にまんまと騙されてるんじゃ?


「悟が足のマッサージしてくれるって言って……いたたた! 悟、これ本当にマッサージになってる……?」

「なってますよ。痛いってことは効いてる証拠です、もう少し強めにしますね……?」


 私が止めに入ろうとしているというのに、当の悟はもはやどこのマッサージをしているのかわからないマッサージを続ける。


「え、ちょ、いたたたた! ストップストップ!」

「そんなこと言って、本当は気持ちいいんでしょう?」

「裕也君痛いって言ってんでしょうがぁ!」


 私は顔を青くする裕也君を救うため、悟を引っ剥がすことに全力を尽くした。


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