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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第六章
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三上総司

「おはよう、亘理さん」


 いつもの通学路。いつもの十字路。

 私に気付いた裕也君が、キラキラ光る笑顔で挨拶をしてくれる。

 こちらまで頬の筋肉が緩みそうになるほど、輝いているのにどこか控え目で人懐っこい笑顔。

 私は裕也君のこんな笑顔が大好きだ。昨日からの疲れも吹っ飛びそう。

 疲れの原因は裕也君なんだけどね……。


 いつもならここで悟も私に挨拶をしてくる所だけど、今日はなぜか悟の姿が見当たらない。

 まあ裕也君の笑顔をこの目に焼き付けるのに集中していたから、悟の存在は一旦忘れることにしたけど。


「お、おはよう裕也君! 今日もいい天気だね!」


 裕也君の笑顔に見とれて何も考えていなくて、天気の話をしてしまった。

 話題がない時の話題ナンバーワンだよ、無理してると思われたらどうしよう……まあ無理してるんだけど。裕也君を前に平静を装うなんて出来ないもんっ!


「今はいい天気だけど、午後になったら雨が降るらしいよ」

「え、そうなの?」


 天気予報なんて全く見てこなかった。

 お母さんは私が折り畳み傘を毎日持ち歩いてると思ってるから、雨だとわかっていても私に傘を持たせようとはしない。

 私折り畳み傘、数ヵ月前の台風の日に壊したままなんだよね……。


「ひょっとして亘理さん、傘忘れた?」

「お、折り畳み傘持ってるよ」


 天気予報も見てこない子だと思われたくなかった私は、嘘ではない返答をする。

 持ってます持ってます折り畳み傘、台風により大破してるけど。


「そっか。悟は傘忘れたって言って、途中で一回家に戻ってるよ」


 なるほど、だから今ここにいないのか。

 悟の奴天気予報もちゃんと見てこないなんて、アホだなあ。


「先に行ってていいですよ、なんて澄ました顔で言ってたけど、必死で追い掛けてくるだろうと思ってここで待ってた」


 そう言っていたずらっぽく笑う裕也君。

 悟は澄ました顔をしているが、本音が行動に現れるので非常にわかりやすい性格をしている。

 なんでもないような顔をしながら缶にストロー刺そうとしてたりね! バカだね!


