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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第五章
34/102

その後

 朝の教室。

 今日はいつもの十字路に行っても悟と裕也君の姿はなく、二人を待つことなく一人で登校してきた。


 元々待ち合わせをしていたわけではないし、悟が裕也君を引き連れて勝手に私を待っていただけだったので、いないのが普通だ。


 ……普通なのだが、どうも腑に落ちない。


 あの後ショーを見終えた観客がクラゲドームに流れてきて、「帰る」と一言だけ呟いた麗華様は一人でとっとと出て行ってしまった。

 悟も同じだ。悟は昨日の裕也君の言葉にショックでも受けたのだろう、一人になった裕也君に話し掛けることもなく、私を見ることもなく、一人でどこかへ行ってしまった。

 まあ帰ったんだとは思うが。


 私もあの状態で裕也君に話しかけることはしなかった。

 裕也君だって何か思うところがあるだろうし、何より私の尾行がバレる。


 だから私も麗華様と鉢合わせしないように気を付けながら、一人で家に帰った。

 折角裕也君とメアドの交換をしたのだから、遠回しに「裕也君って好きな人とかいる?」と聞いてみようとしたのだが、送信ボタンを押す勇気はなかなか沸いてこず……。


 うーうー、裕也君の好きな人、気になる……。


「お、裕也おっはよー! 遅かったじゃん!」


 裕也君と仲のいいクラスメイトの男子が、いつもより遅れて登校してきた裕也君の肩に腕を回す。

 悟が見たら憤慨しそうな光景だ、悟にとっては身長的にも不可能なスキンシップだからな……。


 なんて裕也君を眺めていたら、目が合った。

 思わず一瞬だけ目を逸らしてしまうが、勝手に尾行して勝手にモヤモヤして裕也君と気まずくなりたくはない。

 折角悟と付き合うのを代償に、裕也君と沢山お喋りできるようになったのに!


 私は再び裕也君と視線を合わせて、小さく手を振りながら「裕也君、おはよう」と呟いた。

 あまり目立ちたくないので、裕也君にだけ伝わればいい。


 そんな私からの挨拶を受け取った裕也君は、私にだけわかるように笑顔を向けてくれた。

 でもその笑顔は少しだけ疲れが滲み出ていて、そして悲しそうに見える。


 麗華様からの告白について、徹夜で悩んでいたのだろうか。

 もう振ったことに変わりはないが、これからのこととか考えたら、頭を抱えたくなる気持ちもよくわかる。人間関係面倒くさい……。


「裕也、麗華様とのデートはどうだったんだよー」


 突然の男子生徒の言葉に、私の肩がビクッと跳ねる。

 丁度麗華様の告白について考えていたのだ、心を読まれた気がして思わず反応してしまった。


 しかし麗華様と裕也君のデートは、全校生徒が事前に知っていたことだ。

 今日このタイミングで話題に上がるのは自然な流れと言える。


「なんだよ、デートじゃないよ」


 裕也君は否定するが、尾行していた私からすれば完全にデートだった。

 あの告白があるまでは、完全に恋人同士に見えた。


「休日に男女が二人きりでお出掛けの時点で、デートっつーんだよ」

「違うよ。あれはただ、どうしても外せなかった用事の埋め合わせで……」


 ん? どうしても外せなった用事の埋め合わせ……?


 なんのことだろう。

 ここ最近の裕也君の行動を振り返ってみて、私は一つの心当たりを見付けた。


 ……まさか、どうしても外せなかった用事って。


 ――悟の誕生日。


 察してから、私は自然と頬が緩む。

 悟の誕生日の日、麗華様に捕まっていたはずの裕也君。

 よく麗華様が解放してくれたなぁ、なんて少し疑問に思っていた。


 休日に二人きりで水族館に行く代わりに、悟の誕生日を祝いに行ったのだ。


 今まで周りに誤解されないよう、女子と二人きりで出掛けることを頑なに拒んでいた裕也君が、悟のために。


 ……まあ、本人に教えてやる必要はないだろう。絶対調子乗るし。

 絶対「裕也先輩、俺の為に渋々ロールパンとデートを……」とか言いそう。私の中に住まう悟のイメージがそう言っている。


「埋め合わせを口実にデートしてきたんだろ? デートならキスぐらいしたっしょ?」

「デートじゃないし、何も無かったよ」


 ――裕也君が、嘘を吐く。

 ここにいる人間の中で、私だけが知っている嘘。


「期待に沿えなくて悪かったな」

「なぁんだ何もなかったのかよー、残念」


 友人のその言葉で、昨日のデートの話題はそれっきり出てこなかった。

 ただいつものように笑っている裕也君。その笑顔は、いつも通りの完璧な笑顔だった。



    ※  ※  ※



 裕也君の好きな人。

 もしその人が裕也君と結ばれてしまったら、私達はどうすればいいのだろう。

 考えるまでもない。裕也君の幸せを願えば、身を引くのが一番。友人として「おめでとう」と言うのが一番。


 けれど、その程度で終わってしまうのだろうか。


 私の恋も、悟の恋も。


 裕也君に想いが伝わる前に、雪のように溶けて、無くなってしまうのだろうか。



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