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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第七章
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迷宮入り

「悟、昨日はごめんね」

「……何がですか」

「悟だって大変なのに、責めるようなこと言っちゃって悪かったなって」

「なんであなたが謝るんですか」

「好きな人を取られたくないって気持ち、私にもわかるから」

「……」

「どんなことをしてでも取られたくなかったんだよね。私だって悟の立場だったらそうしてたかもしれないし」


 まあキスは余計だったけど。


 誰だって好きな人が自分以外の誰かと一緒になるなんて嫌に決まってる。

 その想いを責めたところで見当違いもいいところだ。


「だからごめんね。悟は何も悪くないよ」

「……俺、優里先輩のそういう所嫌いです」


 前にも、悟からそんなことを言われた気がする。

 あれは確か、決闘で私が圭介を庇ったことに対して言われたことだ。

 そういう所が気に入らない、と。


「優里先輩は間違ったことなんて言っていないでしょう。そうやって、間違ってもいないのに自分を悪者にして謝罪をするのは、俺が落ち込んでるから励ましたかっただけでしょう? どうやったらそうやって純粋に他人を想えるんですか? 自分が正しいって意地にはならないんですか?」

「ま、待って待って、なんか勘違いしてない? この件については完全に私が悪かったよ。ちゃんと考えて、私が悪かったなって思ったの。別に悟が落ち込んでて可哀想だなとか、仕方ないし謝ってやるかとかそんなことは考えてないから! 本気で私が悪かったと思って……」

「だから、そういう所が嫌いなんです」


 悟の言おうとしていることは、正直わからない。

 謝っているのに嫌いとはどういうことだろう、謝らずに「私悪くないし謝らないから!」とでも言えばよかったのだろうか。


 私がなんで嫌いだと言われているのか本気で悩んでいると、悟は私の横で大きな溜め息を吐いた。


「他人のために自分が大切にしている物を簡単に捨てるところが、嫌いだって言ってるんです」


 自分がそんな人間だとは思わないが、悟の言葉を信じるなら、私は自己犠牲精神の塊ってことになるんですけど……。


「あなた、自分の優先順位が最下位なんじゃないですか?」


 なんだか異常者扱いをされているようで癪に障る。


「もしそうなら、悟の為にとっとと裕也君のこと諦めてるんじゃない?」

「まだ俺の方が優先順位低いってだけでしょう。もしライバルが俺じゃなくて、あなたの親友だったらどうですか?」

「え」


 朋子だったら?


「親友の為に身を引くんじゃないですか?」

「……その時になってみないとわかんないし」

「どうでしょうね、優里先輩だったら絶対身を引くと思います」

「あのさ、悟は何が言いたいの?」

「別にそれが悪いって言いたいわけじゃないんです。ただ俺が嫌いなだけです」


 なんじゃそりゃ。理不尽な理由で説教を食らった気分なんですけど……。


「……で、どうなの?」

「何がです?」

「許してくれるの? 昨日のこと。すごい怒ってたじゃん」

「図星だっただけです。自分が告白する勇気もないくせに、勇気を振り絞って告白しようとしていた優里先輩の邪魔をしました」

「お、おう」


 やけに素直じゃないか。私の言いたかったことは全部理解してくれたらしい。


「でも……俺も悪かったですけど、やっぱり優里先輩も悪いです」

「はあ?」


 いや、昨日言い過ぎたのは私が悪いけど、私の邪魔をしてファーストキスを奪った罪は消えないよ?


「もう昨日のことはいいです、特別に許してあげます」


 許して貰えたのに素直に嬉しいと感じないんですが……。

 だがこれでいつも通りに戻ってくれるだろう。

 ああよかった、裕也君にも余計な心配掛けられないもんね、裕也君だって大変なんだから。


 ……そういえば。


「さっき麗華様がすごい迫力で裕也君に迫ってたんだけど、なんだったんだろう?」


 悟が来るちょっと前だったのだ、少し前から盗み聞きしていたのなら、その場面も見ていると思うが。

 予想通り、悟は「ああ、あれか」と納得したように呟いた。どうやら麗華様が現れた頃には既に盗み聞きをしていたらしい。盗み聞きとか、なんて趣味の悪い……。


 と私が自分を棚に上げて悟を軽蔑していると、予想外のことを教えられた。


「煽ったらああなりました」

「……は? なんだったって?」


 思わず聞き返してしまう。は? なに? 煽ったって言った?


