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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第五章
30/102

尾行

 電車を降り、半年程前にリニューアルした県内最大の水族館に入っていく二人。

 広い館内には休日ということもあり、家族連れやカップルなど、多くの人々が闊歩していた。

 海の動物との触れ合いに力を入れているこの水族館は、ペンギンと触れ合えたり、ナマコや貝を素手で掴めるコーナーなど、心臓に悪いイベントが多い。ナマコを素手で触る意味って、何ですかね?


 私は二人に気付かれないようにこっそりチケットを買って、こっそり二人の後を着けた。


 こんな休日にこんな所に男女二人で来るなんて、本格的にデートではないか。

 きっとあの二人を見た人達の百人中百人が、「二人は恋人同士」だと思っているだろう。

 現に麗華様は裕也君の腕にぴったりとくっついて、鼻歌でも聞こえてきそうなほど上機嫌にヒールを鳴らしている。

 どこからどう見ても、羨ましくも微笑ましい美男美女のデート風景だ。


 そしてそんな華やかな二人を尾行している私。

 情けない気持ちになるが、これをきっかけに二人が本格的に付き合い出したなんてことになれば、私が今まで堪えて来た悟との恋人関係自体が無意味になってしまう。

 そんな残酷で無慈悲な結末受け入れられない!


 とはいっても、私には何もできない。

 別に二人の邪魔をしてやろうとか、そんな考えの為に二人を尾行しているわけではないのだ。

 ただ麗華様が今日、このデートで、裕也君に告白するのかどうか……そして裕也君はどんな決断を下すのか……それが気になって昼寝も出来ないから、こうして無意味な尾行を続けているだけで。


「うー……私も裕也君に引っ付きたい……」


 二人はエントランスホールを抜けて、スタート地点であるウェルカムホールへ入っていった。

 人が多いとはいえ、今は丁度野外で行われているイルカショーとアシカショーの時間帯で、多くの人はそちらへ流れていったらしく、中は思っていたより空いていた。


 二人はショーを見に行かないのかと少し疑問に思ったが、ショーは一時間半置きに行われているので、もしかしたら一時間半後のショーを見るという予定なのかもしれない。


 ……何時間も楽しむつもりか、くっそう……。


 二人の後にウェルカムホールへ入ると、巨大なスクリーンが海の映像を流していた。

「自然と人との繋がり」というテーマらしく、様々な命を生み出す海の姿や、海と生きる人々の活気溢れる姿がスクリーンいっぱいに映し出されている。

 麗華様はそういう自然の素晴らしさには興味がないようで、やけに早くウェルカムホールを抜けていった。


 もっとじっくり見ていきましょうよ麗華様! 私もっとじっくり見たい!


 と、その場にいない部外者が勝手なことを思ったところで麗華様の足が止まることはなく、道なりに進んで「日本の海コーナー」へ。


 頭上に張られた水槽からは、人工のものではない太陽光が照らし出すマボヤの姿が見えた。

 ロープに付着したマボヤの間を縫って泳ぐ小魚が、ちょこまかしていてなんとも可愛らしい。


 そんな光景を下から覗いて楽しんでいる間に、裕也君達は奥の方へ移動していた。

 仕切りのない巨大な水槽が、群れで泳ぐ小魚の姿を視界いっぱいに映し出す。

 太陽光で反射する魚達の姿は、いつまで見ていても飽きない。


 だがこれも飽きてしまうのが麗華様!

 麗華様は見たい魚でもいるのか、裕也君の腕をどんどん引いて奥へ奥へ進んでいく。

 もうちょっとゆっくり行こうよ……。


 遠足中の幼稚園児などがいないので、中は随分静かだ。

 だから麗華様と裕也君の会話が、遠くからでも聞こえて来た。


「ねえ裕也、この魚の顔超ウケる」

「本当だ、かわいいね」

「ね! 超かわいい!」


 さっきあなた「超ウケる」って言ってじゃないですか!


