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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第五章
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運命の瞬間

 悟は手を上げなかったことを後悔しているのか、元気良くステージへ向かう隣の子の後ろ姿を、羨ましそうに見送っている。

 悟、そっちじゃない! あなたの本命を見て!


 私は裕也君と目が合うのが怖かったので、すぐに視線を逸らして俯き加減。

 麗華様は「私も上げてたのにぃ」と残念そうに文句を言いながらもステージの方を見ていたので、こちらには気付いていないようだった。


 裕也君ももしかして、悟の隣の子を見ていただけで、悟には気付いていなかったのかもしれない。

 ここに悟がいるなんて考えもしていないだろうし、人間予想していないことは視野に入り辛いものだ。

 大丈夫、きっとバレてない。


 悟と私がデートしているなんて勘違いされたら堪らないよ、別行動してればよかったかな。

 でも同じ二人を尾行しているのだし、ちらちら視界に悟の姿が入って気が散るくらいなら一緒にいようと思って行動していたのだが……。


「優里先輩どうしました?」

「え、いや……」


 急に神妙な顔で黙りこくった私を怪訝に感じたらしい悟が、私の顔を覗き込んでくる。

 私じゃなくて裕也君を確認して!


 悟は数秒後、何を察したのか、私をバカにするようにニヤリと笑って、俯いたままの私の顔を覗き込んできた。

 私が俯いているから、悟は自然と上目遣いで私を見ていることになる。


 あざとい! でも全然キュンキュンしない!


 私の心臓は、裕也君がこちらを見ていたことに気付いてから終始バクバクしているだけだ。


「優里先輩、さては今の輪投げしたかったんでしょう。全くお子様ですね」


 困った人ですねぇ――そう言って腹が立つ顔で笑う悟。うっっっぜえ!


 もう見られていなくとも裕也君がこちらを気にしているのではないかと気が気ではなかった私は、満足に悟に反論することができず。


 結局「優里先輩はお子様」というありもしない謎のレッテルを貼られた。



    ※  ※  ※



 ショーもそろそろ終わるという頃、裕也君と麗華様が席を立って会場から離れていこうとしていた。

 これからショーはラストへ向かって一番の盛り上がりを見せるというのに、なぜこのタイミングで席を立ったのだろう。


 バレないように様子を窺うと、どうやら麗華様の方が飽きたらしく、裕也君の手を引いて――え、普通このタイミングで飽きますか? これからが最高潮ですよ!

 悟もステージに釘付けなんですもう少し待ってあげて!


 という私の叫びは麗華様には届くはずもなく。


「さ、悟、麗華様動いたよ! 裕也君も!」

「ちっ、あのロールパン……」


 舌打ちをしながらも、悟は二人から視線を外さないようにしながら静かに立ち上がった。

 私の助言を守っているらしく、二人と同時には動かない。感心感心。てかロールパンて……。


 私達は二人の後を追って、ショーが開催されていた会場から少し離れた『クラゲワールド』へやってきた。

 クラゲワールドは文字通りクラゲのみを展示しており、クラゲだけで水族館を作ってしまえばいいのにと思うほど数は多く、それなりに長いコースだ。


 クラゲが浮遊する水槽はカラフルにライトアップされ、一つ一つの水槽がディスプレイのように見える。


 足の長い真っ白なクラゲが水槽を漂う。その姿は華やかなウエディングドレスを連想させ、胸が痺れた。


「……綺麗……」


 私も思わず呟いてしまうほど、クラゲワールドは美しかった。

 クラゲにはヒーリング効果があるという情報は間違いではないらしい。

 ドキドキしていたはずの心臓が、クラゲを見ているだけで、すっと落ち着くのがわかる。


 さすがの麗華様もその美しさに頬を染めて、歩く速度も若干遅くなっていた。

 止まって見ればいいのにとも思ったが、ナマコの触れ合いコーナーと同じくどうやら行きたい場所があるようで、足を止める様子はない。


 ……クラゲの触れ合いコーナーは、さすがにないよね?


 しばらく歩くと、『クラゲドーム』というサブ看板の付いたスペースへ到着する。


 そこは癒しの空間としてウッドベンチが設置されていたりと、観賞だけでなく休憩スペースとしても使われている場所のようだ。


 出入り口がそれぞれ一つずつしか設けられておらず、その半ドーム型の展示スペースは大きなかまくらのような印象を感じさせた。

 幻想的な青い光に包まれたその空間は、まるで自分まで海の中にいるかのような錯覚を覚える。


 展示スペースの中心には、直径一メートル程の丸い形をした水槽が置かれており、その中ではミズクラゲがふわふわとその身を浮遊させていた。

 スペースの周りにも円柱水槽が置かれており、同じように様々な種類のクラゲが、ライトアップされたその姿を美しく輝かせている。


 ある意味閉鎖されたようなその空間に私達が着いて行けば、確実に鉢合わせするだろう。

 扉があるわけではないし、二人は出口側のウッドベンチに腰を下ろしたようなので、私達は入り口から顔を覗かせて二人の様子を観察した。

 二人の後頭部だけが、水槽越しに見ることができる。


 さて、ここに来るまでに私の中は嫌な予感でいっぱいだった。

 水族館に来ている客のほとんどは今、イルカとアシカのショーの大盛り上がりを楽しんでいて、クラゲドームにいるのは裕也君と麗華様の二人きり。そしてこのロマンチックな空間。


 そう――告白に最適なのである。


 そうですよね、サメの前で告白なんてしないですよね、告白ならこういうロマンチックな柔らかい空間でしたいですよね、その気持ちよくわかります麗華様。


 ……もう、これ、私達終わったんじゃ……。

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