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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第五章
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デート

「裕也のチョコ味、一口ちょうだい?」

「いいですよ」


 麗華様は裕也君のアイスクリームを一舐めして、「おいしい」と満足そうに笑っていた。


 くっ、あの二人、完全に恋人同士に見える……。


 私と悟はフードコートでアイスクリームを楽しむ二人を監視しながら、周りから怪しまれないようにテーブルに付き、ジュースを飲んでいた。


 悟はどこか緊張したような目で、笑い合う二人を真剣に見ている。

 私もあの二人がどうなってしまうのか物凄く気になるけれど、私の緊張と悟の感じている緊張は、なんだか少しだけ違うような、そんな感じがした。


 本当になんとなくだけど、「二人が気になっている」というより、「裕也君が気になっている」というか、なんというか。

 微妙すぎてどうでもいいような違いだけど、悟の目には裕也君しか映っていない。


 ……あっ、いつものことか。


「……あの二人、なんでデートしてると思う?」

「は? デートではないでしょう、あの女が裕也先輩を連れ回しているだけですよ」


 先輩に対してあの女って。

 ここに麗華様がいたらと思うと、夏も秋もふっ飛ばした早目の冬を感じる。


「でも、デートだと思ったから、悟も気が気じゃなくて尾行してたんでしょ?」

「だからあなたと一緒にしないでください。あの女と裕也先輩が上手くいくわけないでしょう」

「じゃあなんで尾行してたの?」

「たまたまです」

「じゃあその変装はなに」

「風邪です」

「……」


 これはダメだ。悟はどうしても、二人のデートが気になって尾行していたという事実を認めたくないらしい。

 その割には二人の様子をガン見してるけど、隠す気ないならわざわざ嘘吐かないでよ……。


「優里先輩、もし……もしもですよ」

「やめて、なんとなく聞きたくない」


 ものすごく不吉な例え話をされそうな雰囲気。逃げたい。


「もし龍宮先輩と裕也先輩が付き合い始めたら……」

「ガチで聞きたくない!」

「優里先輩は裕也先輩のこと、潔く諦めますか?」


 その「もしも」は近い未来のような気がしてならない。

 私は麗華様と裕也君が恋人同士になる未来を想像して、テーブルに突っ伏した。リアリティが高すぎる。


「やだやだ、想像したくない……」

「目を背けたところで何も解決しませんよ」


 どうして悟はこんなに冷静でいられるのだろう。

 裕也君と麗華様がデートすると聞いた時は、缶にストローを刺そうとしてたくらい、動揺していたというのに。

 冷静すぎても逆に怖いんですけど……。


「……悟は、裕也君と麗華様が付き合ってもいいわけ?」

「嫌に決まっているでしょう。裕也先輩に近付く女共は大抵嫌いですし。優里先輩も嫌いです」

「はい」


 ここで言い返したら長くなるので、私は悟の言葉を適当に受け流し、二人の様子を監視するのに集中した。

 すると二人はアイスクリームを食べ終わったようで、椅子から立ち上がっている。

 一階はあらかた見終わったので、二階にでも行くのだろう。


 予想通り、二人は階段を昇り二階へ向かった。

 隠す気のない悟はとっとと二人を追い掛けようとするが、私は悟の手を引いてそれを止める。


「ちょっと、なんですか優里先輩。邪魔しないで下さい」

「悟、尾行の対象と同時に動くのは素人のすることだよ」

「……」


 なにその顔。

 私は悟からドン引きの目を向けられながらも、二人を見失わないうちに立ち上がった。



     ※  ※  ※



「裕也、見て見てイルカ! めっちゃ飛んでる!」


 二階へ上がった裕也君と麗華様は、ペンギンとたっぷり触れ合った後、イルカとアシカのショーを観賞していた。

 私と悟も二人の視界に入らない後ろ側の席を取り、観客に混じってショーを楽しむ――じゃなくって、二人を監視する。


 ……していたはずだったのだが……。


「優里先輩! イルカ! 大きいですよ! めっちゃ飛んでます!」

「……めっちゃ楽しんどる……」


 しかも麗華様とシンクロしてる。


 イルカを見るのが初めてなのか、水族館に来るのが初めてなのか、悟はイルカのダイナミックジャンプを興奮した様子で見ていた。


 ふえぇ、これじゃあ普通に悟とデートしてるみたいだよぉ……。


「悟、あんまりはしゃぐと二人に見付かるよ」


 注意をして、ふと気付く。

 悟が純粋に楽しんでいる姿なんて、初めて見るのではないだろうか。

 いつもは他人を貶めて愉しんでるからなぁ……。


「……は、はしゃいでません」


 そう言って悟は、浮かせていた腰を静かに下ろして大人しくなった。

 目をキラキラさせていたのは完全に無意識だったようで、私に見られていたとわかると、私とイルカから完全に目を逸らしてしまう。


 いや、あの、楽しいなら見てもいいんだよ? ただ、テンションさえ自重してくれれば。


「悟、イルカ見るの初めてなの?」

「……初めてだったら悪いですか?」

「いや悪くないけど」


 不覚にも、イルカではしゃぐ悟を少しだけかわいいと思ってしまった。

 私幼稚園児とか小学生とか、可愛くて純粋な男の子には弱いからなぁ。

 計算された可愛さを出すんじゃなくて、そういう純粋な面を前面に出していけば、裕也君だって嬉しがるだろうに。


 裕也君は悟が楽しそうにしている姿を見るのが好きなのだ、きっと今ここに裕也君がいたら、楽しむ悟を見てあの天使の微笑みを浮かべるに違いない。


「……優里先輩とじゃなくて、裕也先輩と一緒に来たかったです」

「奇遇だね、私も」

「……」


 私に対する毒舌を華麗に返されて不機嫌な悟。

 ふふん、今のは勝った!


 と、私が鼻を鳴らしている間にショーは盛り上がっていた。

 どうやらアシカの輪投げが始まるようで、アシカに輪を投げる代表を募集し始めたようだ。


 周りの小さい小学生の子達が元気よく手を上げる中、悟は周りをキョロキョロ見回して何かを確認している。


 十中八九、自分も手を上げたいけど小学生しか上げていない中で手を上げるのは勇気がいるので躊躇しているのだろう。

 どんなに探しても、大人が手を上げている姿は見当たらず、小さな子供しか手を上げていない。

 麗華様を除いて!


 胸の所まで上げかけた悟の手は、行き先を失いそっと膝の上へ下ろされる。その間無表情。

 でも隣の子が代表に選ばれた瞬間、少し落ち込んだように肩を下ろしていた。


 ……めんどくせぇ!


 そんなに投げたいなら挙手すればいいじゃん! と思ったが、尾行している身でそんな目立つことを推奨できない。

 隣にいる私だって、きっとばれるだろうし。


 ……ん、いや、隣? 確か今選ばれた子は悟の隣に座っていた小学生の男の子で。

 こういう挙手する場では、当てられた人間に少なからず視線が集まるってことで……。


「……」


 悪い予感がして、私は裕也君と麗華様の方へそっと視線を移した。

 顔は動かさず、眼球だけを動かす流し目で。


 ――ばっちり、裕也君がこちらを見ていた。

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