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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第六章
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都子先輩の恋

 一日中裕也君を監視してみて、思ったことがある。


 ――裕也君、友達多っ!


 廊下を歩けば男女問わず話し掛けられ、担当も違う先生からもプリントを運ぶお手伝いを頼まれ、部活動での接点もない後輩達からも慕われて……裕也君、私の見ていない所で、一体どんな学校生活を送ってたの……。


「……」


 剣道場で正座をする私は、悟と裕也君の個人練習イチャイチャを眺めながら、裕也君の人望の厚さに呆然としていた。


 確かに裕也君は全人類から慕われていてもおかしくない(※個人のイメージです)完璧で素晴らしい人だけど、余程の努力がなければ、これ程の人望は集まらないだろう。


 それにこれだけ多くの人と接点があると、裕也君の好きな人を特定するのは難しい。

 砂漠から一粒の砂を探し出すようなものだ。いや、砂漠は少し言い過ぎかもしれないけど。


「優里ちゃん、難しい顔をしているけれど、何か悩みでもあるの?」

「都子先輩……」


 弟である和樹部長とお喋りしていた都子先輩が、私を心配してくれる。


 ううっ、都子先輩優しい……悟からは「なんか今日落ち着きないですね、拾い食いでもして腹壊したんですか?」と言われた挙句に腹を殴られたというのに……。


「なんだか今日の優里ちゃん、すごく真剣な顔をしているわ。名取君と何かあった?」

「悟とは……何もないんですけど」


 悟。そう言えば今日の朝、悟はどうして裕也君が落ち込むようなことを言ってしまったのだろう。

 落ち込んでいる人間なら簡単に落とせるとか、そんなゲスイ考えではないだろうけど……。


「……都子先輩、もし自分の好きな人に好きな人がいたらどうします?」


 考えてみれば、都子先輩に好きな人がいるなんて話聞かないし、この質問は少し無意味だったかな。

 そう思って「なんでもないです」と言おうとした時。


「そうねぇ」と、都子先輩が考える素振りを見せた。


 えっ、えっ、都子先輩好きな人いるの?


「私だったら、その恋が叶わないように裏から手を回すわ」


 百合の花のような可憐な笑顔で、とんでもないことを言い切る都子先輩。

 き、聞き間違いかな? 聖母のような都子先輩から悪魔のような言葉が聞こえた気がしたけど……。


「……あの、聞かなかったことにします」

「ふふっ、冗談よ」


 冗談に聞こえません。


「でもそうね、もし私の愛する人にそんな人がいたら、本当に邪魔をしてしまうかもしれないわ。それが愛する人のためではないと、わかっていても」


 私、みんなが思っているほど良い子ちゃんではないのよ――都子先輩は少しだけ寂しそうな顔をした。

 その表情を見て、私は裕也君の笑顔を連想した。寂しそうな、悲しそうな、諦めたような、そんな笑顔。太陽とはかけ離れた、曇り空のような。


 どこか裕也君に似ている都子先輩からなら、何か大切なことが聞ける気がした。

 周りから完璧だと思われて、優しい人だと断定されて、幻想の中で生きて来たであろう二人。


「都子先輩の好きな人って、誰なんですか?」

「内緒。この恋心は、ずっとずっと胸に仕舞っておく……そう決めたの」


 そう言って胸の前で拳を握り締める都子先輩。その好きな人に告白する気はないようだった。

 裕也君も、同じなのだろうか。二人とも魅力的な人なのに、自信がないとでも言うのだろうか。


「どうしてですか? 都子先輩だったら、誰に告白したって絶対オーケー貰えますよ! 魅力的な人ですもん!」

「ふふっ、ありがとう。でも自分に自信がないというわけではないのよ? 女を磨く努力だって沢山してきたし、その人のこと、私が一番理解しているって、自覚もしているし。でもね……」


 窓の隙間から、わずかに風が吹く。都子先輩の長い髪が、寂し気に揺れ動いた。


「私の恋は……少し、難しいから」


 そう言って都子先輩は、いつものように個人練習をする二人の姿を、見詰めていたのだ。


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