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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第七章
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嵐が去って

「麗華様、激しい人だね……」

「うっ、そうだね……」

「……裕也君の前では、結構女の子っぽい人だと思ってたんだけど」

「ははは、昔から結構口の悪い人だったから。都子先輩からもよく注意されてたし、機嫌悪い時とかは俺の前でもあんな感じだったよ……」


 剣道場で見た麗華様は、裕也君に可愛く見て貰おうとキャピキャピしていたイメージだった。

 だが裕也君の前だろうと誰の前だろうと、自分の思っていることははっきりと口にする。

 嫌われようが、それが本当の自分なのだと、自信を持っているかのように。


「でも『麗華先輩』って呼べって、どういう意味だっだんだろ」


 裕也君は首を傾げて、麗華様の言動に疑問を示す。


「都子先輩のことは名前呼びなのに、自分だけ名字呼びだったから、拗ねてたんじゃないかな」

「……みんなそんな風に思ってるの?」


 まあ呼び方は確かに気になるところではある。名字呼びよりも名前呼びの方が親しみがあるし。


「……亘理さんも、そういう風に思うことってある?」

「え?」

「名字呼びが嫌だったら言ってね、俺直すから」


 いや、別に麗華様は名字呼びが不快だったというわけではなく、ただお互いの距離を縮めようと、あんなことを言ったんだと思うけど……。


 あれ、裕也君気付いてない? 悟の大好きアピールにも気付いていないくらいだし、裕也君って人の好意に相当鈍感なのだろうか。

 麗華様のように口ではっきり好きだと言わないと、本当に気付かないのかもしれない。


 ――気付いてくれるのを待っていたって、駄目なんでしょうね。


 悟の言葉を思い出した。悟は今まで、何度も裕也君に気付いて貰おうとしたのだろう。

 普通友人の家にしょっちゅうお泊りなんて行かないし、男が男の腕に抱き付くなんてこと、おふざけ以外ではあり得ないし。

 だが裕也君が鈍感だということは、長年付き合いのある悟は知っていたはずだ。はっきりと好きだと口にしてこなかったのは、やはり気持ちがバレて距離を置かれることを恐れてか……。


 私の告白を邪魔した時も、顔には出さなかったが相当追い詰められていたのだろう。

 悟は焦ると顔には出ないが、行動に出てしまう子だ。あの時のキスだって、悟も嫌だったに違いないのに。

 誰だって、キスは好きな人としたいものだろう。私だけ被害者だなんて思っていたけど、悟だって十分……。


「そうだ、私悟のクラスに行く途中だったんだ」


 昨日のことを謝らなければいけない。

 まだ昼休みは時間がある、悟の好きなココアでも買って行って、昨日のことを許して貰おう。


「亘理さん、悟とはもう仲直りしたの?」

「いや、これから謝りに行こうかと思ってて……」

「え、喧嘩って亘理さんが原因だったの? てっきり悟の奴が何かしたのかと思ってた」


 悟、裕也君からあまり信頼されていないようなんですがどういうことですかね……。

 いつの日か、自分は裕也先輩に信頼されてるとかドヤ顔で言ってませんでしたっけ? 私の記憶違いかな?


 だが今回のことについては私が悪いと思うので、悟に変な疑惑が掛かる前に訂正しておこう。


「いや、私がちょっと言いすぎちゃって。悟の奴、今朝もずっと怒ってたんでしょ?」


 今朝の悟は当然のごとく、私を待つことなく裕也君と二人でさっさと登校したようだが、久々の裕也君と二人きりの登校時間だったというのに、悟は裕也君とろくに会話もしなかったらしい。

 私のせいで裕也君にも気まずい思いをさせてしまった、申し訳ない。


 ごめんねと私が謝ると、裕也君は手と首を振って全力で否定してきた。


「いや、亘理さんが謝ることじゃないから! 悟って時々あんな感じになるし」

「え、そうなの?」

「今朝のは怒ってるって言うより、元気がない時の悟だったよ。怒ってる時は俺が迎えに行く前にさっさと一人で行っちゃうから」


 裕也君の中で悟の行動がパターン化されてる。

 裕也君の話だと、怒っている時は裕也君さえ置いて一人で登校、裕也君と一緒には行くが会話が全くない状態は、落ち込んでいる時の悟の反応。ということらしい。


 怒っていないらしいということを聞いて、心底安心する。

 あれを怒らせたら骨の一本や二本軽く折られてしまう気がするし……。


「でも、謝るなら早目の方がいいよね。私行ってくるよ」


 そう言って私は裕也君に手を振って、悟の教室に向かおうとベンチから立ち上がる。

 その時。


「――土下座の準備ができたようですね、優里先輩」

「ひっ……」


 ニコニコ笑顔の悟が、校舎に繋がる扉から現れた。

 悟の笑顔に条件反射で防御姿勢を取ってしまうあたり、私が普段どれだけ過度なスキンシップを受けているかが窺えると思う。

 裕也君見て、あの笑顔は悪魔だよ、騙されちゃダメだよ?


「さ、悟、いつからそこに……?」

「さっきです。偶然ベンチに座る二人を見掛けたので」


 絶対嘘だ、位置的に偶然ベンチに座っている人間が見えるなんてありえない。立っていたならまだしも。


「裕也先輩、悪いですけど優里先輩をちょっと借りますね」


 狩りますねに聞こえるからやめて、助けて。


「ああいや、俺はもう教室に戻るから、二人でゆっくりしてって」


 そう言ってベンチから立ち上がり、今まで自分が座っていた所に悟を誘導する裕也君。

 いやいや待って裕也君、こんな人気のない所でその凶器を私の横に誘導しないで、私殺される! 目の前の桜の木の下に埋められる!


 なんて私が青ざめている様子に気付くことなく、裕也君は「穏便にね」と言って校舎内に入って行ってしまった。

 裕也君的には、これから悟に用があった私に気を遣ってくれたのかもしれない。

 けど、私としては周りに人がいる教室内で謝りたかったの。逆上した悟が私を殴ってこないとも限らないから! 目撃者は多い方がいいでしょ!?


「優里先輩、あの」

「すみませんでした!」

「土下座は冗談ですからマジでしなくていいです引きます」


 なんだ冗談か、片膝地面に付けちゃったよ。


「……」

「……」


 私が悟の隣に座り直しても、悟は口を開かなかった。さっきまで普通に喋っていたから少し安堵していたが、やはり怒っているのだろうか。


 私は悟の言葉を待つことなく、自分の方から口を開いた。


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