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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第七章
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逃げたい

 雨野宮高校の校舎裏。校舎を囲むように植えられた木々と校舎の間には、木製のベンチも設置されており、ちょっとした休憩スペースとして使われている。

 昼休みになるとここでお弁当を食べる生徒達もおり、そしてある時は告白スペースとしても使われていた。

 ここにある桜の木の下で恋が成就するとその恋は長続きするという、どこにでもありそうな噂がここにもあるのだ。私は信じてないけど。恋が長続きするかどうかなんて本人達の問題ですし。


 私は校舎裏を覗き込める一階の廊下にしゃがみ込み、隠れるようにして「その様子」を窓ガラス越しに聞いていた。

 顔なんて出したら確実にバレてしまう。このまま移動しても音でバレてしまいそうなほど、至近距離だった。


 告白スポットとして有名な校舎裏では、今まさに告白が成されそうになっていた。

 しかも告白されそうになっているのは、我らが裕也君。物理室や地学室など、授業以外ではまず人が立ち寄らない教室のある廊下なので、昼休みである今、人通りは皆無。


「叶先輩、手紙読んでくれたんですね」

「……うん」


 どうする、どうする私。

 逃げたい、どう考えてもこれは修羅場。

 聞いているだけでも、裕也君を呼び出したのは一年生の女の子で、しかも友達二人に付き添って貰っているのが分かる。


 告白なら一人でやれや!

 ……と心の中で叫びながらも、私はどうしてこんなことになってしまったのか、頭を抱えた。

 今すぐ逃げたい。



     ※  ※  ※



 今朝。ホームルーム前の教室はいつものように騒々しかった。


「優里ちゃん、名取君と喧嘩したって聞いたけど、別れそう?」


 ズバズバ来るな、朋子……。

 普通彼氏と喧嘩した友達に「別れそう?」なんてこと聞く? 聞かないよね?


 昨日あれから悟は一人で帰ってしまい、私と悟のギスギスした別れに周囲も気を遣って静まり返った。

 そして裕也君と二人きりで帰るチャンスが訪れたというのに、私は悟の態度にイライラしてそれどころではなく、私も裕也君に一言断って一人で帰ってしまった。


 だが家に帰って冷静に考えると、私も少し言いすぎたように思う。

 私と悟の恋愛のハードルは、同性である時点で悟の方が遥かに高いだろう。

 裕也君に告白をするつもりがないというのは、長年悩み抜いた末に出した、苦渋の決断だったかもしれないのに。


「……喧嘩っていうか、私が怒らせるようなこと言っちゃったの。次会ったら謝るよ」

「怒らせるようなことを言ったのだって、何か理由があるんでしょ? それはいいの?」

「うん、いいの。悟の気持ちを考えられなかった私が悪いから」


 昨日は頭に血が上ってあんなことを言ってしまったが、放課後にちゃんと謝ろう。

 悟が裕也君に告白しないということは、悟に裕也君を完全に取られてしまう心配はないということだ。

 何の心配もなく、私は一か月間この恋人生活を乗り切ればいい。


 でも、その後は?


 私が裕也君に告白したら、この関係は終わってしまう。

 三人で登下校をすることもなくなるだろうし、私が放課後に剣道場に行くことだってなくなるだろう。

 昨日は大口を叩いて「裕也君に告白する」なんて言ったが、好きな人がいる以上、裕也君が私の告白を受けてくれるとは思えない。

 悟だってそれはわかっているだろう。

 裕也君が好きな人に告白をしない限り、裕也君はずっと悟が望む裕也君のままだ。


 裕也君に好きな人がいると判明したあの瞬間から、私を恋人として繋ぎ止めておく意味はなくなっただろうに。

 私を野放しにしたら不都合なことでもあるのだろうか。まあ告白するとか言っちゃったし、万が一のことを考えているのかもしれない。

 だが悲しいことに、そんな万が一ないだろう。麗華様が振られたのに、私が振られないはずがない!


「優里ちゃんの彼氏になる人って、結構幸せだと思うよ」

「え、なんで?」

「優里ちゃんって相手のこと尊重できる子だから」

「いやいやそんな女子力高いだなんて照れるからやめて……」


 そんなこと言ってないよ、と変わらぬトーンで返されて少ししょんぼりする。ボケたのにぃ……。


「でもね優里ちゃん、私優里ちゃんのそういう所、少し心配」

「心配?」

「うん。相手のことを尊重しすぎて、優里ちゃん自身がボロボロになっちゃうんじゃないかって」

「それは言いすぎだと思うけど……まあ、私って好きな人には尽くすタイプだからね!」


 私の元気な応えに朋子は「うーん、イマイチ伝わんないなぁ」なんて納得のいかない顔をした。

 朋子が何を言いたいのかさっぱりわからん、私が脳内偏差値低いのは関係ないと思うけど……。


「ま、いいや。どうせ伝わんないし」

「え、あ、うん……」


 親友に会話を諦められた。


「それにしても恋の悩みっていう奴は大変だねぇ。まあ恋の悩みなんて、恋してる人の特権だけど」

「……うーん、まあ恋の悩みっちゃあ恋の悩みだけど……」


 悟と私ではなく、悟と私と裕也君の悩みなんだよね。裕也君が一切把握していないけど。


「私も恋したいなー」


 女子高生のようなことを呟く朋子を見て、中学時代の自分もそんな風に恋に憧れていた時期があったなぁと、昔を懐かしむ。

 一年前に裕也君に恋をして、恋に恋して毎日が楽しかった。

 けれど実際土俵に立った先に待ち受けていたのは、「好きな人の好きな人」という、姿形も見えない、どうしようもない存在。


 こんなの告白する気も右肩下がりになっちゃうよ。裕也君のことは本気で大好きだけど、振られると分かっている告白に踏み切る勇気なんて、どこから湧き上がらせればいいものか。


 ――私の告白を邪魔しておいて、自分は裕也君に告白する勇気はないわけだ?

 ――一ヶ月経ったら、私また裕也君に告白するから。


「……」


 昨日の自分の言葉を思い出し、わずかに罪悪感を感じる。

 言いすぎちゃったなぁ、いつものように殴られなかったってことは、相当落ち込んでるよ悟……。


 謝るなら早目にした方がいいよね、昼休みにでも悟のクラスに突撃するかぁ。


 ――そして、冒頭に戻る。

 逃げたい。

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