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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第八章
62/102

痛み

 喧嘩。流血沙汰。停学。退学。


 私は自分がしでかしたことでありながら、頭を抱えた。

 これじゃあ血生臭くて野蛮な圭介と同類じゃないか! 流血してんのは私だけど!


「しみるけど我慢してね」

「いててて……」


 切れた左頬を治療してくれているのは、騒ぎに気付いておまわりさんを呼ぶ振りをしてくれた、裕也君だった。

 勿論おまわりさんは来ていないし、もしバレたら私と悟も高校を聞き出されて罰則を受ける可能性がある。振りで本当に助かった。


「ごめんね裕也君、迷惑かけて」

「ううん、いいんだ。でもビックリしたよ、騒がしいと思って行ってみたら、あんなことになってたから……」

「そうそう、マジビビったぜ。女の顔殴るなんて信じらんねーよな、今度滝富に仕返しして貰え」


 それあの人達死ぬパターン。


「いいよ仕返しとか。ジュースかけ返してやったし」

「いい度胸してんなぁ、亘理って。あんなの俺だったら速攻逃げるわ」


 その方が利口なんだろうけど、他人にジュースをかけておいて謝りもしない奴等から逃げるなんて、どうしてもしたくなかった。


「悟」

「……ん」


 呼ぶと、裕也君の後ろに隠れていた悟が気まずそうに姿を現した。


「怪我なかった?」

「……ないですよ、そんなの」


 苛立っているような、悔しがっているような、泣きそうな顔をする。

 ヒビキ君も小さい頃、よくこんな顔をした。

 だから私はその頃の癖で、悟の頭を撫でる。

 ちょっとだけ、ちょっとだけ私より背が高いけど、届かない距離じゃない。


「頼りなくてごめんね。絶対謝らせてやろうって思ったのに。思ったようにはならなかった」

「……どうして」

「そりゃあんなことされて放ってはおけないでしょ」

「違います、なんで優里先輩が、そんなになってまで頑張るんですか。あれは俺の問題だし、慣れてるって言ったじゃないですか、優里先輩が怪我するようなことじゃなかったんですよ。なんであなたが……」


 言いながら拳を強く握りしめる悟を見て、他人のために怒ることができるなんて本当は優しい子なんだなあ、なんてぼんやり思う。


「ほら、私悟の彼女だし。彼女は体を張って彼氏を守らないと。恋人ってそういうもんだよ」


 そう言って私は、ジュースをかぶって濡れている悟の髪を、わしゃわしゃ撫で回した。ヒビキ君ならこれで機嫌が直るんだけど……。

 私はクマの刺繍がされたハンカチで、悟の顔を拭いてやる。


「……触らないでください、汚いですよ」

「そうだね、早く帰ってお風呂入りなよ」

「……」


 悟は私の言葉に何を思ったのか、何か遠い昔を思い出すように虚空を見詰めた後、私の手からハンカチを奪い取った。

 私のクマさんハンカチ!


「ハンカチ、洗って返します」

「え、別にいいのに」

「汚いですから」


 悟が少し元気になった横で、裕也君は携帯電話の画面を見ながら言った。


「俺の父さんが車で迎えに来てくれるみたいだから、みんな送っていくよ」


 その言葉に三上君が大袈裟に飛び跳ねる。


「よっしゃあ! 実は俺、帰りの電車代なかったんだよなぁ!」

「三上君って見た目通りバカだよね」

「うわ、ひっでぇ!」


 三上君が、悟を気遣うように場を賑やかにする。

 私も適当にそれに乗りながら、悟の手を引いた。


 その手は確かに繋がっていた。



     ※  ※  ※



 ――俺はいいですから。


 そう言った悟は、何もかも諦めたような顔をしていた。


 頬に残留する痛み。

 それは、悟の心を感じているようで、じんじんと熱かった。

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