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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第九章
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例え話

 あの後物凄い勢いで謝ってきた裕也君だった。

 が、あなたは悪くない、悪いのはあなたの友人です。


「わりぃな亘理、道連れにしちまって」

「本当だよ」


 放課後の冷めた体育倉庫で、私と三上君は箒を手にせっせと掃除をしていた。いや、手を動かしているのは私だけ。私がさっさと終わらせて剣道場に行きたい想いを知ってか知らずか、三上君は箒に寄り掛かりながら私の動きを見ているだけだ。


 大きなゴミとしかならない三上君は正直言って邪魔。

 サボるだけなら出て行ってくれませんかね?


 体育倉庫は薄暗くひんやりしていて、少し肌寒い。早くこんな所出て行きたい。

 今頃裕也君と悟は部活に励んでるのか……。


 なんて思いながら私がせっせと箒を動かしていると、三上君が「前にも言ったと思うんだけど」と言って話し始めた。


「亘理ってさぁ、なんでチビ助と付き合おうって思ったわけ?」

「……そんなのどうでもいいじゃん。悟が必死に告白してきたから、一ヶ月くらいなら付き合ってやろうと思っただけ」


 実際は恥ずかしいラブレターを人質に取られて脅されたんだけど。


「へぇ、あのチビ助の方が亘理に惚れたってわけね。で、一ヶ月経ちそうだけどどうなのよ?」


 三上君はつまり、一ヶ月後に私達が別れるのかどうか、知りたいらしい。

 正直裕也君に告白という最終目標を見失っている今、そんなことを一々考えている余裕がない。悟と別れたら裕也君に告白する予定だったが、裕也君の恋愛事情を知ってしまった今はどう行動を起こしていいかわからない。


 悟と別れた後のことを考えて、少し虚しい気持ちになる。裕也君とは教室で毎日会えるけど、悟とはきっと接点がなくなって、疎遠になって――


「……」


 ……あれ、なんだろう。ムカつく奴だけど、もし会わなくなったら「会いたい」って思うものなのかな。

 私は自分の胸に沸き上がった想いを振り払うため、話題を逸らした。


「そんなことより三上君に聞きたいことがあるんだけど」

「ん? 何?」

「三上君ってさ、裕也君の好きな人知ってる?」


 まあ毎回聞き出そうとして適当にあしらわれているのを見ているので、三上君も知らないことだろうとは思うが。

 私が聞くと、三上君は少し真面目な顔をして応えた。


「本人が言わねーなら、俺が言うことじゃねーよなぁ」

「……え?」


 ひょっとして三上君、裕也君の好きな人――知ってる……?


「み、三上君知ってるの!? 裕也君の好きな人!?」

「そりゃあ一年の頃からの付き合いだし、大体予想は付いてる」

「……!」


 まさか悟以外で裕也君の好きな人を知っている人がいるなんて。


 聞きたい。でも何気に友人想いの三上君のことだ、興味本意で聞こうとしても答えてくれない気がする。

 もし私が三上君の立場でも、親友の好きな人を面白おかしく言いふらしたり、簡単に暴露したりはしない。本人が言いたがらないのだから、友人としてその恋を見守るべきだろう。

 逆に考える。どんな聞き方なら教える気になるか……。


「……裕也君の好きな人、教えてくれない?」

「だから、本人が隠してるんだから俺が言うことじゃ――」

「私、裕也君の力になりたいの!」

「……なんだって?」


 私の言葉に、三上君は目を丸くした。


「裕也君の恋を叶えてあげたい。裕也君はもう諦めてるみたいだけど、想いを告げないままなんて嫌に決まってるよ。後悔させたくないの」


 私みたいに変な邪魔が入ってタイミングを逃してしまう前に。


「もし返事がダメだったとしても、想いは伝えるべきだと思うの」


 自分で言っていて、じわりと目頭が熱くなった。裕也君のことを想っているんじゃない。その言葉はまるまる、私自身に向けられた言葉のように感じて、胸が苦しくなったのだ。

 返事がダメだと分かっているのに、想いを伝える意味。それは。


「……そうしなきゃ、誰だって前に進めないから」


 一生片想いを続けると誓ったのに。誓いが儚く綻んでいく。


「本当にそう思うか?」

「……え?」

「……もし……もしもの話な? 自分の好きな相手には他に好きな奴がいて、しかもそいつら両想いで付き合ってたとする」

「う、うわぁ」


 ヘビーな状況ですね……。


「そんな相手に、自分が後悔するからって告白できるか? 世の中では倫理から外れたことを不倫と呼ぶんだぜ」

「……」

「立場が逆だったとしたらどうだ?」

「逆っていうと?」

「お前が両想いの相手と付き合ってる幸せな時に、他の男から告白されたら。シラケるだろ? そいつのこと無下にも出来ないだろうし、余計な悩みが増える」


 なぜ三上君がこんなことを聞いてくるのかはわからない。けど、私は想像した。

 誰かが私のことを本気で好きで、悩み抜いた末の告白なら――


「……その人がそれで前に進めるなら、私は何度だってその人の想いを受け止めるよ」


 それは私の願望にも似た本音。

 いやでも実際、圭介からの愛の告白は、本人が満足するまですればいいとは思ってる。だが入学式の公開告白、あれだけは墓に入ってからも許さん。


「……そうか」

「うん」

「亘理が心配しなくても、裕也はまだ自分の恋を諦めてないと思うぜ」

「どうしてそう思うの?」

「そいつを見る時の裕也の顔な、片想いの頃のままなんだよ」


 そう言って三上君は、少年のような笑顔を浮かべた。

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