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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第六章
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歪み

 突然何を言い出すのかと思いきや、私の印象を悪くするための作戦だったようだ。

 確かに水族館に行っていた設定にしておけば、あの日裕也君に私達の姿を目撃されていたとしても、「なんで隠してたの? まさか盗み見してたんじゃ……」なんて疑惑を抱かれることはないだろう。

 隠し事は隠すから後々面倒なことになるのであって、最初から堂々としていれば拗れることがない。


 悟もそう思ったから、あえて水族館の話題を出してきたのだろう。

 なら、私も一応乗っておいた方がいいのかな?


「裕也君、輪投げは悟がやりたそうにしてたんだよ。イルカの飛んでる姿とか、キラキラした目で見ちゃってさぁ」

「水族館初めてだったんです、仕方ないでしょう。裕也先輩は土日、何してたんですか? まあどうせ、いつもみたいに家でゴロゴロ本でも読んでたんでしょうけど」


 裕也君、休日はいつも家でゴロゴロしてるんだ、なんか意外……。


 悟の口から発せられた裕也君情報に耳を傾けていた私は、ふと裕也君の表情が気に掛かった。

 斜め下を向いて、心ここにあらずといった様子だ。


「……裕也君? どうかした?」

「……え?」


 私が話し掛けてようやく我に返った裕也君は、私と悟を見て慌てて笑顔を取り繕ったように見えた。


「ふ、二人とも、もうデートなんてするようになったんだな。悟から何も聞いてなかったから、なんかビックリしちゃったよ」


 私と悟は待ち合わせて水族館に行ったわけではないのだ、裕也君が悟から聞いていないのは当然である。

 だがそれ程驚くべきことだろうか。一応私達は付き合っている設定なのだ、付き合い始めて二週間ほど経つし、デートぐらいしていてもおかしくはない。

 いや、この関係自体おかしいんだけども。


「……」

「……」

「……」


 何故か、会話が消える。

 人見知りを発動している圭介はともかく、普段うるさい三上君や話を振った本人の悟が何も返さないなんて、やっぱりおかしい。


 慌てて作ったはずの裕也君の笑顔も弱弱しいものになって、次第に消えてしまった。

 先程までニヤニヤしていた三上君が責めるように悟を見ており、悟はと言えば、裕也君の消えてしまった笑顔をじっと見詰めている。


 ……え、なにこの空気。


 突然訪れた重々しい空気に、私は一人で混乱した。

 先程までいつもと変わらない会話をしていたと思ったけど、何か私がマズいことでも口走っただろうか?


 少し考えて、悟が裕也君に「土日何してた」なんて質問をぶつけていたことを思い出す。

 裕也君にとっての土日。その中の日曜日。


 裕也君は、麗華様の告白を断ったのだ。


 裕也君にとっていい思い出ではないだろう。

 きっと今、その時のことを思い出してしまって、落ち込んでしまったのだ。きっとそうだ。


「……おいチビ助、お前――」

「――そうだ、今度はアイスクリーム食べに行きません? 優里先輩はショッピング好きですよね、付き合ってやるので今度予定空けといて下さいね」

「えっ……」


 今三上君が何か言い掛けたけど、悟がそれを遮って強引に話をすり替える。

 三上君が何を言い掛けたのかは想像もできないけど、三上君のこれ以上ない真面目な顔は、しばらく脳裏を離れることがなかった。

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