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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第八章
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かつあげ

「面白かったねー、まさか凶器がナスだったなんて……」

「面白かった……? 優里先輩、やっぱり頭沸いてんじゃないですか……?」

「なんでよ、面白かったじゃん! しかもやっぱりって何!」


 確かに観客席は私と悟と、あの二人と、一般の人一人だけだったけど。


 面白かったのになぁ。

 ナスで人を殺すなんて発想をした犯人の精神状態とかものすごく面白いと思うんだけど……。


「さて、帰りますか」

「早っ! まだ今日始まったばっかりだよ!」


 まだデート(笑)が始まってから四時間も経っていないというのに、真っ先に帰ろうとする悟の腕を掴んで慌てて引き留める。

 それでもなお、心底面倒臭そうに目を細める悟。


「映画見に来ただけでしょう?」

「ご飯食べよ、ご飯!」

「はあ……」


 映画見ただけで帰るなんて、そんな所を見られたら裕也君に私達の関係が疑われる。今日はデートという名目でこんなところまで来たのだ、ちゃんとデートしてる所を見せないで喧嘩してるなんて勘違いをされたら、きっと裕也君は悟を心配してしまうだろう。


 この関係はあまり波を立てずに終わらせたいのだ。「別に仲は悪くないけど恋人としてはちょっとなぁ~」的な感じでやんわりとこの関係を終わらせたい。

 つまり、今は普通に仲のいい恋人を演じる必要がある。


 だから悟、足踏むのやめて。

 裕也君に見られてるよ……。



    ※  ※  ※



 私と悟は、ショッピングモールの中にあるカフェにいた。

 タピオカを奢る約束もあるし、昼ごはんもまだだし、ここで一服していくことにする。


 テーブルに向かい合って座っていた私達は、注文をした後何も話すことなくただぼんやりとしていた。

 口を開けば悪口しか返されないことはわかりきってるので……。


 悟はといえば、コップの水を見詰めたまま、無意識だろうが拗ねたような表情で頬杖を付いている。

 余程裕也君からの「デートしない?」からの私とでしたというオチが不服らしい。


 そりゃあ、脈ゼロと宣告されたようなものだし、落ち込む気持ちもわかるけど。ていうか私だって同じくらい凹んでるけど。


 この関係を作ったのは悟で、この関係を妥協したのは私だ。


 ラブレターを人質に取られていると言っても、ここ数週間見てきた悟の性格から考えて、ラブレターを言葉通りばら撒くつもりはないだろう。

 ……と思う。……そう信じる。


 だけど悟と付き合っていれば、それだけで裕也君と関われる。

 元々利用するつもりでこの関係を妥協したのだ、文句ばかり言ってはいられない。最後まで利用させてもらう。


 裕也君に好きな人がいるとわかっている今、私がするべきこと。

 それは、悟と別れた後も裕也君と『友達同士』でいるために、悟とも仲良く……まあまあ無難な関係を築きつつ、この恋人生活を終わらせること。


 不思議と悟とは恋人同士の設定でなくても上手くやっていける気がする。

 この生活が始まった時は地獄だと思っていたけど、名取悟という人物が、想像していたより悪人ではなかったのだ。キスは一生許さないけど。


「難しい顔してどうしたんですか、優里先輩。あ、俺のココナッツミルクはあげませんよ」


 そう言って店員さんが持ってきてくれたタピオカココナッツミルク味のカップを、大事そうに手に包んで自分の方へ引き寄せる悟。


「そんな守らなくても取らないから」


 ――守らなくても、もう取ろうとなんかしないよ。


 裕也君には好きな人がいる。私はそのことを知っている。

 嘘ではないと知った時点で、私の恋はきっと、終わった。


 裕也君を見ていると救われる。裕也君に触れたいと思う。裕也君に見て欲しいと思う。

 ただそれだけでいい、それだけ思っていれば、幸せなのだ。

 恋をしている時が一番幸せなら、私は一生恋をしよう。


「……」

「……ちょっとなら飲んでもいいですよ」


 暗い顔でもしていたのだろうか、悟がタピオカココナッツミルク味を私の方に押してきた。

 珍しいこともあるもんだ。


「いいよ、悟飲みたかったんでしょ」

「優里先輩が飲みたそうに見詰めてくるので……」

「私飲みたそうにしてた!?」


 こうしていると、悟と一緒にいるのも悪くないと思える。

 最初は裕也君を取られまいと躍起になって、意地になって、最低な奴だって決めつけていたけど。

 普通の高校一年生で、私と同じく、恋をしているだけの少年。

 私と同じく、叶わない恋をしている――


「ごちそうさまでした、俺金欠なので全額奢ってくださいね」

「ええ!? タピオカは奢るって言ったけど、自分で食べた分は自分でしょうが!」


 悟はタピオカ以外にランチまで頼んでいる。

 私も同じ物を食べていたが、まさかランチまで奢るなんて考えもしていない。ここで負けて堪るか!


 私が悟に説教をしてやろうと口を開こうとした時。


「……」


 ――チャリン。


 テーブルにそっとお金を置いて去っていくのは、帽子を被って厚いコートを着た見知らぬ男性。


「……」

「……」

「……今の誰?」

「……俺の父さんです……」

「お父さん!?」


 悟も知らなかったらしく身を縮めて気まずそうに目を逸らしている。


 息子のデートが心配で着いてきたのだろうか。親バカ……?

 悟のお父さん、初めて見る。コートに帽子で人相は全く分からなかったけど。


「ちょっと電話してきます」

「う、うん」


 悟はそう言って席を立ち、店の外へ出て行った。

 そして残された私は、悟が携帯電話を取り出した鞄から、見覚えのある封筒がはみ出ていることに気が付く。


 まさか、あれは……いや、持ち歩いてるなんてそんなバカな……。


 と思いながらも、私はこっそり悟の鞄を引き寄せて、不審な動きにならない程度にその封筒を確認した。

 そして、やはりそれは私の探し求めていたもの。


 ――裕也君へのラブレター!


「……」


 一瞬「いよっしゃあ!」なんて舞い上がったが、よくよく考えて、頭が冷える。


 あの時と今とでは、状況は変わってしまった。

 今の私には必要のないものだ。

 今更取り戻したってどうすればいいのかわからない。

 結局渡すことなく捨ててしまう気がする。

 捨ててしまった方がいい? なかったことにしようか、だってこれはもう必要のない……。でも、でも。


 言い訳じみたことを考えながら、私はラブレターを――そっと、悟の鞄に戻した。


「お待たせしました」


 戻って来た悟に、私は何事もなかったように顔を上げた。


「お父さん、なんだって?」

「金は置いて帰れって言っておきました」

「かつあげ!?」


 自分の父に対してそれはどうなの……。


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