「一回振られただけでそんなに落ち込むなんて、自信過剰の人は大変ですねー、とか」

「えっ」

「自分と裕也先輩が釣り合ってるとかいう周囲の評価を鵜呑みにしちゃったんですね、恥ずかしいですねぇ、とか」

「お前何してんの!?」


 え、わざわざ三年生の教室に行って? 煽るためだけに?


「気持ち悪いぐらい元気がなくてあまりに面白かったので、今までの腹いせに」

「性格悪っ!」

「はっ、何を今更」


 確かに悟の性格が悪いなんてこと今更すぎる。

 こいつは他人の苦しむ姿が大好きなのだ、麗華様を虐める姿も容易に想像できる。


 だが。


「完全に逆効果だよ! 麗華様、元気取り戻して『諦めない発言』してたじゃん!」

「ああ、それは誤算でした。でも問題ないでしょう」

「……」


 裕也君には好きな人がいるから、と言いたいのだろうか。


「悟、あのさ」

「なんですか?」

「私、裕也君の好きな人、わかっちゃった……」


 私が落ち込んだようにそう言うと、悟は一瞬驚いたような顔を見せたが、すぐにじと目で私を見てきた。

 なんだその目は、何が言いたい!


「はあ……まあどうせ優里先輩の推理力なんてたかが知れてますけど」


 言ったな!? この答えには自信あるよ!?


「裕也君の言葉から推測すると、裕也君の好きな人は同じ中学出身で今もこの高校に通っている女の子……つまり! 都子先輩だよ!」

「はい、すごいすごい」

「馬鹿にしてる!? 本当に絶対都子先輩だよ! しかも両想い……!」

「都子先輩と裕也先輩はいとこ同士ですよ? そんなのあるわけないじゃないですか」

「二人とも『自分の恋は難しい』って言って遠い目をしてたんだよ! きっといとこ同士だから、お互い想いは同じでも伝え合うことができなくて――」

「漫画の読み過ぎじゃないですか? 聞いててアホらしいです」


 くっそう、認めたくないからって私をアホ扱いして……!


「だったら聞くけど、悟は裕也君が好きな人は誰だと思うわけ!? 中学一緒だったんだし、三年も一緒にいたんだから、有力候補の一人や二人――」

「知ってますよ」

「……え?」


 今、なんて……?


 私があまりの衝撃に何も言えずにいると、昼休み終了五分前のチャイムが校舎中に響いた。

 教室に戻らなければとぼんやり考える中、爆弾発言をした本人は、私を置いてさっさと教室に戻ろうと校舎の扉に手を掛けていた。


 待て待て待てぃ!


「ちょ、え、ま……は?」

「なんですかちゃんと人語を喋って下さい。俺、猿の言葉を理解できるほどハイスペックじゃないんですけど」

「す、好きな人……し、知ってるって、言った?」

「言いましたよ」

「……誰?」


 私が聞くと、悟は注意しなければ気付かない程小さく目を逸らす。

 そしてすぐに真っ直ぐ私を見詰め、口を開いた。


「あなたが想像もしないような人です」


 そう言って悟は校舎に戻って行った。

 想像もしない、ということは、私が辿り着いた「都子先輩」という可能性は皆無というわけで。

 私は女の子だろうと思っていたし、つまりはそれの逆で……。


「……お、男……?」


 聞きたいが、聞けない。私にそんな勇気、あるはずない! 怖い!

 好きな人の正体が分かったと思ったのに、まさかのまさか。

 これは迷宮入りの予感……。


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