やめて都子先輩
「この間はごめんなさいね、見苦しい所を見せてしまって……」
「い、いえ、私何もミテマセン……」
怖いです。
「和樹のこととなると、どうやら我を失ってしまうみたいなの。衝動的に動いてしまうのよね」
冷静に自分を分析している所が怖いです。
私は今、ショッピングモールにあるカフェで都子先輩にケーキを奢って貰っていた。
目の前のテーブルに置かれたショートケーキのイチゴが、「そんな浮かない顔するなよ」と言うようにナパージュを輝かせている。美味しそう。
今日は金曜日。時刻はお夕飯時。
私は学校が終わってから、お母さんと一緒に駅前のショッピングモールへ買い物に来ていた。
そして偶然にも、同じショッピングモール内で買い物をしていた都子先輩と和樹部長に出会ったのだ。
そして都子先輩は、この前のことを謝りたいと言って、私にケーキを奢ってくれている。
この前のことってなんですか? 私何も見ていませんよ?
剣道場であったことなんて覚えていませんよ!
都子先輩の恐ろしい一面を知ってしまい、こうして二人きりで話すのは少し緊張する。
「二か月前にもこういうことがあったみたいで……私は覚えていないのだけれど、みんなに迷惑を掛けてしまって、本当に申し訳ないことをしたと思っているわ」
二重人格ってやつですか? ブラコンってやつですか?
「ま、まあ、大切な家族のことですもんね、我を失っちゃうのも仕方ないと思いますよ」
「そうね……和樹は私のたった一人の家族なの……少し過保護になるのは、許してくれると嬉しいわ」
たった一人の家族?
……両親は、亡くなっているのだろうか。
「あらごめんなさい。両親は健在よ。でも私の両親は仕事ばかりで子供に無関心でね、私達は小さい頃から両親に可愛がってもらったことがないの」
都子先輩と和樹先輩の家庭。
ふと悟の家庭のことを思い出す。父子家庭で中学の頃は家庭環境で随分悩んでいたのだと聞いた。
両親が子供に無関心というのは、当人達からしたら堪ったものではないだろう。寂しい想いも、きっと沢山。
「でも私には和樹がいたし、和樹には私がいた。だから寂しくはなかったの。今だってそうよ、和樹さえいれば私は何もいらないし何も望まない和樹が私の隣にいてさえくれれば私はそれだけで生きている意味を――」
「わかりました、わかりましたからその目やめて下さい」
「ごめんなさい、私の話はいいわね。優里ちゃんの方こそ何か悩みがあるように見えるのだけれど。休日で何かあったの?」
「な、なにもないです!」
「一人で抱え込んでも、悪い方へしか考えられなくなるわよ」
「そんな深刻な悩みとかではないんです、ただ少し気になることがあって……」
「気になること? 何かしら」
裕也君の好きな人。都子先輩だったら、もしかしたらわかるかもしれない。
あまり気にしている風を出しても不自然だし、ちょっと気になるけど別に知らなくても大して問題はないという体を装って、私は都子先輩に聞いてみることにした。
「裕也君に好きな人がいるって噂があるじゃないですか。裕也君みたいにモテる人が片思いなんてあるのかなぁって思って」
「叶君だって人だもの、片思いも失恋もあるわよ」
「都子先輩は知ってますか? 裕也君の好きな人」
「叶君と仲のいい女の子は沢山いるし、特定は難しいわね……強いて言うのなら、最近名取君と付き合い始めた優里ちゃんが、一番叶君と仲良くしているように見えるわよ?」
私は裕也君にとって、ただの『かわいい後輩の彼女』なので……。
「叶君、顔には出さないからわかりにくい所があるし……名取君なら知っているんじゃないかしら。一番叶君を傍で見て来たのは、あの子だし」
彼なら教えてくれませんでした。
どうやら都子先輩も知らないみたいだし、もうこれ誰も知らないパターンだ。探ったってわからない。
私はショートケーキのイチゴをフォークで突き刺して、甘いクリームと一緒に口に運んだ。
あー、甘いなー。
「そうだ、いいことを思いついたわ」
なんて私がケーキの美味しさに頬を綻ばせていると、都子先輩が何を勘違いしたのか、とんでもないことを言い出した。
「優里ちゃん、名取君とデートしましょう」