 裕也君も悟のそういう所はよくわかっているらしい。

「先に行ってていい」なんて、悟は本心で思っていないだろう。


 悟はいつだって裕也君の隣にいたいはずなのだ、それは私にもよくわかる。

 だから悟が必死で裕也君を追い掛けてくる姿もちょっとだけ想像できて、少し笑ってしまった。

 息を切らしながら「先に行ってていいって言ったじゃないですか」なんて言うのだろうか。


 なにそれ面白い、からかってやりたい。


「もうすぐで戻ってくると思うから、もうちょっと待ってようか」


 私は裕也君の隣に並んで、通学途中の雨野宮高校の生徒達を眺めながら、悟を待った。

 その途中。


「裕也、こんな所で何してるんだ?」


 その声を聞いた私と裕也君は、一斉に声の聞こえる方向に顔を向ける。

 見ると、裕也君と仲のいいクラスメイト、三上総司みかみそうじが走り寄ってきた。

 校則がゆるゆるの雨野宮高校では珍しくない茶髪と、ブレザーの下に着こまれたピンクのパーカー。チャラチャラしやがって……。


 まあ裕也君のクラスメイトって言ったら私のクラスメイトでもあるのだが、私はこの男子生徒、うるさいからあまり好きではない。

 それに、一年の頃、圭介の公開告白について散々からかってきたのがこいつなのだ。

 無視してたけど、一方的に嫌なことを蒸し返されるあの日々は、地獄だった……裕也君が助けてくれたけどね。

 思えば裕也君を好きになった原因を作ったのはこいつなのか、複雑……。


 そしてそんなチャラ男にも人懐っこいイケメンスマイルを向けるのは、我らが裕也君。


「後輩を待ってるんだよ。いつも一緒だから」

「ああ、あのクソ生意気なチビ助ね」


 クソ生意気なチビ助が聞いたら、にこやかに殺人事件を起こしそうなことを言う。

 ここにクソ生意気なチビ助がいなくてよかったな、三上君。


 と、ここでようやく三上君は、裕也君の隣に隠れていた私の存在に気付いたらしい。


「亘理じゃん、なんで裕也と一緒?」


 クラスメイトに怪訝な目で見られた。


「私も裕也君と同じ人を待ってるんで……」


 苦手な男子生徒に話し掛けられた。しかもチャラ男。不良だよ怖いよ……。


「ああ、そういえば亘理って名取と付き合い始めたんだっけ?」

「ま、まあ、一応……」

「俺不思議に思ってたんだけど、なんでお前らが付き合ってんの?」


 それは私も思っていることです。


「ふ、不思議って? 何が?」


 まさか、私達が本気で付き合ってないって気付かれた……? やばい、ばれたら私の超絶恥ずかしいラブレターがばら撒かれる……!


 なんて心配をしていた私だったが、どうやら違ったようだ。


「俺、亘理は絶対俺の事好きだって思ってたのになぁ~」

「……はあ?」


 ワントーン低めの声が出る。突然何を言い出すのだろうかこの人は。

 話したこともないし……え、ひょっとして三上君って自意識過剰さん?


「だって亘理、教室でいつも俺の事見てたっしょ?」


 ああ……それあなたの隣にいる裕也君を見てたんだと思うんですけど……。


「……亘理さん、そうだったの?」


 三上君の発言を真に受けた裕也君が、驚き戸惑っているような表情で私に問い掛けてきた。

 人の発言を鵜呑みにしちゃうところのある裕也君だ、今否定しなければ私の印象が最悪になってしまう。


「え! いや、まあ同じクラスなんだし、目が合うことはたまにあるけどタイプじゃないから!」


 本人を前にタイプじゃないと言い切る私。少し罪悪感。


「うわぁ傷付くよ亘理! じゃあなに、あのチビ助はタイプだったわけ?」

「いや、そういう訳じゃないけど……」

「亘理さんって、どんな人がタイプなの?」


 裕也君らしからぬ質問だった。

 偏見かもしれないが、裕也君は色恋沙汰に興味がないものだとばかり思っていたから、その質問には少し驚く。私のタイプを知ったところで、裕也君はどうするつもりだろう。


 うーん、タイプねぇ……強いて言えば裕也君ですけど。


「……優しくて」

「うん」

「……一緒にいると安心できて」

「うん」

「……笑顔が素敵で」

「うん」

「……元気をくれる人……」

「俺こう見えて優しいし笑顔も素敵だぜ? 毎日元気注入してやるよ?」

「間に合ってます」

「ルックス的には俺が好みっしょ?」

「チャラチャラしたのはちょっと」

「亘理って小さい男好みなの? ショタコンってやつ?」

「長身の方が好きですから!」

「じゃあなんであのチビ助と付き合ってるんだよ~、俺の方がよくね? 俺今フリーだからさぁ」

「いや、あの……」


 嫌がる私の肩に、腕を回してくる三上君。

 教室でも見てて思ったけど、この三上総司君、スキンシップが結構激しいのだ。

 男子女子構わずボディタッチをするし、よく教室で裕也君に抱き付いているのを見る。

 麗華様でさえ腕に抱き付く程度だと言うのに、この男は……。殴られるよりましだけどうぜぇ。


「おい総司――」


 友人の失礼な行動を見てか、裕也君も少しムッとした顔で三上君の腕を掴み、私から引っ剥がしてくれようとする。

 まあ、可愛い後輩にできた大切な彼女ですもんね、私は裕也君にとってそういう存在なんですもんね……。


「えー、いいじゃん亘理いい匂いするし~」

「に、匂いってお前!」


 三上君の変態的発言に、耐性のない裕也君が顔を真っ赤にしている。

 いつも爽やかな裕也君のとてもレアな表情を見た私が感動していた……丁度その時。


 ――三上君が吹っ飛んだ。

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