歪み
突然何を言い出すのかと思いきや、私の印象を悪くするための作戦だったようだ。
確かに水族館に行っていた設定にしておけば、あの日裕也君に私達の姿を目撃されていたとしても、「なんで隠してたの? まさか盗み見してたんじゃ……」なんて疑惑を抱かれることはないだろう。
隠し事は隠すから後々面倒なことになるのであって、最初から堂々としていれば拗れることがない。
悟もそう思ったから、あえて水族館の話題を出してきたのだろう。
なら、私も一応乗っておいた方がいいのかな?
「裕也君、輪投げは悟がやりたそうにしてたんだよ。イルカの飛んでる姿とか、キラキラした目で見ちゃってさぁ」
「水族館初めてだったんです、仕方ないでしょう。裕也先輩は土日、何してたんですか? まあどうせ、いつもみたいに家でゴロゴロ本でも読んでたんでしょうけど」
裕也君、休日はいつも家でゴロゴロしてるんだ、なんか意外……。
悟の口から発せられた裕也君情報に耳を傾けていた私は、ふと裕也君の表情が気に掛かった。
斜め下を向いて、心ここにあらずといった様子だ。
「……裕也君? どうかした?」
「……え?」
私が話し掛けてようやく我に返った裕也君は、私と悟を見て慌てて笑顔を取り繕ったように見えた。
「ふ、二人とも、もうデートなんてするようになったんだな。悟から何も聞いてなかったから、なんかビックリしちゃったよ」
私と悟は待ち合わせて水族館に行ったわけではないのだ、裕也君が悟から聞いていないのは当然である。
だがそれ程驚くべきことだろうか。一応私達は付き合っている設定なのだ、付き合い始めて二週間ほど経つし、デートぐらいしていてもおかしくはない。
いや、この関係自体おかしいんだけども。
「……」
「……」
「……」
何故か、会話が消える。
人見知りを発動している圭介はともかく、普段うるさい三上君や話を振った本人の悟が何も返さないなんて、やっぱりおかしい。
慌てて作ったはずの裕也君の笑顔も弱弱しいものになって、次第に消えてしまった。
先程までニヤニヤしていた三上君が責めるように悟を見ており、悟はと言えば、裕也君の消えてしまった笑顔をじっと見詰めている。
……え、なにこの空気。
突然訪れた重々しい空気に、私は一人で混乱した。
先程までいつもと変わらない会話をしていたと思ったけど、何か私がマズいことでも口走っただろうか?
少し考えて、悟が裕也君に「土日何してた」なんて質問をぶつけていたことを思い出す。
裕也君にとっての土日。その中の日曜日。
裕也君は、麗華様の告白を断ったのだ。
裕也君にとっていい思い出ではないだろう。
きっと今、その時のことを思い出してしまって、落ち込んでしまったのだ。きっとそうだ。
「……おいチビ助、お前――」
「――そうだ、今度はアイスクリーム食べに行きません? 優里先輩はショッピング好きですよね、付き合ってやるので今度予定空けといて下さいね」
「えっ……」
今三上君が何か言い掛けたけど、悟がそれを遮って強引に話をすり替える。
三上君が何を言い掛けたのかは想像もできないけど、三上君のこれ以上ない真面目な顔は、しばらく脳裏を離れることがなかった。




