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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第六章
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ファーストキス

「ファーストキスって、そんなに大切なもんですか?」


 学校生活の締めである部活が終わり、裕也君の着替えを待っている間、悟がおもむろに私に聞いてきた。どうしたんだ突然。


 聞くと、裕也君の家で少女漫画を読んできたらしく(裕也君の好みを探ろうとした結果だと思われる)、そこでファーストキスについて触れていたらしい。


「大切なもんです」


 私は答える。当然です。


「……悪いことしましたね、すみません」


 あの時のことを言っているのだろう。

 あの時私は散々ファーストキスだったんだよと喚いていたと思うのだが、あの時の悟はキスぐらい大したことではないと思っていたらしい。

 なんと腹立たしいことか……。


「もういいよ、思い出したくもないし……悟もファーストキスだったならおあいこかなって……」

「俺は別にファーストキスではなかったですが」


 ちくしょう!


「慰めになるかはわかりませんが、裕也先輩とのキスだったと思えばいいじゃないですか」

「そこまで都合のいい妄想できない!」


 本当になんの慰めにもならないどころか、さらに虚しくなるような提案をされた。


「俺は裕也先輩とキスしたことありますから、少なくとも間接キスですよ」

「なんで!? なにしてんの!?」

「寝ている裕也先輩に何をしようが俺の勝手でしょう」


 あ、ああ、びっくりした、寝ている間ね、寝ている間……寝ている間でもダメなものはダメだわ!

 こいつ本人にばれなきゃ何をしてもいいと思ってる。


「あのね悟、そんな自分勝手な行動続けてたら、いつか絶対苦労――」

「寝ている裕也先輩にキスしたって、虚しいだけでしたけどね」

「……」


 呟いた悟の顔は、見たこともないくらい寂しそうな表情だった。

 思わずいつもの調子で返そうとしたけど、悟があまりにも寂しそうな顔をするものだから、出掛かった言葉をぐっと飲み込む。


 性別とか関係なく、三年間も仲のいい先輩に片想いを続けている悟の気持ちは、私には到底わからない。

 この気持ちに気付いて欲しいと思っている反面、抑えきれない不安が、バレないようにバレないようにと心の蓋を閉め続けてきたのだろう。


 誰だって、好きな人に想いを伝えるのは怖い。

 好きな人に好きと伝える――その問題に真っ正面から向き合って初めて、人は心を天秤に掛ける。

 今までの関係を壊してまで伝えるべきことなのか。もし否定されたら。否定されるくらいなら、今まで通りの関係を貫いた方が楽なのではないか。一番の幸せなのではないか。安易に告白する道を選んで、自分でその幸せを握り潰してしまうのだけは嫌。


 自分が傷付かない道。人は無意識のうちにその道を探し、そして無意識のうちに選んでしまう。ぬるま湯に浸かった優しい世界を。


 裕也君は悟のことをどう思っているのだろう。少なくとも恋愛対象としては見ていないと思うけれど、悟が私と付き合い出した時は、悟に大切な人ができて嬉しいのだと話してくれた。

 可愛い後輩。大切な友人。友情が恋に繋がることも無きにあらず、同性だからと油断していてはいけないのではないだろうか。

 でも悟の言う「好き」は、本当に恋愛対象に感じる「好き」なのかどうか怪しい。裕也君ぐらいしか親しい人がいないから、勘違いしてるだけなんじゃ……?


「……悟、恋愛と友愛の違いってなんだと思う?」

「なんです急に。恋バナなら他所でやって下さい」

「違くて。悟が裕也君に対して思ってる『好き』って、恋愛じゃなくて友愛なんじゃないのって思って」

「優里先輩は友人と会うごとにドキドキしてるんですか?」

「いや、してないけど」

「俺は裕也先輩に手を触れられるとドキドキしますし、胸が苦しくなります。それって友愛ではあり得ないことですよね。友人と会うごとにドキドキしてたら堪らないでしょうし」

「うーん……」


 同性でも憧れの人が近くにいたら、ドキドキするものだと思うんだけど……私だけかな?


 いずれにしても、悟が裕也君のことを恋愛対象として好きなのかどうか怪しい……。

 そんな私の疑念が伝わったのか、悟は酷く疲れたように溜め息を吐いて話し出した。


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