料理
「……優里先輩って最近調子乗ってますよね?」
「の、乗ってません」
「裕也先輩に手を出したらどうなるか……よく考えて下さいね……?」
そ、そんな至近距離でハサミ見せながら見詰めないで、変な汗が出てくる。
「ゆ、裕也君に手を出すって……裕也君には好きな人がいるんだよ? そんなこと、裕也君の為にもしないよ」
「……それは……裕也先輩のことは諦めるって、ことですか?」
期待にも似た悟の瞳。
どれだけ私のことを邪魔扱いしているのか、よーくわかった!
「私、片想い続けることにした」
「……はあ?」
「裕也君に好きな人がいるのは仕方ない。でも『はいそうですか』と諦めることはできない」
「何堂々と悲しいこと言ってるんですか? 潔く諦めて次の恋を探した方がいいですよ。高校生活なんてあっという間に終わって、裕也先輩とも別々の進路に進めば離れ離れになるんですから、今のうちにさっさと諦めて別の恋人作って楽しい高校生活を思い出に残した方が――」
「生々しい話やめてくれない!?」
ちょっ虚しい未来が見えちゃったよ!
「ていうか、それは悟だって一緒じゃん! どうせ私達は報われないんだから、可愛い彼女でも作って裕也君にお祝いして貰いなよ!」
「可愛くない彼女が出来た時にお祝いして貰ったのでもういいです。それに俺は裕也先輩以外の人間に靡く気はないですし、将来は裕也先輩と同じ東京の大学に通って同棲……ルームシェアする予定なので彼女とかいらないですし優里先輩の存在が邪魔です」
「ちょっと待って同棲ってどういう意味!? 裕也君はそのこと知ってるの!?」
この際存在が邪魔だと言われたことはスルーしておこう。
「冗談っぽくは言ってあります。『そういうのもいいな』と返事をいただいたので俺の中では決定事項です」
「それ適当に返されただけだよ! 本気にしたら裕也君だって困るよ!」
「何もわかってないですね、優里先輩は」
「は? なにが?」
「俺と裕也先輩の関係ですよ」
「だから、なにが?」
何度聞いても、悟は具体的なことを何も教えてくれなかった。
悟と裕也君の関係? そんなの、結構仲のいい先輩後輩同士以外に、何かあるのだろうか。
確かに悟にとっての裕也君は、命の恩人で救世主で特別な存在かもしれない。恋愛感情を抱いてしまうほどに。
けど、裕也君にとっての悟はなんだろう? 「めっちゃ懐いてくる小動物」だろうか。悟のように特別な感情は抱いていない気がする。裕也君にとっての悟はあくまでも「部活の後輩」で、学校以外でも関わりが多く仲のいい友達……程度にしか思っていない気がする。
いや、その程度と言っても、決して悪い意味ではなく。
「優里先輩には、俺と裕也先輩の絆はわからないでしょうねぇ」
「そ、それは男の友情とかそんな感じでしょ? 女の子はそんなのわかんなくていいんです!」
「そうですね! 優里先輩がどう言おうと、俺と裕也先輩の華やかな同棲生活が始まることは不可避ですもんね!」
「いやだからそれは裕也君が――」
という、後から思い返すと実にくっだらない言い合いをしていたせいで、帰る頃には既に部屋は薄暗いオレンジ色に染まっており、夕方になっていたのだった。
言い合いの中で次第に「悟料理とか家事できんの!? ルームシェアしたって裕也君に迷惑掛けるに決まってる!」「小学生の頃から家事全般をやっていた俺には愚問です、毎日裕也先輩に手作り料理を振る舞えます」「じゃあ今作ってみなよ! 悟が料理してる姿とか想像できないわ!」「わかりました優里先輩の単純な舌が好きそうなものを作りましょう」という会話に発展し、言葉通りそのまま悟の手料理をいただきました。
はい、とても美味しくいただきました。キッチンにある調味料の種類で気付くべきでした。




