気付かれない恋
大和撫子のような都子先輩も、恋に悩んでいたりする。
誰からも好かれるような裕也君だって、悩むこともあるだろう。なぜそんな簡単なことに気付かなかったのか。
裕也君が好きな人に告白できない理由――そんなもの、私が裕也君に告白できずにいた理由と一緒かもしれないではないか。
断られたら。否定されたら。友達に戻れなかったら。ただのクラスメイトとしても話せなくなってしまったら。
――裕也君だって、怖いのだ。
次誰かに告白されたら、すぐに断らないでちゃんと考えてみる――あの言葉は、裕也君なりに自分の恋を諦めようとした結果なのではないだろうか。
だけど、どうしてもその人が忘れられなかった。「もう諦める」と言葉に出したからと言って、本当に行動に移せるかといったら、否だ。裕也君だって自分の恋で迷ってる。
「優里先輩、何かありましたか? 今日の優里先輩いつにも増しておかしいですよ」
「い、いや別に……」
転んだ振りをして裕也君の胸元に飛び込み幸せを満喫してきた悟が、その光景に何の反応も示さない私を気にかけてくる。
裕也君に抱き付く悟を見た瞬間、私は今朝見た夢を思い出してしまい、悟から目を逸らしてはどもりまくった。
裕也君と悟が、愛してると囁き合い、き……キスをしていたシーンを思い出してしまう。
「なんですか真っ赤になって、熱でもあるんですか? 夜中に腹出して寝てるからですよ」
「は、腹とか出してないし……」
裕也君の様子を見る限り、裕也君の言う「好きな人」が悟だという線は低いはずなのに、どうしてあんな夢を見てしまったのか。
悟に裕也君を取られてしまうのではと、少なからず心の中で思っているからなんだろうか……。
他の誰に裕也君を取られようと、こいつにだけは取られたくない……!
いつも通りの帰り道を三人で歩いていると、またまたいつも通り、裕也君と別れる十字路に辿り着いてしまった。
一日中裕也君を監視していた身としては、裕也君と直接顔を合わせ辛いというのもあって、言葉少なになってしまった。折角裕也君と一緒に帰っているのに勿体ない……。
「亘理さん、また明日」
「それじゃあ優里先輩、さよなら」
「ああ、うん」
悟も裕也君に続いて十字路を曲がり、裕也君の隣に着いた。
今までなら買い物ついでとか言って私を家の前まで送ってくれたのに、今日はどうしたのだろう。
まあ悟だって、毎日電車に乗る私を家まで送るのはしんどいだろう。
悟を裕也君と二人きりにさせるのは解せないが、ここで私が駄々を捏ねた所で裕也君からの印象が悪くなってしまうだけな気がする。
私は麗華様と違って、我儘を言っても可愛くないので……。
今日は送ってくれないのかと顔に出ていたらしい私に、悟がてってと走り寄って来て耳打ちする。
そしてその言葉に固まる私。
「今日は俺、裕也先輩の家にお泊まりなので」
「……は?」
こいつ今なんて言った!?
「な、何言ってんの、お泊まりなんてダメに決まってるでしょ!」
私は悟の手を引き裕也君から遠ざけてから、小声で怒鳴る。
これを許していいと言う人間が存在するだろうか?
「優里先輩には関係ありません」
「私も泊まる!」
「何言ってるんですか優里先輩、女が男の家に泊まるなんて不純ですよ」
「あんたが泊まることの方が不純だよ!」
私はケロッとしたままの悟を放っておいて、裕也君に詰め寄った。裕也君が少し驚いて後退る。
「裕也君、悟はよくお泊まりするの?」
「う、うん、よく泊まるよ? 悟のお父さんが仕事で帰ってこない日とか、暇だからって……」
そう言えば悟をサプライズ誕生日会に連れて行く途中、お父さんが唯一の家族とか言ってたし、父子家庭なのかな。確かに一人じゃ寂しいだろうし……でもよりにもよって何で裕也君の家に! もういっそ私の家においでよ! 床で寝させてあげるからぁ!
「じゃ、優里先輩、おやすみなさーい」
「え、ちょ」
「おやすみ亘理さん。また明日」
「え」
裕也君待って! そいつを泊めるなんて危険だよ! 色んな意味で!
「……」
勝ち誇ったような悟の笑顔を最後に、二人の姿が見えなくなってしまった。
私は呆然とその場に立ち尽くしたまま、完全に敗北者の気分を味わうこととなる。
その日また、二人の夢を見た。
……口には出せない夢だった。
※ ※ ※
翌日。目覚めは今世紀最悪といっても過言ではない。積極的すぎる悟の行動には振り回されっ放しだ。このままでは本当に、裕也君が悟の毒牙に……。
悟は裕也君に好きな人がいようが、どんな障害があろうが、振り向かせようと全力で行動する気がするのだ。
ま、正夢にだけはならないで、お願いします神様プリン一ヶ月我慢するから……!
「優里先輩、その顔どうしたんですか、また進化したゾンビみたいになってますよ。あ、ひょっとして目指してるんですか? すみません変な気を遣ってしまって。優里先輩がゾンビの道を行くと言うのなら、俺は止めません。優里先輩の誕生日にはセンスのいい棺桶をプレゼントしてあげます、感謝して下さいね」
朝から口が回る奴だなこいつ……。
私がじと目で悟を見やると、間にいた裕也君が「今日も二人はラブラブだね」と言って微笑んだ。
ちっがーう! 裕也君、これがラブラブなら戦争もラブラブだよ!
「ちょ、ちょっとごめんね裕也君、そこで待ってて」
私は悟の毒舌を完全スルーして、一晩中気になっていたことを単刀直入に聞くことにした。
裕也君には絶対に聞こえないように、わざわざ悟の手を引っ張って裕也君から遠ざかりつつ。
「……悟、昨日裕也君に変なことしなかったでしょうね?」
「してませんよ。というか、しても裕也先輩全然気付きませんし」
「何した!?」
その言い方だと、何かしたこと確定じゃねえか!
「まずは一緒にお風呂に入ってですね――」
「説明しなくていい!」
既にアウト。
「後ろから」
「だから説明はいいから!」
「なんですか顔真っ赤になって、何想像してるんですかこの変態が」
汚い心を読まれたことに更に顔を真っ赤にさせる私。川があったら飛び込んでた。
だがそんな私をからかうことはなく、悟は首を傾げる裕也君を見詰め、私だけに聞こえるように呟いた。
「気付いてくれるのを待っていたって、駄目なんでしょうね」
その横顔は、とても遠くを見ているようだった。