 暗いので顔を見られる心配もなくなり、私は普通の客のように適当な水槽を眺める振りをしながら、二人と一定の距離を保ちつつ館内を進んでいった。

 神経が擦り減りそう……。


 麗華様は深海魚コーナーを素通りして奥へ行ってしまったが、私は誘惑に耐えきれず、大好きなオオグソクムシを一目でも見たくて、一人深海魚コーナーへ向かった。


 折角水族館に来たのにオオグソクムシを少しも見ないだなんて、麗華様ったら勿体ない!

 少しだけ。少しだけ目を離したって、二人を見失うことはないだろう。人も少ないし、一本道だし、本当に少しだけ……。


「……! はわぁ!」


 ああいた! オオグソクムシ! 思わず変な声出た!

 ダンゴムシのような見た目で、ここにいるのは十センチほどの大きさだ。数えると三匹。

 びくともしないけど、見ているだけでかわいい!

 キモ可愛い深海魚の代表だと思う!

 あの二人がお土産コーナーに寄ったら、私もオオグソクムシのグッズ買って行こう……。


 よし、一目見れただけで十分だ。今度はあの二人から目を逸らさないようにしない、と……。


「……あれ?」


 二人がいた方向に視線を戻すが、そこに二人の姿はなかった。


 え、嘘、さっきまでそこにいたのに、どこ行っちゃったの……?


 慌てて先に進むが、二人の姿が見えてこない。見えてこないまま、とうとう一階の展示コーナーを一周してしまった。まさかもう二階に? それともフードコート? ミュージアムショップ? 売店? はたまたもう一周?


 わからない。きっと裕也君は麗華様に引っ張られていったのだろうけど、肝心の麗華様の行動パターンが読めない以上、二人の行方を想像することができなかった。

 入り口で張っていれば確実だろうけど、いつになるかわからないし、その間に麗華様が裕也君に告白でもしていたら……裕也君がそれを受け入れていたら……。


「あーもう!」


 私は取りあえずがむしゃらに探してやろうと、フードコートへ方向転換。


 その瞬間、見知った姿が視界に入った。裕也君でも、麗華様でもない。そいつは――


「……悟、何やってんの?」

「っ……!」


 壁に身を隠し、何かを監視していた様子の悟に後ろから声を掛ける。

 第三者視点から見たら怪しすぎるんだけど。私もこんな感じだったのかな、くっそ恥ずかしい……。


 突然私に声を掛けられた悟は余程驚いたらしく、肩をびくっと跳ねさせて縮こまり、恐る恐るといった体で振り返った。

 そして話し掛けてきたのが私だとわかると、緊張で強張っていた表情をふっと緩め、大きな溜め息を吐く。


「はあ……あなたですか……」

「何その溜め息。あと何そのマスク」


 悟は顔にマスクを付けており、その奇妙な行動と相まって更に怪しく見える。まあその奇妙な行動の理由は、私と一緒なんだろうけど……。


「悟もあの二人が気になって後を着けてたの?」

「あなたと一緒にしないで貰えます? 偶然、たまたまです」

「じゃあなにそのマスク」

「今風邪引いてるんです」


 嘘臭っ!


 悟が先程まで見ていた場所を見てみると、案の定麗華様がナマコの触れ合いコーナーで楽しそうにはしゃいでいた。

 って、麗華様、ナマコ触りたくてあんなに急いでたの?

 ナマコなんてきもいとか言ってスルーするイメージだったのですが……。


「たまたまこんな休日に優里先輩と会うなんて、最悪です。学校では嫌でも顔を見合わせなきゃいけないっていうのに」

「ねー、本当にねー、そうだねえー」


 幼稚園児に話し掛けるような口調で「はいはいそうですかー」と言うと、悟にボディーブローをかまされた。これ後からじわじわくるからやめてくんないかな……。


「なんで殴った……」

「馬鹿にされたような気がして」


 休みの日にまで殴られるとか、ツイてない……。いや、学校で殴られるのも嫌だけどさ。


 結局目的が一緒である私と悟は、どういうことか一緒に行動することになった。


 思ったけどこれ、裕也君に見付かったら、確実にデートだと思われるよね……?


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